20.男子二人で仲良く(?)お買い物
どうしてこうなった?
「矢沢くん、こっちのイヤリングはどうかな?」
「えーと……い、いいんじゃないかな?」
「でもこっちのネックレスの方が可愛いか? そもそもアクセサリーって重いかな……矢沢くんはどう思う?」
「えーと……い、いいんじゃないかな?」
放課後。僕は泉くんに誘われるがまま、アクセサリーショップを訪れていた。
男子二人でこんなところに来るもんじゃないだろうに……。そうは思うものの、泉くんの「相談」を、僕は断り切れなかったのだ。
◇ ◇ ◇
「美月の誕生日プレゼントについて相談したいだって?」
「あ、ああ。矢沢くんは羽柴さんの幼馴染なんだよな? だったら彼女の好みにも詳しいんじゃないかなって……」
泉くんは恥じらいながら、僕に美月の誕生日プレゼントについて相談を持ちかけてきた。
美月の誕生日は十月三十一日だ。
十月も半ばが過ぎている今から準備するのはわかるけど、以前僕に相談をしようとした時はまだ九月だった。一か月以上前から相談しようとしていたと思うと早すぎないだろうか。
「だって、初めて彼女の誕生日を祝えるんだ……できるだけいいものにしたいじゃないか」
「そう、だね……」
照れている泉くんを直視できなかった。
この複雑な気持ちを言語化できない。嫉妬みたいなもやもやしたものであり、でもちょっと違った感じがする。
「羽柴さんには秘密で相談したかったからさ。彼女がよく俺のクラスに来るもんだから、なかなか矢沢くんに会いに行けなくて困ってたんだ。いやぁ、まいっちゃうよ。羽柴さんって構いたがりというかさー。休憩時間だけじゃなくて、放課後も俺と一緒にいたがるんだよー」
「あはは……そういえば今日はバド部の後輩に用事があるっぽかったね」
「そうなんだよ。だから今日こそは矢沢くんに相談できるって思ってたわけ。絶対に羽柴さんを喜ばせたいからさ」
「そっかー……」
いや、うん……やっぱこれ嫉妬かも。
ノロケか? よりにもよって美月のことが好きだった僕相手に、ノロケるつもりか?
泉くんに対して殺意が芽生えながらも、僕には断ることができなかった。ああ……本当に「NO」と言える人になりたい……。
そんなわけで泉くんの相談に乗るということで、僕たちは商業施設で美月の誕生日プレゼント探しをしているというわけだ。
「矢沢くんは今まで羽柴さんにどんな誕生日プレゼントをしていたんだい?」
「え、僕?」
「幼馴染なんだろ。互いの誕生日を祝ったりしているんじゃないのか?」
もちろんしていた。
毎年どんなプレゼントにしようか迷っていたものだ。好きだから特別なものを贈りたかったし、だけど気持ちを知られるのが恥ずかしくて。悩みに悩んだ結果、毎回無難なものになっていた。
毎年悩んで……。でも、今年はその悩みもなくなるのかもしれない。
僕の代わりに、誕生日プレゼントで悩んでいる彼氏がいる。当日はプレゼントだけではなく、お祝いと称してデートになんか行ったりするのだろう。
そうすると、僕が美月の誕生日を祝う隙なんかない。
もう、毎年当たり前のようにあった美月の誕生日は、僕の知っているものではなくなるのだ。
「美月には……大したプレゼントを贈ったことがないんだ」
そうだ。僕が美月に贈ってきたものなんて大したことがない。
これからは泉くんが誕生日プレゼントを贈ってくれる。それが思い出となって、美月の記憶から僕という存在が色あせてしまうのだろう。
「そうなのか? まあ幼馴染ってそういうものかもしれないな」
「まあね。ただの、幼馴染だし……」
泉くんが知ったようなことを言う。
僕と美月のことを知らないくせにっ。そんな負け惜しみを抱いてしまう。
「でも、だからこそ矢沢くんの前では自然体なのかもしれないな」
「え?」
泉くんが噴き出した。突然笑うものだからびっくりする。
「悪い悪い。羽柴さんがよく矢沢くんの話をするもんだから思い出しちゃって」
「美月が僕の話を?」
え、どんな話をしているんだろ? き、気になる……。
「うん。幼馴染の良いところも悪いところもたくさん知っていて、それだけの思い出があって……本気で羨ましいと思った。嫉妬するくらいにね」
泉くんが僕に嫉妬?
それは僕が彼に対して抱いてきた感情なのに……。泉くんにそう言われると不思議な気分だ。
「俺はまだまだ矢沢くんに勝てない。思い出だけじゃなく、あんな風に羽柴さんと自然体で接することができない。前に喫茶店で君と会った時なんかすごかったよ。俺は何も口を挟めなかった……」
自分で言いながら、ずーんと落ち込んでいく泉くん。
でも、と。彼は顔を上げた。
「それでも、俺も矢沢くんのように自然体で接してもらえるようになりたい。そのためにも、今回の誕生日プレゼントで羽柴さんに喜んでもらいたいんだ」
「……」
泉くんは、真剣だ。
美月のことを真剣に考えて、彼女との関係をもっと深めたいと思っている。
それはとても純粋な気持ちで、眩しすぎるほどだった。
「美月は、黄色が好きなんだ」
「え?」
泉くんは背が高くて顔もいい。
僕とは比べようがないくらいのいい男だ。
そんな彼でも悩んでいる。努力している。
考えなしになんでも口にする人じゃない。相手の気持ちを考えて言葉を選べる人だからこそ、何も言えず振り回されてしまうことがある。
僕とは違うけど、共通点もある。
彼女の誕生日プレゼントで悩み、幼馴染の僕に相談するくらいなりふり構わない。
自分のプライドのためではなく、美月の喜んでいる顔を傍で見たいから……。
「気分が明るくなるからって。だから黄色が好きなんだって、前に言ってた……よ」
泉くんの、美月が好きだって気持ちが伝わってくる。
こんな純粋な気持ちを知ってしまうと、邪魔をしようだとか足を引っ張ってやろうだとか、そんなこと思えなくなるじゃないか。
「そっか……羽柴さんらしいな」
ニカッと笑う泉くんを見て思う。
美月の内面に触れている男子は、もう僕だけじゃないんだな。
◇ ◇ ◇
「矢沢くん、今日は付き合ってくれてありがとな」
「ま、まあ……決まってよかったよ」
あれから、いくつもの店を回るハメになった。すでに日が暮れていて、美月の買い物に付き合わされた時並みの疲労感に襲われていた。
その甲斐あって、泉くんは無事に美月の誕生日プレゼントを買うことができた。本当に決まってよかったよ……。
「俺のワガママなのに時間をくれて、真剣に考えてくれてさ。矢沢くんは本当にいい奴だよな」
「こ、これくらいは幼馴染だからね」
嘘だ。美月のためじゃない。
泉くんがいい奴だったから。少しだけ応援したいという気持ちが芽生えたのだ。
「泉くん……頑張ってね。美月の誕生日がいい日になるように、幼馴染として願ってるよ」
「ははっ。矢沢くんは本当にいい奴だな。あっと、そうそう忘れないうちに」
泉くんはスマホを取り出して僕に笑いかける。
「俺と連絡先交換してくれないか?」
「え?」
え? い、いいのか? 別に友達とかそういうわけじゃないよね?
「ま、まあ……別にいいけど」
「おいおい、別にってなんだよー」
僕もわからんっ。こういう時になんて言えばいいのかわからんっ。
そんなわけで、僕のスマホに初めて同級生男子の連絡先が追加されたのであった。




