33.都合のいい幼馴染
城戸さんに試着してもらって、作ったメイド服に問題がないことを確認した。
用事が終わったらすぐに帰るつもりだったんだけど、城戸さんが「大貧民がしたい」とトランプを出したので、三人でやった。
友達とこうやって遊ぶ機会がなかったのだろう。楽しそうに遊んでいる城戸さんを眺めながら微笑ましくなった。
……でも、僕の「革命」を即座に「革命返し」した松雪さんが、この時だけは悪魔に見えた。あの嬉しそうな顔ったらもう……憎たらしい!
大貧民が白熱しすぎて、すっかり帰るのが遅くなってしまった。
「遅いよ比呂!」
「って、なんで美月が僕の部屋にいるの……」
帰宅して自室に入ると、美月が我が物顔で待ち構えていた。
今日は泉くんと誕生日デートをしていたはずだけど……。何かあったのかな?
「私、まだ比呂から誕生日プレゼントをもらってないんだけど?」
「ものすごくくだらない理由だった!」
「くだらないって何よ!」
誕生日プレゼントを催促しに来ただけって……それでわざわざ僕の部屋で待っていただなんて、けっこうくだらないと思うんだけども。
でも、そうだった。美月はこういう奴だった。
「泉くんに誕生日プレゼントもらったんじゃないの?」
「もらったよー。彼ったらセンスがあるから、比呂には思いつきもしないようなプレゼントを用意してくれていたの」
美月は「きゃー♪」と黄色い声を上げながら、ノロケ話でも始めそうな雰囲気。
煽ってるのかな? 憎たらしい顔がここにもあった。
「ねえ知りたい? 知りたいでしょ? どんなプレゼントだったのか気になるでしょ」
「いいや別に」
ていうか知ってるし。その泉くん本人と一緒に選んだんだから。
しかし、そのことを知らない美月はうざい態度をやめようとしない。
「またまたー、そんな強がっちゃってー」
「……」
どうしよう……。美月が喜びすぎて調子に乗ってるってのはわかるんだけど、滅茶苦茶ムカつく。
「そんなにいいものをもらっているんなら、僕のはいらないだろ」
「それはそれ、これはこれだから」
「なんだよそれ……」
もらえる人からは、とりあえずもらっておこうってか?
はぁ、と息を吐き出す。
「わかったわかった。プレゼントあげるから早く家に帰ってよ」
このままノロケ話でもされたら面倒だ。適当な物を渡してさっさと帰ってもらおう。
「ちょっと比呂ー、なんか冷たいよ?」
「別に普通だよ」
「嘘だー。もしかして怒ってる?」
「うざ絡みしてくる美月に怒りそうではあるね」
僕の言葉に「はあ?」と眉尻を上げる美月。
「私がいつうざ絡みしているっていうの?」
「今してるだろ。こっちは文化祭の準備で忙しいってのに」
「忙しいって何よっ。わ、私の誕生日なのよ。比呂ったら、いっつもバカみたいに喜んでいたじゃない!」
「自分の誕生日でそこまで盛り上がれるのは小学生までだよ。それにバカみたいって……僕のこと、そういう風に思ってたんだ」
美月の頬がピクピクと引き攣る。僕も似たような顔をしているのだろう。
……あれ、僕って今何か失言しなかった?
「ひ、比呂が私の誕生日をお祝いしないなんてあり得ない!」
「自分が一番なんて思わないでよ。僕が美月以外を優先することだってあるんだから」
そういえば、去年までは美月の誕生日を真っ先に祝っていたっけか。
でも、今回は泉くんがいる。
それに、こっちだって文化祭の仕事が他にもあるのだ。城戸さんのことだって気になるし、美月のことを構っている暇がない。
「……」
言葉が途切れる。
僕にとって美月が一番じゃなくなっていた。考えながら、今更そのことに気づいたのだ。
「な、何よ。何か言いなさいよ」
「……僕は、美月にとって都合のいい幼馴染じゃないんだ」
「え?」
僕は美月を都合のいい幼馴染だと思っていた。
どんな時でも助けてくれる。僕が困っていたら手を引いてくれる。
コミュニケーションが下手で、誰とも友達になれなかった。それでも美月がいてくれれば心強くて、なんとかなると思っていた。
だから美月に必要以上に寄りかかっていた。
でも美月にも、少なからずそういうところがある。
「僕にも都合ってものがあるんだから、美月の言いなりばかりにはなれないよ」
「な、何よそれ……。私が比呂のことを無理やり言うこと聞かせているっていうの?」
「そこまでは言ってないけど」
「……もういい!」
美月が僕のベッドにあった枕を投げつけてきた。抜群のコントロールで、僕の顔面に命中する。
「どうせ松雪さんや城戸さんみたいな可愛い子と仲良くなって調子に乗ってるんでしょ! これだから男子ってやつは……もぉ~~っ!!」
「み、美月だって泉くんという格好いい男子を彼氏にして──」
「うるさい!」
美月の大きな声に、僕は押し黙ってしまった。
くっ、こんな時に幼い頃からの上下関係に負けてしまった……。
ズカズカと足音を立てて、美月は僕を横切る。
「幼馴染の可愛い女子をないがしろにして……後悔することになっても、もう知らないんだからねっ。バイバイ!」
美月は捨て台詞を吐いて、バタンッ! と大きな音を立ててドアを閉めた。
「美月ちゃん、大きな音がしたけど、比呂と何かあったの?」
「おばさんごめんなさい。ちょっと力が入りすぎちゃっただけなの。力が有り余っているお年頃なので」
ドア越しに下の階で母さんとのやり取りが小さく聞こえてきた。外向きの声になっているし、上手く取り繕えているのだろう。
「僕のバカ……」
せっかく気持ちの折り合いがつけられてきたところだったのに……。
こんなことで美月と喧嘩していたら意味ないじゃないか。
「そういえば美月と喧嘩したのって、初めてかも……」
覚えている限りでは、一度もなかった。
僕が美月に文句を口にするなんて、考えたこともなかったから。
ちょっとムカついたくらい、すぐに流してしまえばよかったのに。なんで僕って奴は、こうも空気を読めないのだろうか。
「クソがあああああぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁぁーーっ!!」
成長しない自分に、苛立ちが溢れる。
どんな感情があったとしても、時間は流れていく。
僕は美月と仲直りできないまま、文化祭を迎えたのであった。




