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東方連合国合同チームの勢い

 領城で競技会の予選の上映会をすると、ジャミーラ領では帝都の魔法学校の卒業生が少ないこともあり集まった人たちは物珍しそうにスライムの画面を見ていたが、東方連合国合同チームとガンガイル王国留学生チームの圧倒的な強さに圧倒されたように見入った。

「凄いでしょう。このレベルの競技会で小さいオスカー殿下は昨年最優秀選手に選ばれたのですよ」

 ノア先生が、自慢の受講生です、というとジャミーラ領主より先にオレールが頷いた。

「私が帝国留学していた時よりはるかに選手たちの魔力量も戦略もレベルが高いようですね」

 中級貴族出身のオレールが帝国留学をしている事実に人々は驚いているが、認識阻害の魔法で男装しているお婆もケインも平民だけど帝国留学している。

「ああ、そろそろ始まるころですかね」

 ノア先生の言葉に中継を担当しているケインのスライムは他のチームの予選の映像から生中継に画像を切り替えた。

 今年の決勝戦の競技台はそろばんの玉のような潰れた六角形で左右の両端が両陣営の自陣として橙色と白に染められていた。

 競技台の中央で試合開始前の挨拶をするとデイジーの小ささに目が行くが、上級魔法学校生ばかりの相手チームに対して中級魔法学校生の選手が多い東方連合国合同チームが整列すると体格差が一段と際立っていた。

 王族が多いチームだという前情報がなければ、圧倒的に体格のいい橙チームの方が強そうに見える。

「競技会の決勝トーナメントに出場できる選手は帝国軍のエリート候補ですわ。その中で中級魔法学校生ながら活躍するオスカー殿下は、皇子として虚構の実績を盛られたわけではなく、予選会から決勝戦までの実績が評価されて昨年度最優秀選手に選出されたのです。今年度、私は予選から全試合に出場しています。殿下の連続受賞を止めるのは、私ですわ」

 口元に小指を立てた手を当てたキャロお嬢様が、オホホホホ、と笑うとジャミーラ領の人たちはドン引きし、キャロお嬢様の芝居がかった仕草に、そうですわね、とオーレンハイム卿夫人も乗りを合わせて満面の笑みを見せた。

 当の試合展開は本戦から参戦したマリアが先鋒に立ち、早々に肩越しに火竜を出現させると、その余波だけで競技台から落ちる選手がいた。

 会場も上映会会場も見ごたえのある大きな炎を吐き出す火竜に、おおおおお!と歓声が上がった。

 自陣の最後尾からデイジーが刺股で風魔法を起こしマリアの火竜の炎を競技台上にまんべんなく流すと、また真似したね、とウィルが苦笑した。

 東方連合国合同チームと対戦するとなればマリアの火竜に焼かれる対策を立てるのは当然で、対戦相手の橙チームは選手たちの鎧に耐熱魔法を施していたのか先鋒たちが怯むことなく突き進むと、東方連合国合同チームの自陣の左右から小さいオスカー殿下とアーロンが進み出て大槍を振り回した。

 二人の大槍は味方のそばにあるマリアの火竜の炎を巻きつけるように集め、からめとった炎が小さな火竜となって攻め込んできた敵先鋒に襲い掛かり、鎧を破壊して服を少し焦がした。

「やり過ぎじゃないでしょうか」

 お婆は前髪が焦げた橙チームの選手を見て顔を顰めた。

「いや、やり過ぎないように小さいオスカー殿下とアーロンの後ろについている選手が、敵選手に怪我がないように皮膚の表面に霧を出現させている。服や髪がちょっと焦げてもやけどはしていないはずだよ」

 オーレンハイム卿の解説にお婆とオーレンハイム卿夫人は安堵の表情を見せた。

 スクリーンに映し出される競技台上では、鎧を破壊された選手たちがデイジーの刺股が帯電してバチバチと青白い雷撃が走るのを目にして、あれを食らうのか、と顔を歪めた瞬間、小さいオスカー殿下やマテルの大槍の柄に薙ぎ払われて競技台から落とされていた。

