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不死鳥は婚活中……?

 飛び立ちながら巨大化した不死鳥が左の翼を傾けて、乗りなさい、と精霊言語でぼくたちに呼びかけると、身体強化をかけたぼくたちは不死鳥の翼に飛び乗った。

 大きな艶々な羽の手触りにぼくたちはうっとりした。

「ジーンや母さんにも触らせてあげたっかった」

 父さんの言葉にぼくたちは頷いた。

 アナベルのやり直しの打開策を一緒に考え邪神の欠片の消滅に大きく貢献した、母さんやお婆やイザークがいない事が残念だ。

 “……北から見に行くことにするかい?途中で全員を拾っていこう!”

 えっ!いいのか!と不死鳥の背中の上で顔を見合わせたぼくたちに、ああ、いいとも!と気さくに不死鳥は答えた。

 “……カイルのささやかな望みだ。みんなで世界中を飛行しよう!”

 やったー!と声を上げて喜ぶと足に力が入ってジャンプしそうになった。

 おっと!

 大きな不死鳥と言えども乗せてもらって跳びはねたらいけない。

 “……全員乗っても重くないよ。神々のご加護で大きくなった私は重さを感じない”

 不死鳥は、ガンガイル王国建国の王と上級精霊と共に乱世の世界を平定するために活躍した小さなオナガだったことを、圧縮した精霊言語の映像を脳内に直接見せてくれた。

 この世界の外に魔力が漏れないように東西南北に砦を築き、紛争で魔力を消耗することの不毛さを世界中の権力者たちに訴え続け、世界平和へと導いたガンガイル王国の建国王は、自身は大きな土地を求めず北の端っこに小さな国を興した。

 その功績が神々に認められ、上級精霊は精霊神に、オナガは不死鳥になったらしい。

「ガンガイル王国の伝説通りだったのですね!お祖父様がこの話を聞いたら狂喜乱舞したでしょうね」

 キャロお嬢様の言葉にぼくたちは笑った。

「全員乗ったよ!」

 アナベルの声を聞いた不死鳥は体を傾けて上昇した。

 地上で手を振る二人の上級精霊と教会関係者たちへぼくたちが手を振り返すのを待ってから、不死鳥は高度をグングン上げた。

 浮かび上がった大聖堂島の全貌は、島の底を突き抜けて伸びる木の根が次第に細くなっており、まるで風船についた紐のように根っこの一部が湖へと続いていた。

「浮いたと言っても、まだ、木の根が湖底と繋がっているのかな?」

「湖底のことまではわからないが、横から見ていた分には、長い根っこの先端はまだ湖面に入っていたな」

 父さんの説明にタイルに乗って避難していたノア先生たちが頷いた。

 “……まだ、南の地域の魔力が足りないから世界の理にしっかり固定されているのだろう”

 不死鳥の推測に犬型のシロが頷いた。

 “……カイルたちが生きている間に大聖堂島が独立して浮かぶようになるかはわからないが、その時に再びみんなを乗せて世界を巡ってみたいものだ。みんな、この風景を覚えておいてくれよ”

 不死鳥の言葉にぼくたちは頷いた。

 夜空を黄金色に染める不死鳥の両脇に怪鳥チーンの夫婦が飛び、その両脇に水竜のお爺ちゃん夫婦が飛び、その横を飛竜たちが飛ぶ、横一列の連帯飛行の間を精霊たちが戯れるようにすり抜けていく。

 不死鳥が近づくと地上は夜でも昼のように照らされ、町では人々が森では魔獣たちが空を見上げ、魔鳥たちは自分たちの飛べる精一杯の高度で不死鳥に追随するかのように羽ばたいていた。

 世界が平定するたびにこんな風に派手に不死鳥が飛んでいたら、怪鳥チーンではないが、不死鳥にすべての名声が集まってしまうのも頷ける。

 “……ハハハハハ。私は悪しきものにまで魔力を活性化させてしまうのは不本意だから、こういった機会にしか飛べないからな。大きな力を得てしまうと、なかなかもって自由が利かなくなる”

 不死鳥のぼやきに水竜のお爺ちゃんが笑った。

 “……ああ、小さくなるのは便利だよ。おお、あの地域はいい葡萄の生産地で赤ワインが美味い。あっちは……”

 水竜のお爺ちゃんが嫁に説明しているのはお酒の話ばかりだ。

 “……ジーンやジェニエを乗せたら、もう少し面子を増やさないかい?オスカー、大きい方のオスカーとオーレンハイムの夫婦を乗せてやりたい。あいつらも面白かった”

