第2章ー16
とは言え、ルーマニア軍だけでオデッサを攻略するというのは無理がある、とアイゼンハワー将軍は諸般の事情(表立っては言えないが、ルーマニア軍の実力を精査する程)から考えた末、スペイン青師団を支援のために付けることにした。
これはある意味では、スペイン青師団としては、望むところだった。
「それこそ、上手く行けばですが、チロル=カポレット戦役における日本海兵隊の役を果たせます」
「うむ。確かにその通りだな」
アラン・ダヴー少佐の力説に、グランデス将軍もそう答えた。
南方軍集団の中で、スペイン青師団の戦力は、ほんの僅かな小戦力だ。
だから、主戦線といえるキエフ方面にスペイン青師団が向かっても、活躍が埋没してしまう。
だが、オデッサ攻防戦となると、支戦線であり、相対的な戦力が小さくなるので、スペイン青師団が活躍できる余地が大きくなるのだ。
そして、オデッサへとルーマニア軍とスペイン青師団は向かったのだが。
「歓迎の程度が、村によって違いますね」
「より正確に言うと、その村の住民の宗教の違いだな」
「東方典礼カトリックと東方正教の対立を、我々が直に味わうことになるとは」
そう、グランデス将軍を指揮官とするスペイン青師団司令部は会話を交わす羽目になった。
オデッサに向かうスペイン青師団を暖かく花束や、パンと塩で出迎えてくれるのは、東方典礼カトリックの信徒たちが主だった。
彼らにしてみれば、東方正教からの迫害から自分達を護ってくれる存在が来たのだ。
その一方で。
東方正教徒の多くは、スペイン軍を白眼視し、ルーマニア軍を花束や、パンと塩で出迎えた。
彼らにしてみれば、カトリック信徒から基本的になるスペイン軍は、共産主義者と同じ存在だった。
これは厄介な土地に来たものだ、口には決して出さなかったが、内心でそう思いながら、スペイン青師団の面々はオデッサへと向かった。
オデッサへ向かうにつれて、スペイン青師団の不安は強まる一方だった。
オデッサは言うまでもなく港湾都市である。
従って、オデッサを攻撃するならば、基本的に海上も封鎖してしまう必要がある。
だが、ルーマニア軍は海上戦力の不足から、陸上からの攻撃のみでオデッサを落とそうとしていた。
しかも、進軍はノロノロとしたもので、6月下旬以降にオデッサへの攻撃を開始すると(連合国軍内部のみに対してではあるが)ルーマニア軍は公言する有様だった。
ルーマニア軍は、徒歩での進軍の困難さから、やむを得ないと主張していたが、他の連合国軍はその行動の遅さに呆れかえった。
6月下旬となると、進軍が遅れていた南方軍集団も、部隊の再配置により、進撃が活性化したことや、更に北部、中央の戦況悪化により、ソ連軍の予備部隊の多くが南方戦線から転出を余儀なくされることによって、連合国軍の上層部においては、大雑把に言ってだが、連合国軍によって、ドニエプル河以西を基本的に制圧し、クリミア半島を陸の孤島(ケルチ海峡を通じて移動可能なので、完全な陸の孤島とは言い難いが)にできると判断されていた。
「ルーマニア軍は、やる気があるのか」
口の悪いパットン将軍らは、それを聞いて怒る前に呆れかえった。
だが、これはスペイン青師団にしてみれば、幸いなことだった。
色々と裏で画策する時間が取れることになったからである。
「どうすべきかな」
グランデス将軍は、青師団の幕僚達に問いかけた。
何をするかは、言うまでもない。
「トルコを引き込みませんか。トルコ海軍に来てもらうのはどうでしょうか」
ダヴー少佐は提案した。
「ふむ。カトリックよりイスラム教徒の方がマシ、と東方正教徒は言うからな」
グランデス将軍は、ダヴー少佐の提案に乗ることにした。
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