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僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


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40.僕は頭がおかしい

 体育館がしんと静まり返る。

 ついさっきまで、確実に城戸さんが観客の心を掴んでいた。

 温まっていたはずの場の空気を作ったのは、明らかに城戸さんの魅力だった。

 なのになんで……なんで誰かも知らないような人が水を差してくるんだ?


「父親を半殺しにしたって何?」

「知らないのか? 一年の城戸紬って女子が中学時代に事件を起こしたんだって」

「あれってガセって話じゃなかったのか?」


 投じられた一石は、観客の心を揺らがせて、波紋が徐々に広がっていく。

 大勢の人が集まっているからか、その波はあっという間に大きくなっていく。

 ざわざわざわ。疑念や不安といった感情が、熱気を上書きしていく。

 これはまずい。本当にまずいっ。この流れを許してはダメだ!


「……っ」


 突然の悪意に、城戸さんは何も言えず固まってしまった。

 特別なアピールなんて必要もない状況だったのに、その作り上げた空気が一変した。

 今は一言でもしゃべれば、どんな揚げ足を取られるかわかったものではない。

 そういう人がいると思うだけで、声なんて出るはずがなかった。


『え、えーと……皆さんお静かにー……』


 司会者が注意したところで、一度広がった波紋が収まるはずがない。


「そういや暴力女だって噂を聞いたことがあるぞ」

「二年の男子も被害に遭ったって話だぜ」

「えー、怖ーい」


 ネガティブな感情というものは広がりやすいものだ。

 とくに悪口は盛り上がりやすい。僕は悪口を言う友達すらいなかったけど、人を貶めるような話題を楽しむ人たちを見てきたから知っている。

 僕は気まずい気持ちを抱えながら、その度に黙ってやり過ごすだけだった。


「……」


 でも、どうか……今だけは、やめてくれ……。お願いだから誰か城戸さんを助けてくれ!

 松雪さん、佐野くん、杉藤さん……。誰か、誰でもいいから言い返してやってくれ!

 だけど、僕の願いも空しく、誰の声も上がらない。城戸さんを守ってくれる声はなかった。


「みんな、ここで真実を追及すべきだとは思わないか? 白黒はっきりさせないと、ミスコンどころじゃないよな?」


 最初に声を上げた男子の言葉が、悪い意味でざわめきを収めた。

 みんなの視線が、ステージの城戸さんに集まったのがわかった。さっきまでとは違った目に、彼女がピクリと身体を震わせる。


「城戸紬さーん。聞こえていましたよねー? 父親を半殺しにした件、嘘か本当か、あなたの口からハッキリ聞かせてくださーい」


 ジャーナリストにでもなったつもりなのか、男子は質問という悪意を城戸さんにぶつけた。


「そ、それは……」


 城戸さんは口ごもる。

 真実を言えるわけがない。それを伝えようとすれば、被害に遭った妹のことも明かさないといけなくなるから。

 せっかく、唯花ちゃんと仲直りできるかもしれないのに……っ。このままでは余計に溝が深くなりかねない。


「あれ、言えないんですかー? それは否定しないってことでいいですよね? つまり、父親を半殺しにしたということでいいですよね?」

「……」


 浮かれているような、自分に酔っているような、そんな声。

 こういう種類の声に聞き覚えがある。

 きっと、これは城戸さんに悪意をぶつけているわけではない。

 自分の正義に酔っているのだ。誰もが認める悪人を倒す快感。それを味わってやろうとしている人だ。

 そしてそのネガティブな正義は、快感となって伝播する。

 みんな期待してしまうのだ。目の前で悪人が倒される瞬間を。その快感を味わってみたいからこそ、簡単に同調する。


「だんまりですかー? それは認めたということでいいですよね? じゃあ質問を変えます。父親を半殺しにした時、どんな気持ちでしたかー?」

「っ」


 ああ……ダメだ。これ以上はいけない。

 大勢の前であんな追及をされたら、心が壊れてしまう。陰キャは簡単に、人の視線に押し潰されてしまうのだから。

 それが自分のことのようにわかるからこそ、胸が痛かった。

 城戸さんが傷つくのは……嫌だ!


