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僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


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50.男子は頼られたい

 いつだったか。松雪さんは「私、悪女ですから」と発言したことがあった。

 ぶっちゃけた話、その時はどうでもいいと思った。

 美月と気まずくなった時期だったこともあって、恋愛ごとの一切を考えられなかったのだ。仮に松雪さんが僕をたぶらかそうとしても何も感じなかっただろう。

 まあ彼女がそんなことをするような人だとは、まったく思えなかったというのもあるんだけど。


「ごめんなさい。私が、やりました……」


 待ち合わせに指定した夜の公園。

 見慣れてきた黒ずくめの格好で来た松雪さんが、開口一番そんなことを言いながら両手を差し出した。


「松雪綾乃、あなたを喫茶店のコーヒー代を支払い忘れの罪で逮捕します。えーと、あと日付と時刻を言うんだっけ?」


 松雪さんにエア手錠をかけながら、刑事ドラマの見様見真似をやってみた。

 松雪さんを呼び出す理由に、喫茶店で代金を支払い忘れているよと教えてあげたのだ。コーヒー代を出した僕の権利である。

 交渉の結果、今度松雪さんに昼食のパンをおごってもらうということで話がついた。


「比呂くん、本当にすみませんでした。利子としてポテチ一枚を献上しますよ」

「安い利子だなぁ」


 松雪さんの格好でわかっていたけど、ついでに今日はお菓子を食べる日にしたらしい。

 ベンチに座った松雪さんは、早速コンビニで買ったお菓子を広げていた。

 これが松雪さんの月一の楽しみなのだとか。

 家でお菓子が食べられないとは、よほど親が厳しいのだろう。健康や美に対してストイックなのかもしれない。

 夜は肌寒くなってきた季節。

 そんな中でも松雪さんは嬉しそうにお菓子を食べていた。


「で、松雪さんに告白してきた男子ってどんな人?」

「うぐっ!?」


 嬉しそうにポテチとチョコの甘じょっぱさを堪能している彼女に切り込む。

 ケホケホとむせてしまった松雪さんを眺めながら、僕もポテチとチョコを交互に口に運ぶ。割とイケるね。


「最近告白されたって言っていたじゃないか。あれで話を打ち切られたから気になっちゃってさ」

「い、いえ……私が普通に断ればいいだけですから。比呂くんが気にすることではありませんよ」

「僕はただ興味本位で聞いているだけだよ。相手のことをどうするかは、それこそ松雪さんが決めればいいと思う」


 僕は、別に松雪さんが誰と付き合おうとも口を挟める立場にない。

 だから、これは友達としての興味だ。

 つまり……これはそう、僕は恋バナってやつをしたくなったのだ。


「どんな人、と言われましても……」

「知らない人だった? もしかして三年……いや、一年の男子かな?」


 松雪さんは帽子を深く被り直して目元を隠す。

 公園の街灯しか明かりがないせいで、顔全体が影に覆われてしまったように見える。

 そんな彼女の顔を、僕は下から覗き込んだ。


「わっ!? ちょっ、ひ、比呂くん?」

「まさか告白を断ったせいで、逆恨みされていることなんてないよね?」

「っ」


 松雪さんが息を呑む。


「な、なんでそんな発想が出てくるのですか」

「松雪さんが言ったんだよ。プライドの高い男子が振られたショックで逆恨みするかもしれないってさ」


 城戸さんへのアドバイスかと思っていたけれど、あれは松雪さん自身の経験談だったのだろう。

 松雪綾乃は悪女である。

 そんな噂がある一方で、男子が秘密裏に行っている美少女ランキングでは一位の常連なのだとか。

 なのに男を騙しているという噂もあったり、反対に相手の男子が悪いからという意見もある。

 松雪さんは人気者のはずなのに、その評価がブレブレなのだ。


「……大丈夫ですよ。私、人をコントロールするのが得意ですから」

「変な言い方だ。まるで思い通りに人を操れるみたいに聞こえるよ」


 松雪さんは確かな観察力を持っている。

 それは僕とは比べものにならなくて。城戸さんの悪い噂を払しょくしようと作戦を立てた時も、彼女の力によるところが大きかった。


「そう言っています。悪女は男を手のひらで転がすのが得意なのですよ」

「うわぁ、似合わないね」


 本当に、松雪さんには似合わない。

 月に一度、お菓子を食べることを楽しみにしている彼女。

 城戸さんの悪い噂に胸を痛めていた彼女。

 こんな僕のことを、心配してくれた彼女……。


「僕にはどうしても松雪さんが悪女だとは思えない。たとえそうだったとしても、何か理由があるんでしょ?」

「そんな、大した理由なんて……」


 松雪さんの声が小さくなる。

 視線を逸らして、僕と目を合わせようとしない。

 僕は松雪さんが何をしていても興味がない。……そう思っていた。

 友達ならどんなことがあろうとも、味方であるべきだ。

 そんな漫画で聞きかじった綺麗ごとを信じて、友達のいなかった僕は恥ずかしげもなく、わからないことを誇ってしまっていたのだ。


「その大したことのない理由を、僕は知りたいんだ」


 けれど、今は違う。

 松雪さんと友達になって、これまで接してきて、他の人と比べればほんのちょっぴりの時間でしかないんだろうけど……。


「僕は松雪さんのことを知りたい。悩みがあるなら力になりたい。遠慮なんかしてほしくないんだ」


 友達だからこそ、その人のことをわかりたいのだと知った。

 僕を頼ってほしい。美月の陰に隠れてばかりだったこの僕が、そんな風に思ってしまうようになった。

 たぶん、この心の底から溢れ出る感情を……友情と呼ぶのだろう。


「比呂くん……もしかして私を口説いているのですか?」

「え? どこに口説いている要素があったの?」

「……」


 そのジト目は何!? 言いたいことがあるのなら口で言ってよ!


「ふふっ」


 松雪さんは小さく噴き出した。

 そして楽しそうに笑う。別に笑わせようとしたわけじゃないのに……なんで?

 松雪さんはひとしきり笑うと、緊張した面持ちで口を開く。


「比呂くん……あの、話を聞いても……私を嫌いにならないでくださいね」

「絶対に嫌いにならないから安心してよ」

「約束、しましたからね」


 松雪さんは話し始める。

 それは彼女が悪女と噂されるようになった、その経緯だった。



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