 不死鳥の言葉に水竜のお爺ちゃんが、そうだそうだ、と賛成した。

 不死鳥は精霊言語でオーレンハイム卿が魔獣学講座の体力テストでグループ一位になった映像をみんなの脳内に送り付けたので、活躍したね、とぼくたちは笑った。

 “……ああ、ガンガイル領領主も乗せてやろう。騒がしくしたら乗せない、と先に言っておけばあの性格でもなんとかなるだろう”

 不死鳥の提案に、廃鉱跡で邪神の欠片の魔術具を処理した時の掃除機の魔術具を背負ったエドモンドの静止画をアナベルがぼくたちに見せると、あの頃は小型化したといってもこんなにおおきな魔術具だったのか、と感慨深く思ったのは関係者だけで、ノア先生たちは領主自ら瘴気と格闘したのか、と驚いた。

 “……いい爺さんだけれど、周りが支えてやらなきゃ暴走するんだよなぁ”

 不死鳥のぼやきにぼくたちは笑いながら頷いた。

 ドグール王国上空を飛行すると、カテリーナ妃の火竜が山脈の頂で出迎えてくれた。

 “……カテリーナやアルベルトはいい奴らだから乗せてあげたいが、これ以上目立ったら帝国からのやっかみが酷くなるだろう。手を振るだけに留めておこう”

 不死鳥の配慮に賛成したぼくたちが頷くと、不死鳥が率いる魔獣飛行の群れに火竜が参加してアルベルト殿下の離宮の上空まで一緒に飛行した。

 アルベルト殿下の中庭で手を振る両殿下とヘルムート王子にぼくたちが手を振ると、ヘルムート王子が喜んで跳びはねていた。

 可愛い。

 “……なあ、ジュエル。三つ子たちも乗せてやらないか?まだ、正式な洗礼式ではなかったけれど、神々の御祝いのご加護は先にもらったんだし、いいだろう?”

 思慮深い不死鳥は三つ子たちの保護者に判断を仰いだ。

「家族全員が乗っているのに、置いていく選択肢はないです。正直、幼い子どもたちのことまで不死鳥にお願いするのは厚かましいかと考えて、黙っていました」

 “……いいよ。あの子たちは分別があるから私の背の上ではしゃぎまわることはないだろう。エドモンドと一緒に不死鳥の貴公子も乗せてやるれば、あの子の異名も分不相応とは言われなくなるだろう”

 不死鳥に乗った貴公子なら、不死鳥の貴公子で間違いない。

「ご配慮ありがとうございます!」

 評判ばかりが先行する弟を気遣うキャロお嬢様は、不死鳥の貴公子が三人に増えた、と小声で喜んだ。

 “……そうか!カイルがいつも控えめで友人を立てているように見えたのは、自分に集まる注目を友人たちに分散させていたのか!”

 “……あのなぁ、目立つと本当に自由がなくなるんだよ。ガンガイル王国の建国王も神々からの過度な褒賞を断り、人間でいることを選んだから、私が褒賞を得てただのオナガが不死鳥になれた。大きな力を得たが、私は自分に釣り合う(つがい)に出会うことはないだろう”

 不死鳥は神々から神聖なる力を授かったが、生涯独身で暮らすことになってしまったのか。

 怪鳥チーンも竜族たちもみんな伴侶がいる。

 ガンガイル王国との国境の山脈まで見送ってくれた火竜を出現させるカテリーナ妃も、魔力の釣り合うアルベルト殿下と出会った。

 不死鳥はありのままの姿で世界中を飛べるのは精霊たちが溢れる世界が安定した慶事でも起きなければできないから、今こうして世界中を飛び回って伴侶を探しているのかもしれない。

 “……ハハハハハ。新たな不死鳥が誕生しない限り私の番は存在しない。カイルが連れている魔獣たちがスライムや猫や飛竜だった時点で、邪神の欠片が消滅しても私の伴侶は誕生しないだろうと考えていたよ。カイルの起こす波紋の影響が大きくなっていったが、それでも、大聖堂島が浮かび上がるなんで微塵も考えなかったな”

 不死鳥の言葉に、この機会に嫁探しをしている、と考えたのがぼくだけじゃなかったようで、不死鳥の背の上のみんなが、そうですね、と苦笑した。

 ぼくとケインとボリスが誘拐された時に連れ帰ったのが猫ではなく鳥だったら、今回のご褒美に不死鳥が誕生したのだろうか?

