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「おじいちゃん」の策略

「体はもう大丈夫なんだね。この小さい飛竜は癒しがとっても得意なんだけど、治してほしい子はいるかしら?」

 優しく問いかけると、元気そうに見えた子たちもどこかここか傷む場所があったのか自分たちの体のあちこちをねじって確認し、もうどこもいたくない、と答えた。

「よかったわね。それでは病気にならない丈夫な体になるために、みんなを綺麗にしますわよ」

 魔法の杖を一振りして子どもたちに清掃魔法をかけると、きれいになった子どもたちは笑顔になった。

「まほうつかいのおねえさん。ありがとう」

 よしよし、子どもたちにいい印象を与えられた。

 キラキラした眼差しで魔法の杖を見る子どもたちに杖をかざし、魔石が仕込まれたガラスを透かして、このキラキラした粒で魔法を行使できるのだよ、と説明した。

 きれいだね、と見つめる子どもたちは未知なる魔法が詰まった憧れの魔術具を見るようにうっとりと魔法の杖を見た。

 アリオの情報を漏らした子を殴った子どもが切なそうに眉を寄せると、うちのおじいちゃんだってすごいもん、と小声で言った。

 自分の窮地に最初に手を貸してくれた恩人を偉大だと思いたい気持ちはよくわかっているので、そうだね、とぼくは同意した。

「そうなのね。おじいちゃんは凄い人なのね。私の養父も凄い人なのですよ」

 ぼくの、養父、という言葉に子どもたちの顔色が変わった。

「おねえさんも、こじだったの?」

 アリオに心酔している子どもがぼくの話に興味を示した。

「私はあなたたちより小さいころに物凄く強い強盗に襲われて、その場所にいた全員が殺されてしまったのです。私は強盗が怖くてお母さんのスカートの中に隠れて強盗に殺されずに済んだけれど、お母さんとお父さんはその時に死んでしまったのです」

 子どもたちは真剣にぼくの話に聞き入った。

「助けが来るまでずっと動けず、辛かったけれど、助けに来てくれた人が私を家族として引き取ってくださったのです。あなたたちもここを出て新しい家族を作りましょう」

「おじいちゃんがかえってくる……」

 ぼくの言葉に子どもたちは首を横に振った。

「大怪我をした子供がいると聞いても、治りもしない薬を渡しただけでどっか行っちゃうなら、そのお爺ちゃんは家族じゃないよ」

「怪我をした子の話を聞いたら、家族だったら何はさておいて駆けつけるものじゃない」

「いやぁね。そもそも、こんな小さな子どもたちをこんなおんぼろテントに置き去りにするなんて、ろくでもない爺さんだよ」

 キュアとみぃちゃんとみゃぁちゃんは、子どもたちに警戒されないように、とぼくたちが口にするのを躊躇っていた事を遠慮なしに言った。

「……ぼくたちがここをまもっていなくちゃ、おじいちゃんがかえってこられないもん」

 子どもたちがここを守るとはどういうことだろう?

