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僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


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80.松雪綾乃はどこかおかしい

「綾乃ちゃんって……人の気持ちを考えたことあるの?」


 過去を思い出すと、ズキリと胸が痛くなることがあります。

 学校でみんなと上手く付き合えなかった私は、先生に母を呼び出される事態にまで発展したことがありました。


「呼び出されるなんて恥ずかしい! どうしてクラスのみんなと仲良くできないの? 先生が困っていたじゃないっ。お友達と喧嘩せずに仲良くするのは当たり前のことでしょう? どうしてその当たり前のことができないの! 私が育て方を間違えたとでも言うつもり? 普通のことができない綾乃が悪いんでしょう!」

「ご、ごめんなさい……」


 母の剣幕が恐ろしくて……。私は泣きながら謝ることしかできませんでした。

 延々と繰り返される「当たり前のことをしなさい」や「なんで普通のことができないの」という言葉が、ずっと私を責めていました。

 みんなとの仲が良すぎても、悪すぎても……私は迷惑をかけてしまうようでした。

 けれど、じゃあどうすれば良かったのかはわからなくて。自分だけでは出せない答えを、教えてくれる人は誰もいませんでした。


「この子どこかおかしいんです。治してもらえませんか?」


 私は、母に引っ張られてスクールカウンセラーに連れて行かれました。

 私はおかしい……。そう決めつけられて、母に相談すらできませんでした。

 そしてカウンセラーもまた、母の言うことを鵜呑みにして……私をどこかおかしい人なのだと決めつけていました。


「ごめんなさい……」


 とても苦痛な時間でした。ただ謝り続けて、この時間が早く終わってくださいと祈ることしかできませんでした。

 もう二度とこんな扱いを受けたくはない。私はみんなと仲良くできる良い人になろうと頑張りました。

 そんな私に気づいて同情してくれた人もいました。

 でも、それだけでした。私を守ってくれる人なんていない。そんなことはできっこないとわかっていましたので、なんとも思いませんでした。

 なのに……感情のすべてが消えたわけではありません。

 みんなと仲良くしたい。だけど一定の距離を保たなければならない。


「あの、松雪さん……。ぼ、僕と付き合ってくれませんか?」


 そうしなければ男子は自分に告白をしてしまうから。

 どうして人間関係を壊すようなことを平気でするのだろう? こういう大事なことは、もっと相手を思いやりながら悩んだ末に口にすることではないのでしょうか?

 私はこんなにも我慢しているのに……どうして身勝手なことをするのですか?


「いいですよ。付き合いましょう」


 だから、自分のように痛い目を見ればいいと思ってしまいました。

 全員にこの苛立ちをぶつけることはできません。でも、人の気持ちも考えずに告白してきた人に対しては、何をやってもいいと思ってしまったんです。

 これは正当防衛……。そんな風に免罪符を掲げて、人を傷つけていいのだという理由にしてしまいました。

 それに断ってしまえば角が立ってしまいます。それが原因になって、またトラブルを起こしてカウンセラーに連れて行かれるのは嫌でした。

 ──そうやって、私はトラブルを起こさない程度に人を傷つけてきました。



  ◇ ◇ ◇



「……最低ですね」


 そういうことをできてしまう私は、確かにどこかおかしいのでしょう。

 みんなと仲良くするために、上っ面だけでしか接することができない……それは私の根っこがダメというだけの話。

 こんなことで苛立つなんて人間ができていないんです。それどころか人を傷つけるなんて……悪女と言われても否定できませんでした。


「なのに比呂くんは、どうして笑いかけてくれるのですか……」


 私の過去を聞いてもなお、その態度は変わりませんでした。

 嫌な顔一つせず、それどころか知らない人から私を守ろうともしてくれて……相手はお兄ちゃんでしたけど。

 あれから私のために強くなろうとしてくれて……。こんな人は初めてでした。

 私が可愛いからというわけではありません。

 良い顔をしたいわけでもなく、ただ純粋に私のことを考えてくれて……。私の悪いところを知ってもがっかりしないなんて、比呂くんもどこかおかしいのかもしれません。

 だからこそ……私は彼に惹かれてしまったのでしょう。


「松雪さん……クリスマスイブに、僕と一緒に過ごしてください」


 そんな彼から、お誘いを受けてしまいました……。


「ふぁ~~~~っ!?」


 寝る前になると必ずその時のことを思い出してしまって……ベッドの上で悶えてしまいます。

 あと何日かと指折り数えずにはいられません。

 とても楽しみです。しかもクリスマスイブ……私の誕生日でもありました。

 さすがにそこまでは知らないでしょうが、クリスマスイブにデートのお誘い……。きっと比呂くんも意識していますよね?


「僕は松雪さんと、特別な日を、一緒に過ごしたいんだ」


 ……比呂くんの真剣な眼差しが、脳裏に焼き付いて離れません。

 あんな目をされたら……ギャップがあると言いますか……は、反則です!

 比呂くんと顔を合わせると胸がドキドキして、顔が熱くなって……。まともに彼を見られなくなっていました。

 こんなのは初めてで、どうすればいいのかわかりません。


「それは恋ね」


 千夏さんに相談すると、あっさりとそんなことを言われてしまいました。

 もしかしたらとは思っていました。女子の恋バナでよく出てくる症状が自分にも出ていましたから。


「で、でも……」


 それでも、咄嗟に否定しようとする自分がいました。

 せっかく比呂くんが親しくしてくれているのに、私がこんな気持ちを抱いてしまえば関係が壊れてしまう……。それが恐ろしくて、否定の言葉が思わず口をついて出てしまいました。


「綾乃ちゃんは私が素直になれなくて周りを拒絶していた時のことを知っているでしょ? それに、私が素直になったからこそ幸せになれたことも知っているわ」

「え、ええ。そうですね」

「そんな私から言えることは一つだけよ」


 千夏さんはツンツンとは無縁な、とても愛らしい笑顔で言いました。


「綾乃ちゃん、自分の気持ちに素直になりなさい」



  ◇ ◇ ◇



 そしてクリスマスイブ当日。

 私は何度も鏡の前で身だしなみを整えて、頭の中では今日のスケジュールのおさらいをしていました。


「綾乃」

「きゃっ!? ちょっ、ノックくらいしてくださいよお兄ちゃんっ」


 ドアの隙間から半分だけ顔を覗かせた兄がこっちをじーっと見つめていました。な、なんですか?


「ノックはしたよ。楽しみにしてくれているようで何より」

「は、はあ? 何がですか?」

「いいからいいから。せっかくの綾乃の誕生日。お兄ちゃんがお小遣いをあげよう」


 お兄ちゃんがお金をくれました。……もしかして、これが私の誕生日プレゼントのつもりですか?

 ですが、今日ばかりはありがたいです。クリスマスイブですし……ちょっとお金を使うことが多くなるかもしれませんからね。


「じゃあ、頑張ってね綾乃。俺はいつだって、遠くから見守っているからね」


 お兄ちゃんはそう言って、静かにドアを閉めてしまいました。

 私の兄だけあって、変なお兄ちゃんです。


「って、こんなことをしている場合ではありませんっ。も、もう時間が……っ!」


 十二月二十四日。

 世間はクリスマスイブで大盛り上がりしている中。

 私の誕生日はひっそりと始まりを迎えたのでした。



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