第2章ー19
裏折衝を済ませて、スペイン青師団司令部に、アラン・ダヴー少佐が復帰したのは、7月も中旬になろうとする頃になっていた。
スペイン青師団の広報参謀として、トルコ以外にも各国の軍司令部等を色々と回るうちに、時間が掛かってしまったのだ。
「トルコ以外にも、色々と回らせて済まなかったかな。顔が広いから、とつい頼ってしまった」
「いえ、仕事ですから」
日本流に言えば、同じ釜の飯を食ううちに、ダヴー少佐は、グランデス将軍の子飼いの部下といえる存在になっていた。
それもあって、グランデス将軍は、厄介ごと、各国との折衝をダヴー少佐に依頼していたのだ。
勿論、スペイン本国から動いてもらってもいいし、ダヴー少佐以外にも司令部要員はいるのだが。
スペインは表向きは中立国なのだ。
あくまでも義勇兵として、スペイン青師団はいるのであり、スペイン本国も中々、動きづらいという状況にあった。
(また、グランデス将軍は、実はフランコ総統との関係が微妙なところがあった。
グランデス将軍は、そんなに政治的野心はなく、軍人らしい軍人なのだが、スペイン内戦の勇将であり、国内の人気が高く、フランコ総統にしてみれば、ひょっとしたら周囲が担ぎ上げて、グランデス将軍に自分の寝首をかかれるのではないか、という疑念があった。
当然、グランデス将軍も、フランコ総統が、自分をそう疑っているのを察している。
そのために半部外者であるダヴー少佐に、外国との折衝を基本的に依頼していたのである)
「そろそろ、日本海軍が、トルコ海軍の応援に駆けつけます。2個駆逐隊といったところですが、オデッサ攻防戦の支援としては、充分なところでしょう」
「それにしても、巡洋戦艦「ヤウズ」まで出してくれるとは、トルコ海軍も気前がいいな」
「元宗主国としての勢威を示したいのでしょうね」
「成程な」
二人は苦労もあり、少しひねくれた会話をした。
ちなみにルーマニア海軍は、駆逐艦4隻を主力とするのみであり、旧式とはいえド級戦艦「セヴァストポリ」等を保有するソ連黒海艦隊への太刀打ちは不可能と言って良かった。
だからこそ、巡洋戦艦「ヤウズ」を保有するトルコ海軍が参戦してくれることは有難かった。
更に、日本海軍の駆逐隊が駆けつけ、また。
「伊空軍が来てくれることになりました。対艦攻撃の腕前を、ウクライナ等の女性陣に見せつける絶好の機会ですよ、と伊空軍上層部にささやいていたら、妙に現場がやる気を出して、行きたいと言ったようで」
「本当か」
「冗談です」
「冗談とは思えないな」
二人は思わず笑いかわした。
「7月下旬には、オデッサを攻撃できる準備が整うでしょう。空と海からも攻囲し、港湾都市を攻撃する。それこそペロポネソス戦争のアテナイ攻略戦以来の基本で古臭い方法ですが」
「それが港湾都市攻撃においては、基本の方法だからな。その基本さえできないのに、オデッサ攻略にルーマニア軍が逸ってもどうにもならない」
「自分の実力を弁えてもらわないと困りますからね」
「そういうことだ」
二人は更に会話を深めた。
「ところで、オデッサの防衛態勢は、どのような状況になっているのです」
「ソ連としては、第一次攻防戦でルーマニア軍を撃退できたことで、オデッサを英雄都市と宣伝してしまった。実際、オデッサ攻防戦が初期の戦闘において、明らかにソ連軍が勝利を収められた唯一の戦闘と言って良い結果になったからな。だから、様々な支援が黒海から行われている。だが」
ダヴー少佐の問いかけに、グランデス将軍は笑みを浮かべながら言った。
「空と海から包囲できるようになれば、ソ連軍は自らの重みに却って喘ぐようになる。オデッサを守備するソ連軍を自壊させよう」
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