 潰れた六角形の端から順に競技台が次々と白く染まっていくと、会場内から、白く染めろ!とチャントが沸き起こった。

「これ、去年のガンガイル王国留学生チームの応援コールでしたよね」

 ノア先生の突っ込みにぼくたちは頷いた。

「まあ、今年は東方連合国合同チームが白ですし、このまま真っ白に競技台を染めてしまう勢いがありますからね」

「自分たちは競技台を黒く染める自信をもって試合に挑むだけです」

 ぼくの言葉にボリスは、今年は真っ黒にして会場を沸かせる、と意気込んだ。

 スクリーンに映し出される競技台上に橙の選手たちがほとんどいなくなってもデイジーは容赦なく帯電させた刺股を振り回した。

 鎧の破損がある橙の選手たちが恐怖に青ざめると、マリアの火竜が残った選手たちにとぐろ状に巻きついた。

『降参です!』

 橙チームの代表はすでに競技台から落下していたが、競技台の下から大声で叫んだ。

 だが、デイジーの雷撃はすでに放たれており、マリアの火竜に包み込まれている選手たちに命中した、と思いきや、マリアの火竜が雷撃を天に返すように垂直に跳ね返し、雷撃は天井付近の防御の結界に吸い込まれた。

『試合終了!勝者、東方連合国合同チーム!』

 審判の言葉が聞こえるまで息をのんでいた会場でも上映会場でも大きな歓声が沸き上がった。

 競技台を真っ白に染めることはできなかったが、今年度本戦第一試合で降参を引き出した東方連合国合同チームに惜しみない拍手が送られた。

「……これは素晴らしい試合でした」

 興奮に顔を赤らめた領主の言葉にジャミーラ領の人々は頷いた。

 “……いやぁ、確かにすごく面白い試合だったよ。でもさ、ここまで強くなくても仕方ないから、ジャミーラ単独のチームの試合が見たかったな”

 パンダの率直な感想にジャミーラの人たちは頬の筋肉を硬直させた。

 自分は単独でご神木を守れなかったくせに人間には厳しいんだな、とぼくたちの魔獣たちがパンダを白い目で見ると、パンダは恥ずかしそうに両手を頬にあてて首を横に振った。

「ガンガイル王国も単独チームを作るまでに何年も準備期間を置いていましたよ。東方連合国合同チームに小さいオスカー殿下が参加している間に、チーム編成や試合運び、魔術具の流行傾向を研究できるんですから、ジャミーラ領は恵まれていますよ」

 オレールが空気を読まずに、いいですね、羨ましいです、と口にすると、凍り付いていた上映会場の空気が和らいだ。

「各国の王族が参加するチームに参加できるのはいい経験ですね」

 ノア先生がオレールの話に乗ると、うんうん、とオレールは頷いた。

「そうなんですよ。東方連合国とつながりが持てるなんて羨ましいですよ。ガンガイル王国は良質な鉄鉱石の産出地ですが、東方連合国の鉄鉱石もなかなか魅力的なのです。輸出規制もあってなかなか入手困難を極めるのですが、ジャミーラ領は東方連合国から大聖堂島への物流の拠点になるから、壊れて破棄された魔術具なんかが集まりやすいでしょうね。仲良くなって少し融通してもらいたいです」

 魔術具のジャンク品から東方連合国の貴重な素材が欲しい、と競技会の話から逸れた自分の願望を語りだしたオレールにぼくたちは笑った。

 ガンガイル王国と東方連合国は、未成年のぼくたちは気にしていなかったが、デイジーの一件で緊張状態にあったのに、キール王子を保護したことで国家間の友好的な交流が再開している。

