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僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


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57.落ち着け矢沢比呂

 昼休みの時間になった。

 つまり松雪さんと二人きりで昼食をとると約束した時間である。


「……っ」


 なぜか、そわそわしている自分がいる。

 別に彼女と二人だけの時間を過ごすのは初めてというわけじゃない。

 放課後どころか、プライベートで夜に密会する仲である。……ただお菓子を食べたい松雪さんの話し相手になっているだけだけども。

 なのに、今朝松雪さんから向けられた華やいだ笑顔を思い出すだけで、心臓の鼓動が速くなってしまう。


「私……今朝は作りすぎてお弁当を二つ用意してしまいました。比呂くん……余った分を食べて、もらえますか?」


 松雪さんはちょっぴり恥ずかしそうに、はにかみながらそんなことを言った。

 そんないじらしい姿を見せられて、僕に頷く以外の選択肢が存在しようがない。

 ただでさえ速くなっていた心臓の鼓動が、さらに加速する。


 落ち着け矢沢比呂。クールになれ!

 松雪さんが僕と二人きりで昼を一緒にしたい理由はなんだ?

 やはり何かしら相談事があると考えるのが自然だ。僕に弁当なんて、相談料の前金みたいなものだろう。

 余計なことは考えるな。友達を異性として見るなんて失礼にもほどがある。

 今まで通り軽く考えよう。昼食代が浮いたと思えば、松雪さんの手作り弁当を食べられてラッキーじゃないか。


「では、行きましょうか比呂くん」

「お、おうともさ!」


 松雪さんに声をかけられて、僕は気合を入れて席から立ち上がる。

 松雪さんと並んで歩くのも緊張してしまう。それを悟られないように背筋を伸ばすだけで大変だった。

 この気持ちは、松雪さんが今までと違った笑みを見せたからだろうか?

 それとも筋肉痛が原因か? 筋肉が鍛えられれば男性ホルモンが活発になるとも聞いたことがある気がする。

 そっか。僕が男らしくなっているから、女子に対して簡単に反応しているのか!

 この気持ちの正体がわかれば、松雪さんに対して緊張する必要はなかった。

 いつもの屋上に辿り着く頃には、僕は平静を取り戻していた。

 珍しく城戸さんがいない。

 僕が屋上で用事があるから来ないようにと、メッセージで伝えたからなんだけど。

「貸し一つね」と返信された時は、なぜか後ろめたい秘密がバレたような気持ちになった。


「ど、どうぞ……」


 屋上の丁度いい段にハンカチを敷いて座ると、隣に座った松雪さんから弁当箱を渡された。

 受け取った弁当箱を開けてみれば、唐揚げやミニハンバーグや生姜焼きといった茶色いものが半分近くを占めていた。


「なんか男子が好きそうなものばかりだね」

「比呂くんの好物がわからなかったので……。男の子の好きそうな食べ物を詰め込んでみました」


 松雪さんのイメージとは違った弁当だなという意味を込めていたのだけど、返答は意外なものだった。


「え? 作りすぎたから余ったって言ってたんじゃ……?」

「あ」


 松雪さんは「しまった」と言わんばかりな顔をした。珍しく表情が読みやすい。

 彼女の反応で、僕の考えが正しかったのだと確信する。

 やはり松雪さんは僕に何か相談事があるのだろう。

 わざわざ弁当を作ってくるほどだ。きっと面倒な頼みでもあるに違いない。

 僕は一旦弁当の蓋を閉める。

 話を聞かずに口をつけてしまえば「ふっふっふっ。食べましたね比呂くん?」と、松雪さんがしてやったりの顔をするに違いなかった。


「あのさ、松雪さんは僕と二人きりになって何の話があるの?」

「え? ひ、比呂くん?」


「その手には乗らないぞ!」という強い意志を込めて、松雪さんの目を見つめる。

 まさか食べる前に問い詰められるとは予想していなかったのだろう。松雪さんがうろたえた様子を見せる。

 しかし、僕がずっと見つめているものだから観念したのだろう。

 松雪さんは俯きながら、ぽつりと小さな声で言った。


「昨日……紬さんと二人でどこへ行っていたのですか?」

「は?」


 想像もしていなかったことを尋ねられて、僕は驚いてしまった。

 てっきり昨日の話は終わっていたと思い込んでいたから。松雪さんが気にしているとは思っていなかったのだ。


「ひ、秘密だよ……」


 それに、答えが変わるわけでもない。

 松雪さんに知らせるのは、もっとたくましい肉体になってからと考えている。

 ちゃんと結果を出してからじゃないと、なんだか恥ずかしいのだ。それに、びっくりしてもらいたいという悪戯心もある。


「……嫌です。ちゃんと教えてくださいっ」


 声は小さかったけど、張り詰めた感情が伝わってきた。

 からかわれるのかと身構えていただけに、彼女から放たれる真面目な雰囲気に動揺してしまう。


「ど、どうして?」

「私の胸が……チクチクして、ズキズキして、もやもやするからですよ!」


 顔を上げた彼女は、今にも泣き出してしまいそうだった。

 どうして松雪さんがそんな顔をしているんだ……。もしかして僕、何か悪いことをしたのか?

 ボクシングジムに通い始めたことを秘密にしたから? でも、いくら友達でも秘密の一つや二つくらいあっても当然なんじゃないだろうか……。


「比呂くんは紬さんと、人には言えないことをしているのですか? 私が一緒にいてはいけないことをしているのですか?」


 声を絞り出す松雪さんは、スカートを握り締めていた。

 その姿はとても寂しそうで、まるで迷子の子供を前にした気分になった。

 そして思い出す。

 小学生の頃。美月が友達と出かけるのをついて行こうとしたら「比呂はついて来ちゃダメ!」と拒絶されたことがあったのだ。

 とても悲しくて、その日はずっと部屋で泣いていたっけ。

 結局、後で美月に聞いてみても大した理由じゃなくて……。僕を仲間外れにしたことなんて、すっかり忘れていたけれど。

 仲間外れにされること。それがどんなにつらいことか……僕は、知っていたはずだったのにっ。


「ごめんね松雪さん」


 なんで思い至らなかったのだろう?

 人からないがしろにされるのは悲しい。とてもつらくて、泣いたっておかしくないほどのことだ。


「比呂く……」


 宥めるように、松雪さんの頭を撫でる。

 彼女の頭は、城戸さんよりも撫でやすかった。



「元おっさんの幼馴染育成計画」が完結しました!

私の作品の中で一番長い期間をかけてしまいました。80万文字を超えていますので、これから読むよという方は覚悟してくださいね(読んでもらえたら嬉しい)

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