「ち、違うんだYoー!」


 僕のひっくり返ったかのような大声が、体育館に響き渡った。


「え、何?」

「今の誰?」

「Yo……?」


 ざわめきが広がる。それらは全部、僕に対する不審な気持ちだ。

 心臓がバックンバックンだ。大勢から注目されるってだけで、心がどうにかなってしまいそう。

 でも、それでいい。

 あの時の、脳が破壊された感覚がまだ残っている。どんなことをしたって仕方がないのだ。どんなことをしたって動じない……。

 だって、僕は頭がおかしい奴なんだから。


「変な噂が広がって、それでも負けないで、城戸さんはここまできたんだYo」


 顔が真っ赤になるのをタヌキのお面で隠して、僕はステージに向かって歩いて行く。

 体育館が静まり返っている。おかげで僕の緊張しまくった声がよく響く。

 なんでラップ調なのかって? 僕もわからん! 頭がどうにかなりすぎて、自分の行動の意味が理解できない。

 だけど、こんな場で普通にしゃべろうとすれば声が震えてしまうだろう。身体だって、手どころか全身がガタガタと震えてしまっていたかもしれない。


「悪意は口にしない、人の粗を探さない、もっと自分を見つめ直していこうYo」


 身体を振ってリズムを取る。緊張からの震えを、これはリズムに乗っているだけと言い聞かせる。

 韻を踏むとか知らない。僕にできることは、とにかく声を振り絞ることだけだ。


「「「なんでタヌキ?」」」


 ステージに上がって、司会者からマイクを分捕る。呆気に取られていたからか、強奪は楽勝だった。


「ズンチャチャチャズンチャッズンチャッチャー♪ ズンチャチャチャズンチャッズンチャッチャー♪」


 適当なリズムを口ずさみながらステップを踏む。本職の人が聞いたら怒られそう。

 身体を動かしていたら緊張がマヒしてきた。

 確実に黒歴史になるであろう行動。帰ったらベッドにダイブしてのたうち回ること間違いなし。

 それでも構わない。

 ミスコンをぶち壊しにしてしまおうが、僕が変人として後ろ指を差される生活を送ることになろうが、今動かない理由にはならなかった。

 ここで城戸さんの名誉を守らなければ、僕は絶対に後悔する。


「僕は助けられたんだYo! 城戸さんに助けてもらえて嬉しかったんだYo! 誰もが見て見ぬフリをする中、身体を張って守ってくれたのは城戸さんだけだったんだYo!」


 学校での悪い噂を加速させてしまったのは、僕のせいだ。

 情けない僕を、城戸さんは真っ先に助けてくれた。考えるよりも先に行動する。それは城戸さんの優しさが本物だからじゃないのか。


「噂なんかに踊らされないでYo! ありのままの彼女を見てYo! 誰か本当に無意味な暴力を振るう城戸さんを見たことがあるのかYo!」


 観客は何も言わない。ここからだと真っ暗で、何を考えているかもわからない。

 ただ単に「なんか変人が現れた?」くらいにしか思っていないのかもしれない。

 それならいい。城戸さんの悪印象がなくなるのなら、僕がどう思われたってよかった。


「先輩……っ」


 緊張が限界突破して、頭が沸騰しそうだ。

 僕が今していることに意味はあるのか? もうわけわからん。誰か何か言ってくれ!


「でも父親を半殺しにしたってのは本当なんだろ?」


 またあの男子か……っ。

 話を振り出しに戻そうとするんじゃないYo! こっちはいっぱいいっぱいなんだYo!

 しかし、城戸さんの家庭事情について、僕が何か言うわけにはいかない。そんな立場ではないのだ。

 ど、どうする? 話を逸らせることしか……でもそれじゃあ、さらに追及されるだけだろうし……。誤魔化したら嘘っぽくなりそうだし……。どどど、どうすれば?


「違うもんっ!!」


 本格的に僕の頭がおかしくなりかけた時だった。

 小さな女の子の大声が、観客を黙らせたのだ。

 次いでダダダッと、小さな足音がステージに近づいてくる。僕はリズムに乗ったまま、暗い観客側に目を凝らした。


「タヌキのお兄さん!」

「唯花ちゃん!?」


 長い銀髪をなびかせながら、唯花ちゃんがこっちに向かって走ってきたのだ。後ろから「待って唯花っ」と娘を追いかけているお母さんの姿も見える。

 唯花ちゃんは走った勢いそのままに、ステージに飛び乗った。運動神経がすごすぎる。

 唯花ちゃんにマイクを催促されたので何も考えずに渡す。僕はもう限界だ……。

 くるりと振り返って、観客に顔を向けた美幼女は思いっきり声を上げた。


「お姉ちゃんはアタシを助けてくれただけなの!!」


 キーンと、ハウリングが響く。

 それで興奮が収まったのか、唯花ちゃんは普通の声量で、とつとつと語り始めた。


「お父さんは本当のお父さんじゃなくて……。お姉ちゃんはアタシが酷いことされないために守ってくれただけなの……。だから、えっと……今まで気持ちがグチャグチャになって、ずっと言えなかったんだけど……」