「君たちのお爺ちゃんから何か預かっているものがあるかな?」

 ワイルド上級精霊が子どもたちにたおやかな笑みで問いかけると、子どもたちはポケットから小さな木彫りの犬を取り出した。

 最初から交渉事はワイルド上級精霊に任せておけば早かったな。

「あら、小さな魔石がついているのね。見せてもらってもいいかしら?」

 いいよ、と頷いたアリオを心酔している子どもから木彫りの犬を受取ると、掌の熱が高まった。

 可愛らしいワンちゃんね、と声をかけつつ、どこに邪神の欠片があるのかと視力強化して小さな欠片を探した。

 木彫りの犬の首輪についている魔石には魔法陣が刻まれておらず、隠匿の神の記号の一部が書かれていた。

「かくれんぼの神様の記号の一部が刻まれているようですわ。みんなのも見せてもらっていいかしら?」

 残りの二人からも木彫りの犬を受取ると、魔石に刻まれていた隠匿の神の記号が完成するようになっていた。

 ぼくが確認した時にワイルド上級精霊はぼくたちを亜空間に招待していた。


 ここはどこ?とキョロキョロする子どもたちはお茶会の用意ができているテーブルを見て、ゴクンと生唾を飲み込んだ。

 テーブルの上には子どもたち用に温かいミルクとクッキーが山盛りで用意されており、スライムたちがテーブルの上でぼくたちのためのお茶を用意し始めていた。

 子どもたちに餌付けをして時間を気にせず話を聞きだそうとするワイルド上級精霊の意図を察したウィルが、子どもたちに声をかけた。

「お腹が空いていては話にならないでしょう。温かいミルクと美味しいおやつでお腹を喜ばせてあげましょう」

 甘い誘いに感激して頷く子どもたちをウィルとケインとイザークが抱き上げると、子供用のハイチェアに座らせた。

「お口が喜んでも、お腹がびっくりしてしまうから、ゆっくり食べましょうね」

 ケインが優しく声をかけると、子どもたちは頷き、クッキーを一口齧るなり幸せそうな表情をした。

 三人が子どもたちの気を引いている間に、ぼくとワイルド上級精霊は子どもたちのお茶会の隣の部屋に移動し、三個の木彫りの犬を検分することにした。


「邪神の欠片は木彫りの犬の内部にカプセルが埋め込まれているようです。中身の粒が原野に埋められている物よりさらに小さくしてあるようですね」

「おぞましい話だが、今まで攫ってきた子どもたちに実験していた結果を知っているアリオは、普通の子どもたちが立って歩ける程度まで邪神の欠片を小さくして携帯させたようだ」

「子どもたちには、これを真似た木彫りの犬を作ってすり替えて返しましょう」

 アリオの木彫りの犬を分解する前に三体の木彫りの犬をそっくり真似てササッと作った。

「開ける前に浄化します!」

 光影の注射針を木彫りの犬に差しこむと、木彫りの犬はマッチを擦った程度の大きさの閃光と闇に包まれて邪神の欠片はあっという間に消滅した。

 あまりの手ごたえのなさに、ぼくと共感しているぼくのスライムも首を傾げた。

 残りの二つの木彫りの犬の処理も同様で、ワイルド上級精霊でさえ、小さいな、と感想が漏れるほどあっけない光量だった。

 邪神の欠片を浄化した三体の木彫りの犬を並べてみると隠匿の神の記号は残ったままだった。

 ぼくは悪い想像をして顔を上げると、ワイルド上級精霊も眉を顰めていた。

「三つで一揃いの隠匿の神の記号が一つ欠けると連動している他の二つの記号も消えて、多少なりとも抑えていた邪神の欠片の影響力が解放される仕掛けがあったとしたら最悪ですね」

「あのテントの周囲に張られていた隠匿の魔法陣とも連動しているだろうから、三人の子どものうち一人でも欠けたら守りと隠匿の魔法陣も消え去り、子どもたちは魔獣の餌食になり、子どもたちの死体と邪神の欠片が集める瘴気で死霊系魔獣が集まり、子どもたちを襲った魔獣も取り込んで死霊系魔獣が育つことになるだろう」

 ワイルド上級精霊が推測したアリオの作戦は、三人の子どもたちを生贄として不発弾のような魔術具が放置されている危険な丘陵地帯に放置し、いずれ子どもたちが犠牲になれば、復興を急ぐ小さな町が点在する場所で死霊系魔獣を巨大化させる鬼畜極まりない所業だった。

「全員招集だ!」

 ワイルド上級精霊の言葉が終わる前にマナさんと兄貴とマテルと水竜のお爺ちゃんが部屋に召喚されていた。

 状況を説明すると、子どもたちの不遇さに嘆く以前に全員がアリオの鬼畜さに頭を抱えた。

「私たちが追っている子どもは、馬車の中でアリオとアリオが連れていた子どもと親しく話して木彫りの犬を受取っていただけじゃったのか」

 “……馬車に残っているアリオも子どもを一人連れていた。あの子はどういった状況なの……”

