表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/88

39.秘策でアピール

 今日の僕は道化でいい……。

 そう腹をくくり、城戸さんの穴を埋めるためにメイド服に袖を通した。

 僕が城戸さんに作ったようなロングスカートだったらまだよかったのに、渡されたのは膝も隠せない長さのメイド服だった。


「あれってもしかして男子?」

「女装……だがそれがいい!」

「ハァハァ……恥じらっている仕草がたまりませんなぁ」


 何か言われている気がしたけど、必死になって働くことで周囲の声をシャットアウトした。

 どうせあまりいいことは言われてないだろう。たぶん「女装しているキモい奴がいる」と笑われているに決まっている。こういう外野の声は聞かないに限る。

 僕一人の犠牲で、城戸さんが家族と楽しく文化祭を回れるのなら、それでいいのだ。いいったらいいのだ!

 精いっぱい働いて、気がつけば昼を迎えていた。


「いやぁ、私らが言っておいてなんですが……まさかここまできっちり働いてくれるとは思いませんでした」


 ようやく仕事が終わると、メイド女子が冗談だったと言わんばかりに「てへっ☆」と可愛い子ぶりながらペロッと舌を出す。


「え、だって城戸さんのシフトの穴を埋めないと困るでしょ?」

「だからって普通はメイド服を着てまで手伝ったりはしませんよ」


 あれ、もしかして別に僕が手伝わなくてもよかったの?


「矢沢先輩にとって、それだけ城戸さんが大切な人というのが伝わってきましたよ」

「うん。城戸さんのためじゃなかったらここまでしなかったよ」

「お、おお……この先輩、ストレートに言い切りやがりましたよ……っ」


 メイド女子たちから黄色い声が上がった。何か盛り上がるところあったか?