 とはいえ、小さいオスカー殿下やアーロンが使用していた大槍の金属は手に入らないだろう。

「ジャミーラ領で競技会の単独チームを編成するまでの準備期間に、東方連合国の魔術具を集めておけば、ガンガイル王国の魔術具を融通してくださいますか?」

 次期領主のラグルさんがオレールに持ちかけると、自分たちも帝都の魔法学校に進学できるのか!と未成年たちが色めき立ち、オレールは、自分は競技会用の魔術具を開発していない、と上映会場の空気を読まない発言をした。

「飛行魔法学講座に競技会用の魔術具開発の名手がいるのですが、今日は生憎、所用で別の場所に行っています。東方連合国合同チームは彼の開発した魔術具を参考にして今日の試合にも活用しましたね。交流があるとそういった相乗効果が生まれるものです」

 ノア先生はジェイ叔父さんの不在を残念がった。

「あのぅ。私、明日の大聖堂島への試験飛行を終えたあと、帝都に視察に足を延ばしてもいいでしょうか?」

 ダグ老師が領主に直訴すると、何それ!羨ましい!という雰囲気に上映会城内が包まれた。

「ダグ老師!老師は城の杜の守人なのに何日も不在にされたら困ります!」

 ダグ老師の唐突な発言に目を丸くしたドーラさんが止めに入った。

「次期守り人のドーラがいるから大丈夫だろう。其方は無理だというのかい?」

「ちょっと待った!ダグ老師!競技会の最終日まで帝都で観戦されたら、儂だって羨ましいと思うわ!」

 領主の発言に上映会城内の全員が、それはそうだ、と内心思ったが誰も口にしなかった。

 “……儂だってカイルと一緒に世界中を旅したい。競技会だって会場で見たい。けど、森を長く離れるわけにはいかないから無理だ。ダグも諦めろ!”

 精霊言語で訴えるパンダの言葉に会場内の全員が頷いた、と思いきやラグルさんが斜め下を見た後、意を決したように頷いた。

「そうは言っても、誰かが競技会の視察をすべきです!」

 羨ましいからと言って足を引っ張り合うな、とラグルさんが主張すると領主は頷いた。

 会場内では、我こそは、と顔を上げる人物がたくさんいたが、顔面に身体強化をかけて内心を隠しているラグルさんが自分の収納ポーチに手を突っ込んだ。

「ダグ老師とドーラが面白そうなことをしていたから、つい真似して作ってみたんだけれど、私の方がいい出来だと思うのですが、どうでしょう?」

 ラグルさんが収納ポーチから取り出したのは可愛らしいパンダのぬいぐるみだった。

 “……ダグのぬいぐるみより、こっちがいい!”

 パンダの精霊言語にぼくたちも頷いた。

 そんなぁ、とダグ老師が項垂れると、ドーラさんはダグ老師と自分とラグルさんのぬいぐるみをテーブルに並べた。

 ブフっと領主が堪えきれずに笑い出すと、上映会城内にいた全員の腹筋が揺れた。

「ダグ老師。諦めなさい。これは、比べるまでもなくラグルに軍配が上がる。だが、ラグル。自分の仕事の調整が必要だ。帝都まで行くかどうかはさておいて、明日の飛行試験はダグ老師が行くのが順当だろう」

 ダグ老師とドーラさんはどちらかが大聖堂島に行くように調整を取っていたが、次期領主の仕事を放棄するな、と領主はラグルさんに釘を刺した。

「試験飛行を見守れるように、と仕事の調節をしていましたので、当面の間、不在でも大丈夫のように調整済みです!」

 パンダのぬいぐるみを作製していた時点で試験飛行のコンペに割り込む気満々だったのかラグルさんは、問題ない、と胸を張った。

「三人の交代制で試験飛行に参加されたらいいのです!試験飛行は何回でもやりたいですからね」

 ノア先生が間に入ると、それはいい、と三人とも納得した。

「私が一番先に飛行検証に行くよ」

 ラグルさんが自分の作ったパンダのぬいぐるみを左手に掲げると、パンダはラグルさんの右手を取り持ち上げた。

 パンダの判定に異論は起こらなかった。

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