 マナさんと水竜のお爺ちゃんの報告を聞いていると、ぼくのスライムがぼくの肩の上で飛び上がった。

「やばいよ!あいつはアリオじゃない!本物のアリオは、今、クッキーを食べている子と一緒に馬車を降りていたんだって!アリオは、ちょっと用便を足しに行く、と言って離れただけだから子どもたちはすぐに戻ってくると信じているのよ!あたいの分身が追っていたのは、盗んだ上着と木彫りの犬を押し付けられたただの子連れの禿爺だったんだわ!」

 隣の部屋でミルクとお菓子で口が軽くなった子どもたちから聞き取った話と現状をぼくのスライムが要約した。

「子どもたちがしきりにお爺ちゃんが帰ってくると言っていたのは、そのうち立ち寄るのではなく、すぐ帰ってくるという意味だったのか!」

 ぼくの言葉にワイルド上級精霊は眉を顰めた。

「あの近辺にすでにアリオはいなかった、ということは、やけどを負った子どもが死ぬことを予想して、自分だけは邪神の欠片の影響から逃れるために、所持している魔術具を急いでばらまいて、一人逃走を図ったのだろう」

「作戦変更が必要ですね」

 ぼくの言葉に全員が頷いた。

「あたいの分身が極小の光影の短針銃に変身して、木彫りの犬に仕込まれた邪神の欠片を消滅させたら、この木彫りの犬はただの玩具として放置できるかしら?」

 ぼくのスライムの言葉にぼくたちは木彫りの犬を分解して内部を確認した。

 木彫りの犬の内部に仕込まれていたカプセルは古い教会跡地にばらまかれているカプセルと同じもので、中身の邪神の欠片の量に違いがあっただけだった。

「ちょっと待ってね。カプセルに仕込む祝福の魔術具の在庫があるから、これを木彫りの犬に仕込めないかな」

 亜空間にいる間は時間の経過がないのだから、呪いのような木彫りの犬に祝福を詰め込んで、偶々アリオに出会ってしまったばっかりに生贄にされそうになっていた子どもたちの健やかな成長を願う物に変えてしまいたい。

 ぼくが木彫りの犬に仕込みやすいように短針銃の針に通過できる大きさまで祝福の魔術具を小さくしようと提案すると、カイルらしいな、とみんなが笑みをみせた。

 祝福の魔術具を圧縮する方法を検討していると、マテルが首を傾げた。

「カイル君はなぜ、女の子らしさが抜けているのでしょうか?」

 考えることは他にもあるだろう!と突っ込みたくなったが、確かにワイルド上級精霊の亜空間に来てから言葉遣いが戻っていた。

「必要のない場面でイザークの魔法の影響下から抜け出したんだよ。イザークの魔法はあくまで魔法行為を強化するだけにすぎない。カイルは元々緑の一族だから認識阻害の魔法が弱かっただけだ。イザークと同じ部屋に戻れば復活するよ」

 ワイルド上級精霊の説明にぼくのスライムは、ああああ!と叫んだ。

「亜空間から戻る時にマテルとイザークが入れ変われば、そんなに魔術具を小さくしなくても、あたいの分身が邪神の欠片を消滅させて祝福の魔術具を仕込む成功確率が上がるんじゃないかしら?」

「それはそうだが、水竜と一緒に追っている方はどうする?」

 ワイルド上級精霊の言葉にぼくのスライムも、どうしようか?と首を傾げた。

「時を戻して状況を変化させることも可能だが、大きく時を戻すと世界の歪が大きくなるから避けるべきだ。今から時を戻すとしたら……」

「あの子がやけどが治った時より前に戻るのは嫌だな」

 ぼくの言葉にワイルド上級精霊だけでなく全員が頷いた。

 今、亜空間で温かいミルクとクッキーをもらい寛いでいる子どもたちの一人が激痛の伴う瀕死の状態に、二人が激痛の子どもを介抱したいのにどうしようもない状況に戻すなんてあまりにも残酷すぎる。

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