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僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


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55.松雪綾乃は無自覚に苦しむ

 夜の公園で、比呂くんとお兄ちゃんが出会ってしまいました。


「あれが比呂くんかぁ。思っていたよりも可愛い子だったね」


 その帰り道。

 お兄ちゃんは初対面の比呂くんの印象を口にしていました。「小さいけど勇気がある」「小さいけど咄嗟の行動力がある」「小さいけど綾乃を守る姿が可愛かった」と。小さい小さい言い過ぎです。


「そして、綾乃のことを『友達』って断言してくれたね」

「ま、まあ……比呂くんはその、そういう人ですから……」


 比呂くんが私のことを「友達」と言ってくれて、本当に嬉しかった。

 心がぽかぽかするのを感じられて、上辺だけで作られた関係ではないと思えました。

 彼は、今までの人とは違います。

 打算を感じず、私の容姿に惹かれたわけでもありません。

 さっきも下心なく、私を助けようとしてくれていましたから。


「……」

「どうしたの綾乃?」

「な、なんでもありませんよっ」


 嘘。私は文化祭での出来事を思い出していました。

 比呂くんがミスコンで、誹謗中傷されていた紬さんを助けた時のこと。

 私にとって、あれはとてつもない衝撃でした。

 空気が敵になった時、人は為す術がないはずでした。

 いくら相手が好きな人でも、周りが責めている状況になればあっけなく手のひらを返す。

 それは人として当たり前で仕方のないことなのだろうと、ずっと諦めていたはずでした。

 だから、紬さんが責められても当然のような空気を作られてしまって……私はどうすることもできないと諦めてしまいました。


 でも、比呂くんだけは違っていたのです。

 目立つのは苦手なはずなのに。

 友達が少なくて、味方になってくれる人がいないはずなのに。

 怖くて怖くて、不安で押し潰されてもおかしくない状況だったはずなのに……っ。

 それでも比呂くんは、紬さんのためにみんなの前に出たのです。

 誤魔化したり、空気に染まることもなく、震えながらも自分の意思で紬さんを庇った。

 そして、さっきも私を庇おうとしてくれたことで、比呂くんの心根がハッキリ証明されたのでしょう。


「綾乃にとって、比呂くんは信頼できる人?」


 お兄ちゃんにそう尋ねられて、私は思考する前に頷いていました。


「うん。誰よりも……信頼できる人です」


 紬さんを助けようと、その身を挺していた比呂くんの姿を目にして、憧れのような感情を抱きました。

 自分がそうなれたら。自分にもそういう相手がいてくれたら……と。

 比呂くんは私の前でもその姿を見せてくれて……心がぎゅっとするのに、ぽかぽかしています。


「わかった」


 何が「わかった」なのでしょうね。私はお兄ちゃんのことがわかりませんよ。

 なぜか上機嫌な様子のお兄ちゃんを不思議に思いながら、私たちは帰宅しました。


「やばい綾乃。母さんが家にいる」

「えっ!? 今日は仕事で夜遅かったはずでは?」

「忘れ物でも取りに来たのかな。俺がリビングで食い止めておくから、綾乃は部屋に戻って急いで着替えて」


 私の格好は全身黒一色で男の子のような服装です。全部お兄ちゃんからのお下がりですね。

 こんな格好をしている私を母が見れば、どうなるかわかったものではありません。

 下手をすればカウンセリングに連れて行かれるでしょう。お母さんならやりかねません。


「お願いしますお兄ちゃん」


 私はお兄ちゃんに母の相手を任せて、一気に階段を駆け上がりました。

 こっそりとお菓子を食べに外出していることを、お母さんだけにはバレるわけにはいきません。

 今は特にそう思います。

 せっかくお菓子以外の楽しみができたばかりなのですから。



  ◇ ◇ ◇



 ある日。比呂くんの様子がおかしいことに気づきました。

 その日の放課後を迎えて、すぐに教室を出た比呂くんの姿を見て、私は確信します。

 これは何かありましたね、と。

 急いで早歩きで彼の後を追います。


「ごめん、待った?」

「ううん、全然」


 どうやら昇降口で紬さんと待ち合わせをしていたようでした。

 また紬さん絡みで何かあったのでしょうか?

 心配半分、好奇心半分で二人に近づきました。


「そこのお二人さん。そんなに急いでどこへ行かれるのですか?」


 声をかけると、比呂くんがぎょっとした顔で振り向きました。

 そこまで驚かなくてもいいのに……。そう思う一方で、悪戯心が芽生えます。


「酷いではないですか比呂くん。私を置いて教室を飛び出してしまうなんて」

「え、い、いや……」

「二人で帰るのなら私も一緒でもいいですか?」


 紬さんの表情に変化はありませんが、比呂くんはわかりやすかったです。

 何やら気まずそうにしています。もし紬さんがまた問題を抱えたという話なら、私に対していきなりそんな顔をしないでしょう。

 では、どんな用事なのでしょうね?

 そんな疑問を持っていると、比呂くんが口を開きます。


「今日は……城戸さんと二人きりがいいんだ」

「え?」


 頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受けました。


「悪いけど、松雪さんは遠慮してもらえるかな?」

「え、あ……」


 続けられた比呂くんの言葉に、私は何も返せませんでした。

 頭が真っ白になってしまって、比呂くんが背を向けても指先一つ動かせません。

 軽い調子で「どういう意味ですか?」と聞ければよかったのに、喉が引き攣ったみたいに声が出なくて……。私は二人の姿が遠ざかるのを、ただ眺めていることしかできませんでした。


「……」


 比呂くんと紬さんの後ろ姿が見えなくなるまで、私はその場で立ち尽くしていました。

「なんで?」と、そればかりが頭の中を巡り続けます。

 通りかかる人たちに怪訝な目を向けられているのに気づきながらも、しばらく立ち尽くしたままでした。


「……なんで?」


 胸が、痛い……。

 比呂くんが紬さんと二人きりになりたいということは、彼女と特別な関係になりたいということでしょうか?

 私は邪魔者になってしまったのでしょうか? 比呂くんにとって、私は……必要がない?


「お? そんなところで何突っ立ってんだよ松雪」

「誰かと待ち合わせでもしているの?」


 声に顔を向ければ、将隆くんと千夏さんが隣り合ってこちらへと歩いていました。

 将隆くんと千夏さんは学校でも有名なカップルです。油断をするとこっちが恥ずかしくなるくらいイチャイチャしているほどです。

 そんな二人が、なぜか比呂くんと紬さんに重なって見えてしまい……私の心をかき乱しました。


「は? ちょっ、マジで何があったんだ!?」

「綾乃ちゃん大丈夫!?」


 二人に心配されてしまいます。

 酷い顔をしている自覚はあるのですが、それがどんな表情なのかは見当がつきませんでした。

 とにかく胸が痛くて痛くて……。自分でも制御できないほどの気持ちに襲われてしまってどうしようもないのでした。



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