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第2章ー7

 5月19日の夜が来ようとしていた。

 今日一日の日ソの戦車同士の戦いは、日本軍の方が優勢とはいえ、ソ連軍も勇戦している。

 明日も戦いが続きそうな気配を、お互いに漂わせつつ、日ソ両軍の部隊は対峙していた。

 だが、その一方で。


「リガ市が、日米の海兵隊の攻囲下にほぼ落ちたという情報が、ソ連軍の耳にも入ったようです。前面の部隊をリガ市方面に向けることを検討しているようで、前面のソ連軍の通信が異常に活発になっています。通信内容の解読が出来れば、より正確な内容が分かるのですが、そこまではできていません」

「ご苦労。それだけでも充分だ」

 山下奉文大将は、情報士官の報告に労いの言葉を掛けていた。


「やはり、ソ連軍は後ろを気にせざるを得なくなったようだな」

「ええ、地図を詳細に検討する限り、前面のソ連軍が重機材等と共に、西ドヴィナ河を渡って撤退するとなると、リガ市を通らざるを得ません。他の橋は米第3軍の手に落ちる方が早いでしょうから。また、後方からの補給維持の観点からも、リガ市が日米の海兵隊の手に落ちては、前面のソ連軍は崩壊するという事態が起きかねません」

 山下大将と、参謀長の桜井省三中将は会話を交わした。


「リガ市の橋が、我々にとって、遠すぎた橋にならねば良いが」

「そうならないように、連合国の海軍が、大規模な支援を日米の海兵隊に行っているのでしょう。今や、前面のソ連軍の方が、リガ市の橋を遠すぎる橋と思うようになったかもしれません。何しろ、リガ市を攻囲している日米の海兵隊を排除しないと、前面のソ連軍は、重機材と共にリガ市の橋を渡って撤退できません」

「確かにその通りだな」

 二人は更なる会話をした。


「参謀長が、前面のソ連軍を率いる立場だったらどうする」

「半分で前線を支え、残り半分で後方に陣地を築き、陣地を築き終わったら、陣地を築いた部隊が陣地を死守している間に、前線部隊を後退させます。そして、前線部隊が、今度は陣地を築いて、という繰り返しの道を選ぶでしょうね。もっとも、そんな時間もないと考えるかも、そうなると西ドヴィナ河方面への全面撤退をソ連軍は図るということになるでしょう」

「自分もそう思う」


「どちらにしても、ソ連軍は基本的に撤退を選ぶという考えで、お互いの考えは一致しているな」

「はい」

「他の参謀の意見も、当然、聴取するが、ソ連軍は今宵の内に撤退を始めると考えるか。我々は、明日以降はこれに追撃を掛けていくことになるか」

「そうなるでしょうね」

 山下大将と桜井中将は考えを一致させ、他の司令部参謀の意見も聴取したうえで、行動を立案した。

 その一方。


「ともかく寝ろ。興奮して寝られなくとも、目をつぶって、横になれ」

 部下の中の初陣の兵を、右近徳太郎中尉は、半ばなだめすかしながら、寝かしつけていた。

 内心では無理もない、と半ば諦観している。

 大量の戦車と遭遇し、味方の戦車と連携して戦い、何とか生き延びたのだ。

 運が悪ければ、死んでいてもおかしくないし、実際に自分の率いる小隊の内2人は実際に死んでいるし、病院送りになるほど負傷した者は5人もいる。

 自分自身も、擦り傷を負い、衛生兵に簡易処置をしてもらった。

 軽傷だからと、放っておいて、破傷風や壊疽等になったら、シャレにならないからだ。

 こうした中で無傷で生き延びられた初陣の兵が、興奮して眠れないのは無理もない。

 だが、その一方で。


「今日も自分は生き延びられた。何としても生き延びねば」

 そんな想いが、自分の心の片隅で思い浮かぶのを、右近中尉は否定できなかった。

 何のため、と他人に問われれば、祖国のため、と自分は答える。

 だが、実際には。

 自分の様々な想いのため、と答えるだろう。

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