エピローグ【イラストあり】
恋心がわからないと言っていた松雪さんは、きっと男子小学生みたいなものだったのかもしれない。
恋愛よりも友達とワイワイ遊ぶ方が好きで。悪戯好きだったり、親に内緒でお菓子を食べている無邪気な笑顔が、彼女の子供っぽい部分を表していた。
それじゃあ、男子小学生が成長したら、次はどうなるのか?
「比呂くんの……とても良かったです♡」
……まあ、順調にいけば男子中学生みたいになるよね。
あれから──あの忘れられない夜から、僕と松雪さんの交際が始まった。
丁度、冬休みの始まりだったこともあって、僕たちはたくさんの時間を共有した。
そして……毎日のように身体の相性の良さを確かめ合った。
今日もベッドで二人きり。松雪さんは満足げな息を漏らしながら、愛おしさを込めた目を僕に向けていた。
どうやら性に目覚めたばかりの松雪さんは、初めての快楽に夢中になってしまったようだった。
あの夜……欲望の制御が利かなくなった彼女を宥めるのは大変だった。僕も初めての体験に興奮してしまったけど……なんとか理性を働かせて大惨事にすることだけは避けられた。
「松雪さんの新たな一面が見られて、まあ……嬉しかったよ」
「わ、私だって自分があんな風になるなんて考えたこともありませんでしたよっ」
今更顔を真っ赤にして恥ずかしがる松雪さん。あの本能剥き出しの姿を見てしまうと、羞恥心を感じるのが遅すぎる気がしなくもない。
「でも、こんなにも求めてしまうのは……比呂くんだからですよ」
そう言って松雪さんは、僕の胸に顔を埋める。
無意識で彼女の頭を撫でてしまう。サラサラの黒髪の感触が返ってきて、くすぐったいような甘い感情が胸に広がる。
あの時はスイートルームの豪華なベッドで、今は僕の自室のベッド。全然違うのに、彼女の可愛さは変わらない。
それはきっと当然のことなんだろうけど、この気持ちが勘違いや錯覚ではないのだと証明できたようで安心する。
──松雪さんは今まで誰にも言えなかったという不満を、僕に全部吐き出した。
小さいことも大きいことも関係なくて。家や学校や人間関係……自分への苛立ちまで、全部を打ち明けてくれた。
それがどれほど勇気がいることだったか。僕にはわかる気がした。
悩んでいるけど、他人からすれば些細なことで……。自分が間違っていると思うと人に相談なんかできない。
僕と松雪さんは、そういった根本的なところではよく似ていたのだ。
だから僕も話した。しょうもない悩みや自分のカッコ悪いところ含めて、溜めてきたものを吐き出した。
そうすることで、僕たちはお互いを認め合い、ようやく自分自身を認められる気がしたから。
どこか不安定だった気持ちが、確かな形となっていく。
「ん……」
大切な存在を、この手で確かめる。
一緒にいることで、心の奥にあったものまで、自然と溶けていくみたいだ。
心が軽くなって、温かくなって……満たされるという意味を知った。
「好きだよ、松雪さん」
「うーん、五十点ですね」
いきなりの採点に、僕は目を白黒させる。
「今こそ……名前を呼ぶ時ではないのですか?」
期待のこもった上目遣いを向けられて、顔がかぁっと熱くなる。
そうだ、ここまでの関係になったのだ。いつまでも「松雪さん」と呼ぶのは不自然だ。
少しの緊張。それでも今の関係を思えば、できないことじゃなかった。
「……綾乃。僕は綾乃のことが好きだよ」
「~~っ!?」
綾乃が頭を僕の胸にぐりぐりと押しつけてくる。照れているらしい。
「比呂くんは……もうっ……もーっ」
綾乃が「もーっ」と連呼しながら、くっつくところがないってくらい肌を密着させてくる。
彼女の鮮明な感触に、頭がどうにかなりそうだ。
「……もう一回」
「もう一回?」
名前を呼べばいいのかな? そう思って口を開きかけた時、彼女は切なげな声で言う。
「もう一回……したいです」
「……」
清楚なサキュバスに、僕の脳はやられてしまったのかもしれなかった。
だって、こんなおねだりを聞いて、心の底から愛おしさが溢れてくるのだから。
◇ ◇ ◇
「比呂くんは俺の想像を軽々超えてくるね」
