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第7章ー6

 そのような大惨事が、四川省や青海省では起きていた一方で、その頃、日本陸軍の主力は、武漢三鎮の陥落等により、共産中国政府の統治下から完全に孤立した江西省や福建省等の制圧任務に当たっていた。

 とは言え、この任務も実際に当たる将兵にしてみれば、色々と気が重い任務となった。

 何故かというと。


「厦門市に入城しましたが、かなり荒廃していたそうです。上から下まで民心が荒廃しています」

 今村均中将は、上官である岡村寧次大将に報告していた。

 岡村大将は、その報告を渋い顔で聞かざるを得なかった。


 1937年から本格的に再開された中国内戦において、健康な若い男性は片端から徴兵されて、最前線に送られて行った。

 遺された農地等は、老人や女性、子どもが主となって維持していたが、限界がある。

 そして、農地を富ませるのに必要な肥料等の物資も、軍需製品優先のために徐々に不足していった。

 農業生産量が、中国各地において徐々に減っていくのはやむを得ない話だった。


 そうした中でも集団農場では、従前どおりの穀物量等の供出が義務付けられた。

 現場を知らない上層部は、生産量が減少しているので、従前通りの供出は困難である、と報告してくる集団農場のトップ等には反革命罪等の罪名を付け、片端から処断した。

 従前どおりの生産を行わない(厳密に言えば、行えないのだが)というのは、日米との戦いにおいてサボタージュを行っており、反革命罪や通謀利敵罪等の罪名に問われても当然という空気が漂った。


 状況(戦況)が悪くなる程、精神論が横行するようになる、というのは古今東西でよくあることだが。

 この時の共産中国統治下の中国本土でも同様の事態が起こっていた、といっても過言では無かった。

 現実論(人手が足りない、物資が足りない等の主張)に対しては、精神論者は上手くいった一部の事例を取り上げる等の主張を行って、努力不足等の主張をするのだ。


 確かに努力等の精神論が全く不要、全面的に有害ということは無い。

 しかし、努力すれば誰もがテストで100点をとれる訳ではないし、全員が同様に仕事ができるという訳では無いのだ。

 一部の地域では、様々な努力を駆使して生産量を落とさずに済ませているから、といって、他の全ての地域が同様に生産量の維持ができるのか、というと、そんなことは無理だった。

 それこそ24時間完全対応を常に下請けや労働者に求め、それができなければ、無能等といって叩くようなものである。

 その結果。


 江西省や福建省では、更なる荒廃が促進されてしまった。

 忖度せずに正直に行動する人間は、片端から反革命罪等の嫌疑で粛清された。

 生き延びるのは、忖度して上におもねり、下に苛酷な面々だけだった。

 一部の民衆が激怒して抗議をしようにも、元気で若い男性は徴兵されておらず、遺されているのは老人や女性、子どもといった面々である。

 そういった面々が抗議行動を行っても、武力をもって容赦なく弾圧される悲劇が待っていた。


 更に弾圧部隊の方にも悲劇が待っていた。

 こういった弾圧に充てられるのは、故郷を失った部隊がほとんどだった。

 例えば、主に山東省出身者で編制された部隊が、敗残の果てに福建省での治安維持に充てられる等の事態が発生していたのだ。

 言うまでもなく、山東省は満州国、日米連合軍の支配下にあり、そういった部隊の構成員が、故郷に還るということは、事実上は不可能な状態に置かれている。


 そのために彼らは故郷に還りたいと望むならば、こういった弾圧に強硬に対処せねばならない、という心理状態に置かれてしまっていた。

 抗議行動を行うのは、日米に通じた裏切り者どもなのだ。

 彼らが抗議せねば、自分達は前線に行けるのだから。

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