 でも一緒に働いてみて、このクラスの人たちはそんなに悪い子じゃないってわかった。

 だから僕は、願いを口に出さずにはいられなかったのだ。


「だからさ……みんな、クラスメイトとしてでいいから、城戸さんと仲良くしてくれたら嬉しい……なんて」

「もちろんですよ。城戸さんは怖い人じゃないってわかりましたし、何よりこのメイドカフェを盛り上げた戦友ですからね」


 メイド女子たちは力強く頷いてくれた。


「今回の文化祭で城戸さんがどれだけ頑張ったのか、私たちは知っていますから。不器用だけど真面目で、優しい人だって……ちゃんと伝わっていますよ」

「そっか。それならよかった」


 城戸さん自身の力で、クラスメイトとの関係は改善されていた。

 それがとても嬉しくて、目頭が熱くなって上を向くしかなかった。


「矢沢先輩泣いているんですか?」

「えー、可愛いー♪」

「な、泣いてなんかないやいっ!」


 後輩からからかわれるなんて恥ずかしすぎる……。メイドさんになってしまったことも含めて、もう黒歴史確定である。

 僕はさっさとメイド服を返却して、城戸さんを探しに向かったのだった。



  ◇ ◇ ◇



 銀髪の親子なら目立つだろうかと思ったけど、この人混みでは見つけるのは困難だった。


「城戸さん、大丈夫かな……」


 唯花ちゃんのあの様子を見ている限りでは、タヌキのお面さえしていれば和やかに接していられるはずだ。

 けれど、いざ正体が姉だったと知った時にどうなってしまうのか……。僕には想像がつかない。

 まあ城戸さんのお母さんも一緒だったから、その辺りは上手くやるのかもしれないけど……。どうしても心配は拭えなかった。


「城戸さんにメッセージを……。いや、タイミングが悪い可能性があるし……う~ん」


 廊下で人の流れを眺めながらどうしようかと悩んでいると、背中をつんつんと突っつかれた。


「え?」


 振り返るとキツネがいた。


「コンコン、コンコンコーン」

「それ、キツネの鳴き声のつもり?」


 この子ったら、また子供っぽいことをして……。

 キツネのお面を被った松雪さんである。どうやら変装は続けていたようだ。


「あれ比呂くん、タヌキのお面はどうしたのですか? お面がないとナンパされてしまいますよ」

「だからその心配は松雪さんだけだってば」


 お面の下で笑っているんだろうなと思いつつ、僕は城戸さんが妹と会ったことを伝えた。


「妹さんが来たというところまではメッセージで知っていましたが、まさかそこまで進展しているとは……。比呂くんの手腕があってこそですね」

「僕は大したことしていないよ」


 それに、あれでよかったのかわからないんだし。


「とにかく、松雪さんも城戸さんを探すのを手伝ってくれ」

「探す必要はないと思いますよ」


 松雪さんは慌てる様子もなく歩き出した。


「どこか、あてでもあるの?」

「比呂くん、体育館ですよ。紬さんは必ずそこに現れます」

「体育館って……ミスコン? でも、まだ時間には早いんじゃ──」


 松雪さんは「ちっちっちっ」と口にしながら指を振る。何者かになりきっているらしい。


「甘いですよ比呂くん。昨日の自己紹介だけが私の策ではないのです。むしろ、ここからが本番ですよ」


 何やら自信満々な様子の松雪さん。

 彼女が城戸さんに授けた秘策は、まだ終わりではなかったようだ。


「ミスコン最後のアピール……それは、始まる前から終わっているのです!」



  ◇ ◇ ◇



 体育館に到着すると、「比呂くんはここでしっかり見届けていてくださいね」と言って松雪さんはどこかへと行ってしまった。まさかの一人ぼっちである。

 体育館のステージでは演劇が行われていた。この次にあるのはバンド演奏のようだ。


「その次にミスコンで最後のアピールがあって、閉会式で投票結果が発表されるんだよな」


 昨日の自己紹介の感じからして、城戸さんが大幅にリードしたのは確実だろう。

 あとはそのリードを保つだけなんだろうけど、アピール合戦になればどうなるかはわからない。


「矢沢先輩」

「あれ、城戸さん?」


 いつの間にか隣にすっと城戸さんが現れてびっくり。観客側は暗いってのに、よく僕がいるってわかったね。


「妹さんと話はできた?」

「うん。先輩のおかげで楽しい時間を過ごせた。あ、ありがとう……」

「それならよかった」


 タヌキのお面をしたままだから、姉として話すことができたわけではないのだろうけど。それでも、まずは一歩前進だ。


「これ、返すね」


 城戸さんはタヌキのお面を外して、僕に手渡してくる。


「もういいの?」

「うん。ここからはあたしが頑張らないとだから」


 だからね、と。城戸さんは続けた。


「あたしが頑張るところ、ちゃんと見ていてね」

「うん。ここでしっかりと見ているよ」


 城戸さんはくるりと背を向けて、小走りで駆けていった。


「気合い入ってるなぁ」


 それだけミスコンのアピールタイムに自信があるのだろう。

 松雪さんも秘策があるみたいだったし、楽しみに待とうじゃないか。

 そうやって期待を高めている間に、上演されていた劇が終わった。

 次のバンド演奏はどんなものだろうか? 僕は前座を楽しむ気分で、ステージを眺めていた。

 次がミスコンの最後のアピールタイムだからか、観客がどんどん増えてきた。

 そして、ふっと体育館の照明が消える。


「みんなー! 文化してますかー? フェスティバってますかー?」


 唐突な松雪さんの声。ステージがライトで照らされて、僕はその光景に驚く。

 なぜなら、僕の知っているメンバーがステージに立っていたからだ。

 松雪さんがキツネのお面を頭につけたまま、表情豊かにマイクパフォーマンスで場を盛り上げていく。

 佐野くんがドラムを叩き、杉藤さんがキーボードで音を奏でる。金髪の女子は知らない人だけど、ギター? ベース? の担当みたいだった。

 そして、そのメンバーの中心にはメイド服に身を包んだ城戸さんがいた。


「今日の主役は城戸紬さんです! 彼女の歌声を聴けることが、この文化祭で最高の思い出になりますよー!」


 松雪さんがこれでもかと観客の期待を高める。

 そんなこと言って大丈夫なのか? あまり期待を高めすぎると、大したことがないと思われたらガッカリされるんじゃ……。

 ──そんな僕の心配は杞憂だった。

 いざ演奏が始まって、城戸さんの歌声に観客は魅了された。

 僕もその一人だったかもしれない。歌っている城戸さんから目が離せなかったから。


「すごい……」


 陳腐な感想かもしれない。でも、本当にすごいと思ったのだ。

 松雪さんはどこで知ったのか、城戸さんの歌声に気づいてこのバンド演奏を企画したのだろう。

 ミスコンの最後のアピールは時間が限られている。

 一人一分程度の時間しか与えられていない。歌を披露するにしても、こんな大掛かりなバンド演奏はできなかっただろう。

 だからこそ、ここに城戸さんをアピールする時間をねじ込んだのだろう。ミスコンの直前。ここでインパクトを残し、城戸さんの存在を知らしめるために。


「これは、勝ったな……」


 観客の盛り上がりを見ていればわかる。みんなが城戸さんに魅了されているってことを。

 松雪さんのプロデュースは、大成功だったってことだ。



  ◇ ◇ ◇



 バンド演奏の興奮が冷めやらぬまま、ミスコン最後のアピールタイムが行われていた。

 限られた時間の中、みんな頑張ってアピールしているけど、城戸さんのインパクトには及ばない。

 ちょっとずるい気もするけれど、これも作戦勝ちというやつだ。城戸さんの魅力で勝負したのは間違いないのだし。


『では二十四番、城戸紬さんのアピールタイムです!』


 これまでさざ波程度だった観客の声が、城戸さんが前に出ただけで、わっと大きくなる。

 先ほどのバンド演奏が充分アピールになっていた。

 城戸さんはもう特別なことをしなくていい。自分を売り込むだけで、観客の大半は彼女に票を入れるだろう。

 そう、勝ちはもう決まったも同然……。

 でも、だからこそ今この時が、悪意の入り込む余地が一番大きい。そのことを、僕は警戒しておかなければならなかった。


「城戸紬って、父親を半殺しにしたっていう女子だろ。そんな奴がミスコンに出場してもいいのかよ?」


 盛り上がった熱を一気に冷ますような、そんな悪意のこもった声が体育館に響いてしまったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