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僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです  作者: みずがめ


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26.城戸さんが嫌われている理由

 城戸さんの妹さんが産まれて、そのすぐ後にお父さんが事故で亡くなってしまったのだそうだ。

 それがきっかけで、城戸さんのお母さんが家庭を守るために忙しく仕事をするようになったのだとか。

 そのため妹さんの世話は主に城戸さんがしていた。妹さんも面倒を見てくれる姉によく懐いていたようだ。


「なのになぜ、紬さんが妹さんに嫌われることになるのですか?」


 ようやく怒りから解放されたらしい松雪さんが、僕が思った疑問を尋ねてくれる。


「それは……」


 口ごもる城戸さん。

 妹から嫌われた理由。その原因はとても話しづらいことのようだった。

 僕と松雪さんは話を急かすことはせず、城戸さんが口を開くのをじっと待ち続けた。


「それは……お母さんが再婚したのが始まりだったの」


 城戸さんが中学二年生の頃に、新しい父親ができた。

 美形で優しい男性。小学校に入学したばかりの妹さんはそんな義理の父親に、実の父の顔を知らなかったこともあり、すぐに懐いたようだ。

 義理の父親も甘えてくる妹さんを可愛がっていたのだそうだ。知らない人が見れば、本当の親子と見間違えるほどに仲が良かったらしい……。


「でも、それはあいつが仮面を被っていただけだった……っ」


 城戸さんの目つきが険しくなる。

 僕が初めて見る目だった。優しくて不器用な彼女とは思えないほど、憎悪に満ちていたと言っても過言じゃない。

 城戸さんは苦しみを吐き出すかのように話を続ける。


「あの日……家には妹しかいなかった。お母さんは仕事の用事で帰るのが遅くて、私は妹が寂しくならないようにと思って、できるだけ早く帰宅したの……」


 義理の父親が来て、半年ほど経った時のこと。

 城戸さんが家に帰ると、妹さんと……義理の父親の靴があった。

 お母さんの仕事が在宅ワークというのもあり、今まで家に妹さんと義理の父親の二人きりになることはなかったのだそうだ。

 早く顔を見せたいと思った城戸さんは、妹さんを探した。

 リビングや台所にいなくて、トイレにもいなかった。どこだろうと城戸さんが思った時、二階から物音が聞こえた。

 自分の部屋にいるのだろうと気づいて、城戸さんは階段を上がった。

 義理の父親の姿も見えないことに薄々気づきながら、この時はあまり深く考えなかったようだ。


「あたしが妹の部屋に入ると……、は、裸のあいつが……妹に襲いかかっていて……っ!」


 その時城戸さんが目にしたものは、話を聞いているだけの僕ですら顔をしかめてしまう状況だった。

 まだ幼い妹さんに、全裸の義理の父親が馬乗りになっていたのだ。年頃の女子であれば、怯えて動けなくなってもおかしくない光景だろう。

 だが、城戸さんはそんじょそこらの女子とは違っていた。

 妹さんによからぬことをしようとする義理の父親を、容赦なく蹴り飛ばしたのだ。

 そこから先の記憶は曖昧のようだった。城戸さんが気がついた時には大の字で気絶した義理の父親と、足の裏に残る何かを踏み潰した感触だけだった。


「お母さんはあたしを信じてくれて……。すぐにあいつと離婚してくれたけど、妹はあたしのことを怖がっちゃって……」


 幼かった妹さんには、なぜ城戸さんが義理の父親を蹴り飛ばしたのかよくわからなかったらしい。

 義理の父親も、幼いのをいいことに、妹さんを上手く言いくるめていたのだろう。裸の男を前にしても、「あれは遊んでるだけだったのに」と襲ってきた側を庇っていたのだそうだ。

