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僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


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54.彼女の心にパンチしてしまった

 時が止まるという体験を、僕は初めて味わった。

 緊張しすぎて意識が飛ぶような体験をしたことがあったけど、周りはそんな僕を置いていったものである。


「……」


 だけど、目の前の城戸さんは時が止まったかのように微動だにしない。

 僕も身動きが取れなかった。

 僕の左拳は、的確に彼女の大きなおっぱいを捉えている。

 僕の拳よりも明らかに大きい……。ブラの感触がわかる程度には、クリーンヒットしていた。

 ……まあ幸いなことに、僕のへなちょこパンチでは大したダメージにならなかったらしい。城戸さんは痛がる素振りすら見せず、しばらく無言だったから。


「あの……」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 声が、降ってくる。

 あまりのやらかしに僕は顔を上げられなかった。冷や汗がだらだらで、拳を引っ込める余裕すらない。

 謝ろうとした僕の口は、情けないことに上手く動いてはくれなかった。

 城戸さんはそんな僕の左手を包み込む。もちろんおっぱいではなく、両手でだ。


「一人だと、妄想の世界に入り込むことがあるよね。うん、わかるよ。あたしも、そういう経験があるから……その、先輩も男の子だから、ね……」


 優しい声に顔を上げてみれば、慈愛に満ちた表情の城戸さん。

 妄想? 城戸さんは何を言っているんだ?

 慈しみを感じさせる城戸さんの顔をぼーっと眺めていると、はっと気づく。


「はっ! い、いや、さっきのは一人きりでいるのをいいことに妄想の敵と戦っていたわけじゃないんだよ!」

「違うの?」

「違うよ!」


 そういうことをしたことはあったけど! 今回のはちゃんとしたやつなんだよ! 決して中二病なんかじゃないんだよ!

 僕は弁明するために、ボクシングジムに通い始めたことを城戸さんに話した。


「ボクシングって……殴り合ったりするんじゃ? 比呂先輩危なくないの?」

「そういう本格的なやつじゃないんだ。老若男女誰でもできますよってコースだから」


 城戸さんに昨日やった練習を説明する。


「とにかく正しいフォームが大切だって、トレーナーのおじさんが教えてくれたんだ」

「へぇ、楽しそうだね」


 身振り手振りで説明していると、城戸さんに温かい眼差しを向けられていることに気づく。

 この複雑な気持ちはなんだろう……。そんな目で見つめられると、母親に今日あったことを報告する小さい子供にでもなった気分になる。

 なんかもう、どっちが先輩かわかんないな。見た目で判断するのなら、すでに逆転して見られてしまうのだろうけど。

 でも、ボクシングジムに通い続ければ……僕だって筋肉質でワイルドな男になって、城戸さんと並んでも先輩らしく見られるようになるはずだ。


「あたしも行っていい?」

「どこに?」

「比呂先輩が通っているボクシングジム」

「……へ?」


 城戸さんがボクシングジム? なんで?


「老若男女、誰でもできますよってコースがあるんだよね?」

「あ、ああ。なるほど」


 そういえばトレーナーのおじさんも言ってたっけ。「最近は全身のシェイプアップを目的に通われている女性が増えているんだよ」って。

 城戸さんはどこもシェイプアップする必要がないように思えるんだけど……。いやいや、こういうのは女子にしかわからない悩みってやつがあるのだろう。男がいちいち口にする話題じゃないな。


「初回は無料体験できるから、城戸さんも試しにやってみる?」

「うん」


 城戸さんは柔らかく笑った。

 ……最初の頃は表情に乏しい子だと思っていたけど、本当に感情が顔に表れるようになったな。

 だからこそ、松雪さんのお兄さんの無表情が際立っているように思えたんだろうけども。

 彼に威圧感を覚えたのは、僕が弱かったからだろう。

 ボクシングで強くなれば、松雪さんのお兄さんの前でも堂々としていられるはずだ。

 そんな自分になりたくて、頑張ろうと決意を新たにした。



  ◇ ◇ ◇



 放課後。城戸さんと昇降口で待ち合わせをした。


「ごめん、待った?」

「ううん、全然」


 すぐに教室を出たつもりだったのに、城戸さんはすでに昇降口で待ってくれていた。

 素早く靴を履き替えて、彼女の隣に並ぶ。

 これから彼女をボクシングジムに案内するのだ。電話で城戸さんの初回体験をお願いしてみたところ、急だったにもかかわらず快く了承してもらえた。


「そこのお二人さん。そんなに急いでどこへ行かれるのですか?」


 冗談めいた声が聞こえて、僕たちは振り返った。

 そこには松雪さんがいた。お兄さんと同じくらいの美形で、お兄さんほどには威圧感はない。

 ただ、今声をかけられるのは気まずかった。


「酷いではないですか比呂くん。私を置いて教室を飛び出してしまうなんて」

「え、い、いや……」

「二人で帰るのなら私も一緒でもいいですか?」


 ニコニコしている松雪さんを見て困った。

 予期せぬ事故があったせいで城戸さんには白状したけれど、本当はボクシングジムに通っていることは秘密にするつもりだったのだ。

 男らしい肉体を手に入れてから驚いてほしかった。


「今日は……城戸さんと二人きりがいいんだ」

「え?」


 城戸さんには秘密にできなかったから仕方がない。

 でも、せめて松雪さんだけでも、僕の変わりように驚いてほしかった。

 それまでは、彼女に秘密でトレーニングに明け暮れると決意したのだ。


「悪いけど、松雪さんは遠慮してもらえるかな?」

「え、あ……」


 僕は松雪さんに背を向けて、ボクシングジムへと歩き出した。


「比呂先輩、いいの?」

「それなりに結果が出るまでは秘密にしておきたいんだよ。城戸さんも協力して」

「う、うん……比呂先輩がそう言うのなら……」


 城戸さんは後ろを気にしながら、僕について来ていた。


「こっちだよ城戸さん。歩く時はちゃんと前を見て」

「う、うん……」


 危なっかしいなぁ。こういう集中力も、ボクシングをやれば鍛えられるに違いない。



別作になりますが「元おっさんの幼馴染育成計画」がもうすぐラストを迎えます。

人生やり直し系ラブコメです。よければそちらも読んでもらえると嬉しいです(完結確約)

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