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第7章ー8

 こういった様々な要因が絡み合った結果、江西省や福建省等において、日本軍に投降してきた共産中国軍の将兵の運命は、極めて苛酷なモノとならざるを得なかった。

 日本軍としては、現地住民の感情を宥めるためにも、投降してきた共産中国軍の将兵の中に、現地住民を過剰に搾取して物資の掠奪なり、極端なことを言えばだが、犯罪摘発を名目に現地住民の虐殺等を行うなりした者がいないのか、を探さざるを得なかった。


 とは言え、その現場に日本軍の将兵が居なかった以上、それは現地住民の告発に頼らざるを得ない。

 そして、過剰な現地住民の恨みは、しばしば間違った告発を共産中国の将兵に対して行わせた(らしい)。

 実際、告発を受けた後、身の潔白を訴える共産中国軍の将兵が続出しており、中立的な第三国の研究者が、遺されていた記録を精査した結果、少なくともその一部については、その現場におらず、全くのえん罪だった公算が高いことが発表されている。

 だが、実際のところ、共産中国軍の将兵の多数については、現地住民の告発を否定することが出来ない、とされてはいるのだが。


 この後、長きにわたり、現地住民のこの告発の信頼性については論争が交わされることになった。

 一部が否定されている以上、それ以外も信頼できない、と主張する者、そうは言っても、そもそも否定の根拠が信頼できるのか、被害者である現地住民の告発を信頼すべきだ、と主張する者等々が入り乱れ、お互いの主張を行う事態が発生したのである。


 そして、日本陸軍もこの論争に必然的に巻き込まれざるを得なかった。

 当時の岡村寧次大将以下、日本陸軍はこの件について、どこまでの責任があるのか、という問題である。

 その告発現場にいた以上、その信頼性を判断できたはずで、それに応じた対応が為されるべきだった、という主張がしばしばなされた。

 そうすれば、えん罪は無かった、日本陸軍は偏見からえん罪被害を引き起こした、といわれたのだ。


 しかし、現実問題として言うならば、それは極めて困難だったとしか、言いようがない話だった。

 当時の現実からすれば、その現場においては、被害者側の声が圧倒的に大きかったのであり、現地の治安維持を進める観点からも、日本軍としては、被害者である現地住民側に基本的に立たざるを得なかった。

 それに現地住民が過剰な報復に奔るのも無理がない側面があった。


 江西省や福建省等は、1937年の中国内戦本格化以降、表向きは平穏な状況が続いたために、却って最前線への人員や物資供給が最大限に求められ続けていた。

 そのために餓死者が出る有様で、しまいにはこの土地には戦禍が直接は及んでいないのに、我が子を食べさせることはできず、我が子が飢えに苦しむようになり、自分自身も飢えに苦しんだ母親同士が相談して、子を取り換えて食べる惨事さえ起こる有様だった。

 しかも、それを抗米、抗日美談として賛美する話にすり替えられては。

 地獄の日々を生き延びた現地住民の一部が、過剰な報復に奔るのも無理はなかった。


 そして、このように飢餓が蔓延しては、当然のことながら、疫病も猛威を揮うことになる。

 江西省や福建省等の住民は、飢餓や疫病によって、日本軍が入り込むまでに5年間で半分以下に減っていたとされている。

 更に出征して還らなかった若い男性もいる。

 それらを全て併せれば、江西省や福建省等での住民は、3割台しか生き延びられていなかった。


 1942年末までに、日本陸軍は江西省や福建省等を、ほぼ制圧下に置くことに成功し、蒋介石政権、満州国がそこを統治することになったが。

 満州国から派遣された官吏等は、荒廃のために住民が激減している惨状に絶句せざるを得なかった。

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