今回一番お世話になった隼人さんには、綾乃との関係の進展を伝えないわけにはいかなかった。
もしかしたら怒られるかもしれないと覚悟していたものだけど、隼人さんは僕の肩に手を置いて「さすがだ」と言って、無表情でサムズアップした。
もちろん報告したい人は隼人さんだけじゃない。
でも、新学期が始まったら……まず最初に報告する相手は決めていた。
◇ ◇ ◇
──そして、新学期。
「比呂先輩……話って、何?」
冬の冷たい風が吹く校舎の屋上に、僕は城戸さんを呼び出した。
彼女に、綾乃との関係をきちんと伝えるために。
「そっか……」
城戸さんはそれだけ呟いて、視線を落とす。
城戸さんから告白を受けていたわけじゃない。もしかしたら僕のことを好きかもしれない、という予測でしかない。
だけど、彼女にはちゃんと伝えなければいけないって思ったんだ。
「うん……」
それ以上の言葉を持っていなくて、沈黙するしかない。
城戸さんは、可愛い後輩だ。
僕よりも身長があって、すぐに人気者になってしまった彼女だけど、僕は城戸さんの助けになれたことを誇りに思う。
とても魅力的な女の子で、惹かれなかったかと問われれば嘘になる。
タイミングが違っていれば、結果は変わっていたかもしれない。
それでも、僕が告白したのは綾乃なのだ。それは、誠実に表明するべきだろう。
「……松雪先輩の言ったことは本当だったんだ」
「え?」
「あっ、ここにいたのですね」
僕が首をかしげたのと、綾乃が屋上に来るのは同時だった。
「話はついたのですか?」
「え、話って何のこと?」
城戸さんに話をすることは教えていなかったはずなんだけど……。
なのに綾乃は、訳知り顔で頷き、口を開いた。
「私は比呂くんのことが大好きです。でも、それを独り占めする気持ちってわからないんですよね」
「うん……うん?」
綾乃は城戸さんの肩を抱き、後押しするように前へと押し出した。
城戸さんはといえば、頬を染めながらいじらしい態度を見せる。
「私たちだからこそ、普通ではない関係でもいいのではと、そう思うのですよ」
えっと、つまり……どういうこと?
綾乃の意図が判断できなくて、戸惑いを隠せない。
「たぶん、私は経験しなければ理解できません。だからこそやってみてもいいのではないかと考えました」
「考えたって、何を?」
綾乃はニッコリと笑って、こう言ったのだ。
「若気の至り、というやつですよ」
次の瞬間、城戸さんに抱きしめられた。
「あたしは、比呂先輩のことが好き……。だから、いいよ?」
「い、いいって何が?」
「松雪先輩の、次でも……」
僕は、覚悟を決めて告白したと思っていた。
けれど、彼女たちに比べれば、その覚悟は遠く及ばなかったのかもしれない。
寒空の下のはずなのに、とても熱い……。
「あ、あばばばばばばばば……っ!」
僕は頭がおかしい。
でも、綾乃も大概頭がおかしかったということを、僕は身をもって思い知った。
──そして、この選択が最高に幸せになることを、僕はこれでもかと思い知らされるのであった。
松雪さんが十八禁ルートにしたので、ここで完結です(エロ編をやるとは言ってない)
ここまでお付き合いいただきありがとうございました! 比呂くんと松雪さんがくっつくところまで書き切ろうと決めていたので、目標を達成できて嬉しいです。
細かいエピソードをやれていないというのはありますが、おまけ編としてまた投稿したいと思っています。気になっているところや、やってほしい話があればコメントでご意見をどうぞ~(後日回収していくスタイル)
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それと、チャーコさんがサキュバスコスをした松雪さんのAIイラストを作ってくださいました!
妖艶な感じがとても良きです。吸い尽くされないように注意ですね(むしろ本望?)
では最後までお読みくださりありがとうございました! これからも比呂くんたちの行く末を温かく見守っていてくださいね(とんでもない日常になってそうだけども)