 そう言えるということは、城戸さんのおかげで最悪の事態は回避できたということなのだろうけど。


「あたし、必死だったのに……妹を守らなくちゃって、それだけだったのに……」


 いくら説明しても、妹さんは理解してくれなかった。よほど義理の父親のことが好きだったのか、次第に離婚したのは姉のせいだと口にするようにもなったのだそうだ。

 ……どうして、報われないのだろう。


「あたし……すごく嫌われて……。口も利いてくれないし、顔すら合わせてくれなくなった……っ」


 大切な妹に無視をされる生活が続いて、城戸さんは自分がしたことが本当に正しかったのかわからなくなった。

 事が事だけに、お母さんと義理の父親は示談が成立して離婚した。妹さんに近づかないようにと、約束をさせたらしい。


「あの時、警察には通報しなかった。妹のために事件にしないようにするためだと思っていたけど、本当はあたしがやりすぎたから……あたしが捕まらないようにするためだったんじゃないかって思えてきて……」


 こんなの、正当防衛に決まっている。

 それでも、人を傷つけたのは事実で。それもまた、彼女のトラウマになっているようだった。


「だから、お母さんに頼んで一人暮らしさせてもらったの……。妹に嫌われているし……そんな妹があたしを警察に突き出すんじゃないかって不安だったから……」


 城戸さんのお母さんは、妹さんが大きくなればわかってくれるだろうと言っていたらしい。

 それまでは、距離を置くことも姉妹のためだろうと。考え抜いた末に許可してくれたようだ。


「今日……妹が熱を出したって連絡があって……。心配だったからお見舞いに行こうかってお母さんに言ったら……それを妹が聞いていたみたいで……」


 城戸さんの声に涙が混じる。


「電話越しに『絶対に来ないで』って……言われちゃった」


 城戸さんは、耐え切れず涙の粒を零す。


「……」


 だから、昼休みに城戸さんは泣いていたのか。

 とても重たい話だ。僕なんかが想像もできないつらさを、彼女は経験していた。

 何か慰める言葉をかけるなんて、そんな軽々しいことはできなかった。


「……比呂くん?」


 それでも、城戸さんを孤独にさせてはならないと強く思った。

 胸が熱い。無意識に拳に力が入る。

 衝動のまま、僕は腰を上げていた。


「……っ!?」


 考えがあったわけじゃない。ただ、気がついた時には城戸さんを抱きしめていた。


「頑張った……城戸さんはものすごく頑張ったよ」


 胸の辺りが、熱く湿っていくのがわかる。

 城戸さんは、妹を守るために戦った。

 きっと賢い人なら、僕たちが思いつかない方法で、嫌われることもなく上手く妹さんを救い出せるのかもしれない。

 けれど中学生の女の子で、いきなり男に襲われている妹を見て動ける人がどれほどいるだろうか?

 どんな時でも暴力で解決することは間違いだという人はいるかもしれないけれど。僕は身体を張って大切な妹を助けた城戸さんを、尊敬せずにはいられなかった。


「城戸さんは悪くないよ。妹さんを守るために頑張ったんじゃないか。僕は城戸さんを尊敬するよ。本当にすごいよ。よく頑張ったね」


 城戸さんの背中を摩りながら、思いつく言葉を片っ端からかけていく。

 やっぱり僕は頭が足りていない。こんな時にかけるべき言葉がわからないのだから。

 それでも黙り込むことだけはしなかった。

 このことを話すのに、城戸さんは勇気を振り絞ったはずだ。

 そこまでしたのは、友達である僕たちを信じてくれたからだろう。

 なら僕の意思は変わらない。城戸さんの味方であり続けること。それだけはブレない思いでいたかった。


「う、ううぅぅぅぅぅ……。先輩っ……矢沢先輩ぃ……っ」


 城戸さんが僕の背中に手を回して、子供のように泣きじゃくった。

 たぶん、今まで誰にも言えなかったのだろう。

 話してしまうと妹さんにも迷惑がかかる。妹思いであるお姉ちゃんは、一人で抱え込むことしかできなかったのだろう。


「大丈夫……大丈夫だから……。城戸さんは悪くない。妹さんだって、大きくなれば気づいてくれるよ」


 ほんの少しの力にもなれない自分が情けない。

 城戸さんのお母さんと同じで、時間が解決することを期待するしかできない。

 僕にできることは、絶対に敵にならないということだけ。絶対に城戸さんの味方であり続けると約束することだけだ。

 そのことだけを、城戸さんが泣き止むまで伝え続けたのであった。



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