 唯花ちゃんが城戸さんを見上げる。

 城戸さんもまた、唯花ちゃんをじっと見つめていた。


「アタシを守ってくれて……ありがとうお姉ちゃん。あと、ごめんなさい……お姉ちゃんが守ってくれたことをわかるのに、時間がかかっちゃって」

「ゆい、か……」


 ようやく妹が歩み寄ってくれたからか、城戸さんがポロポロと涙を零す。

 唯花ちゃんも鼻をすすりながら、お姉ちゃんにハグを求めた。


「唯花っ」


 城戸さんが大切な妹を抱きしめる。

 ずっと言えなかった思いが、しっかりと伝わっていた。唯花ちゃんが姉に会いに来たのは、こうやって仲直りするためだったのだろう。


「よかった」


 城戸さん姉妹が仲直りするのを見届けて、僕は安堵の息をつく。

 あと……いつまでリズムを取っていればいいんだろう? 止め時を完全に見失ってしまっていた……。


「妹さん可愛いー」

「姉妹愛最高!」

「よかった。何かよくわからないけど、よかった!」


 突然目の前で起こった姉妹の仲直りに、観客は大きな拍手を送る。

 事情をちゃんと理解できたわけではないだろう。唯花ちゃんのたどたどしい言葉だけでは、詳細まではわからない。

 それでもいいのだ。気持ちが通じ合った場面を見れば、思うところがあるのが人ってものだろう。

 人に共感するのは、悪いことばかりではないのだから。

 唯花ちゃんがお姉ちゃんに抱っこされながら、観客に向かって口を開く。


「皆さん、アタシからのお願いです。お姉ちゃんをいじめないでください。それと……お姉ちゃんに清き一票をよろしくお願いします♪」

「「「うおおおおおおおおおっ!! 任せろぉぉぉぉぉぉーーっ!!」」」


 ちゃっかりしている唯花ちゃんに、観客は熱い大声で応えたのであった。小さな女の子は強い。



  ◇ ◇ ◇



 ミスコンは、城戸さんの優勝で幕を閉じた。

 去年の松雪さんに迫るほどの圧倒的な票数だったらしい。最後は唯花ちゃんのナイスアシストだったもんね。


 そんなわけで、文化祭が終わったので後片付け中だ。

 疲れた一日だったけど、明日は振り替え休日。ここさえ乗り切れば自由が僕を待っている。


「よいしょっと」


 最後の力を振り絞ってゴミ出しに行った、その帰り道。

 階段の踊り場でぎゃあぎゃあと騒いでいる数人の男女。後片付けしろよ、と心の中で悪態をついていると、話の内容が耳に入り足を止めてしまった。


「城戸紬の噂を流した張本人はお前だろ! せっかく俺が悪人を裁くはずだったのに……ガセネタのせいで恥かいたじゃねえか!」


 この男子……体育館で最初に城戸さんの噂を持ち出した奴か。

 いつの間にか消えていたけど、こんなところにいたんだな。

 どうやら不機嫌な様子。周りの友達らしき連中も気まずい雰囲気。内輪もめかな?

 男子に詰められているのは女子だった。身を縮こまらせていて、完全に怯え切っていた。

 あんな怒声をぶつけられたら怯えもするだろう。


「噂は……わ、私じゃなくて……」

「あァ? じゃあ誰が流したってんだよ?」


 女子は震える声で、信じられない名前を口にしたのである。


「羽柴……美月、先輩……」



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― 新着の感想 ―
文化祭だから来賓の方や保護者等の参観者の前で正義マンをやるなんてヤベェな… 感動的なラストで終わってくれたから良かったものの、あのまま続いたら実行委員は呼び出し受けて説教されるだろうし、翌年からは禁止…
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