 “……ご主人様。ご主人様の選択が違えば事態は変わっていたでしょうから、何とも言えませんね。精霊たちは猫たちとスライムたちとのやり取りが好きだったのです。辺境伯領が面白い、と噂が精霊たちの間で囁かれるようになり、精霊たちが辺境伯領に集まったことから、上級精霊たちが一縷の希望を託して発酵の神が誕生したのです”

 みぃちゃんとみゃぁちゃんがぼくたちの家族にならなかったなら、こんな大団円を迎えることがなかったのかもしれない。

 みぃちゃんとみゃぁちゃんは救世主集団の一員だ。

「私は未来都市を見ているのでしょうか?それとも、山脈を越えたら異世界なのでしょうか?」

 ノア先生の言葉に助手が頷いた。

 二人が驚いたのは辺境伯領上空から辺境伯領都を視力強化で見たからだ。

「辺境伯領都では瘴気や死霊系魔獣の対策が万全なので、今は日没後も市電が運行しています。市民たちは仕事が終わってから繁華街で一杯ひっかけたり、祠巡りをしたり、スライムたちの上映会を見たりするのに鉱山のトロッコみたいな魔術具に乗って移動するので、市電は遅くまで運行しています」

 父さんの説明に、ホェー、と二人は奇声を発した。

「あの大きな車輪みたいなものは何ですか?」

「あれは、観覧車です。街を一望する遊具ですよ。あら、お祖父さまたちが中庭にいますわ!」

 領城の中庭に領主一族が出そろってぼくたちに手を振っていた。

 “……ガンガイル王国建国王直系子孫、ガンガイル領主エドモンド!其方と孫息子を我が背に乗せて世界を見せてやろう!ただし!、建国王の話を長々とするのは禁止だ!いろいろ偉業を成した偉大な人物だったが、子孫の伝承は一部事実に反する箇所があり、私にはどうにも許しがたい”

 やっぱり話が盛られていたのか、とキャロお嬢様が笑った。

「お約束いたします!不死鳥様!」

 エドモンドに向かって、様はいらない、と言った不死鳥は、領城の中庭に下降すると尻尾を垂れ下げ、エドモンドと不死鳥の貴公子に、早く乗れ!とせかした。

 大人の背丈ほどの高さまで垂れ下がった尻尾に孫を抱えたエドモンドが飛び乗るのかと思いきや、足ではなく腕に身体強化をかけたので、孫を放り投げる気だと察したアナベルは咄嗟に二人を一本釣りした。

「領主様、うちの家族のスライムが失礼いたしました」

「いや、よい。孫はたかいたかいで喜ぶ年を過ぎたし、引き上げられる感覚を味わうのも悪くない!」

 一本釣りはかなりの重力がかかるはずなのに不死鳥の背の上では重さを感じないのか、それともエドモンドが強靭なのかわからないが、スライムに引っ張り上げられながら、ゲラゲラとエドモンドは笑った。

 背中の上に着地した不死鳥の貴公子が胸を押さえているから、釣り上げられている時の重力はあったようだ。

 不死鳥はそのまま低空飛行で領都を縦断し、噴水広場で湧き上がる精霊たちの間を突き抜けながらぼくたちの実家に向かった。

 “……ジーン、ジェニエ、三つ子たちよ!不死鳥に乗って世界一周をしよう!”

 裏庭に出てぼくたちに手を振っていたみんなは、不死鳥の呼びかけに歓声を上げた。

 笑顔で手を振っていたぼくたちの首が伸びたのは、鶏舎からチッチが飛び出してきたからだ。

 “……カイルー!あたしも世界旅行につれて行って!”

 おや、そういえば鳳凰に姿が似ている不死鳥は小鳥のオナガだった。

 チッチは雌鶏だ。

 性別こそ雄雌だが、種が違う……。

 母さんとお婆と三つ子たちの元に飛んでいく、飛べる鶏チッチが、突然、真っ白な閃光に包まれ、ぼくたちは目を閉じた。

 余計なことを考えたな、とシロと兄貴がぼくをじろっと見た。

 “……ご主人様。神々はご主人様に褒賞を与えたくて仕方ないのです。番のいない不死鳥を気の毒に思ったり、不死鳥が雌雄で鳳凰と呼ばれる異世界の伝説の霊鳥に似ているなんて考えたら、……こうなりますよ”

 ああ、これはぼくがやらかしたのか!

 瞼の裏まで透ける光が白から黄金に変わると、ああああああああ!と何が起こるか予測できた地上と不死鳥の背中の上の全員が叫んだ。

 光が収まり目を開けると不死鳥の隣に母さんとお婆と三つ子たちを背に乗せたもう一体の不死鳥が飛んでいた。

 “……だから言っただろう。不死鳥は何もしていないんだよ”

 ぼくたちの脳内にワイルド上級精霊の精霊言語が響いた。

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― 新着の感想 ―
あれ?帝都の中央協会の鶏がコッコで、カイルの実家の鶏はチッチだったような? (EP.376「あたしを教会に連れてって!」に記載あり) 今回登場なのは、ガンガイル王国にいるので、チッチではないでしょうか…
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