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空回りする作戦

 マテルの皇族を察知する能力が邪神の欠片を察知する能力に切り替わった事に、ぼくたちはハイタッチをして喜んだ。

 “……これで、曖昧な精霊の情報に振り回されずに邪神の欠片を探せるな”

 鞄のキーホルダーとして付いてきて道端の誓いにも参加した水竜のお爺ちゃんが、この先の浄化についても楽になると安堵すると、ぼくたちは隣町を指さして、こっちの解決が先、と言った。

「手順としては、アリオを発見し次第、邪神の欠片を浄化することを真っ先にしますが、アリオが子どもたちを盾に逃走を図ろうとした時はどうしましょう?」

 ぼくの疑問に、全身全霊をかけて逃亡を阻止する!とスライムたちが胸を張った。

「ああ、わかりましたわ!スライムたちが何を話しているかわかりませんが、いざという時には体を張って逃走を阻止するつもりなのですね」

 マテルの言葉に、スライムたちはマテルたちを体で包み込んで阻止しようとしていることを知っているぼくたちは頷いた。

「まずは全員の確保を優先させるということですね」

 ウィルが確認するとワイルド上級精霊とマナさんは頷いた。

 子どもたちの安全に配慮することは当然だが、アドニスを保護しようとした時のような悪人でもアリオは保護者、と考える子どもの行動によって失敗することがないように、スライムまみれにさせてしまおう、と決めて、ぼくたちは次の町を目指して走りだした。


 次の町が目視できる距離まで走った時、ああああああああ!とマテルが絶叫した。

「邪神の欠片が分裂したように三方向に散っていきますわ!」

 マテルが察知した邪神の欠片の気配が、三人の孤児を連れているアリオがそれぞれに別行動をさせた、と考えたら教会関係者に目撃された町でマテル本人から邪神の欠片の気配が薄かったことの答え合わせになる。

「一つは次の町に留まり、一つは領都に向かっています。移動速度から考えると領都に向かっている方は乗合馬車に乗ったままなのでしょう。もう一つは街道を外れましたわ!」

「私たちも三班に分かれますか?」

 兄貴の言葉にワイルド上級精霊とマナさんは首を傾げた。

「このまま馬車が領都に向かうなら好都合じゃろ。そっちはカイルのスライムの分身と水竜が向かって、私たちが二班に分かれたらどうじゃろう?」

 はい!と返事をしたぼくのスライムは小さな分身を水竜のお爺ちゃんのたてがみに潜り込ませた。

 “……馬車の中で拘束すると目立つから、みんなと合流するまで小さくなって尾行を続けるぞ”

 ぼくのスライムの分身を乗せた水竜のお爺ちゃんはそう言うと、邪神の欠片の気配を乗せたままの馬車を追跡しに高速で飛行した。

「街道を外れた方が逃走者らしいルートなので、アリオだと踏んで私が追跡しましょうか?」

 ぼくの提案にマナさんとワイルド上級精霊が頷いた。

「私が町で降りた方を追跡しよう。カイルのスライムの分身を一体貸してくれるかい?」

 マナさんの言葉にぼくのスライムはポンと一体分身を作ると、マナさんの肩に飛び乗らせた。

「私が分裂できないのが悔しいですわ。」

「マテルは私とマナさんの方に行って、ケインとウィルとイザーク先輩は街道を外れた方を追跡した方がいいでしょう。ケインの幻影魔法は町中では目立ちすぎますわ」

 兄貴の意見にぼくたちは頷き、即座に追跡を開始した。


 町に入る手前まで二班は一緒に行動した。

 町の検問所の手前で街道脇の小高い丘を指さして、あっちだ、とマテルが言うと、ぼくは丘の方角に意識を集中させた。

 掌がじんわりと熱くなる。

 あっちに邪神の欠片があるのだろう、と頷くと、ぼくのスライムの分身が先発隊としてオニヤンマに変身し高速飛行で探索に出た。

 ワイルド上級精霊が頷くと、二班はここで別れた。


 街道脇の樹木は低くまばらにしか生えていなかったので一見隠れようがないかのようにみえるが、起伏に富んだ地形で街道から外れると街道から姿が見えないように隠れることが容易な場所だった。

「ある程度町に近いですし、秘密基地としてはもってこいの地形ですわね」

 ウィルの感想にワイルド上級精霊は頷いた。

「何かあるのは間違いなさそうですが、封印の魔術具にでも入っているのか、光影の魔法の反応が薄いのですよ」

 先行しているぼくのスライムの分身は小細工が施されている場所を発見して待機しているが、光影の武器に変身できるほどの反応がない、と困惑している。

「嫌な予感がしてきたな。こっちにアリオはいないだろう」

 ワイルド上級精霊が作戦失敗するかのような言い方をした。

 犬型のシロは首を横に振って残念そうな表情をしただけで何も言わなかった。

 ぼくたちが行きついた先は、窪地の低木に布をひっかけて縛り上げただけのみすぼらしいテントに、誤魔化すように土が被せられていた。

 まるで子どもの遊びのような秘密基地だ。

「一応、守りと隠匿の魔法陣が施されていますわね」

「魔法の気配が丸見えだから、私たちには効きませんね」

 オニヤンマに変身したぼくのスライムと合流して目にした光景に、イザークとウィルが呆れたように言った。

「高度な魔法陣を構築したら発見された時に不審がられるからだろう。奴は退役軍人のふりをしているから、中級魔術師程度の魔法陣しか使わなかったのだろうな」

 上級魔術師だったら軍高官になれるので日雇い労働者に扮するのには不自然すぎるのだろう。

「あのね、分身の一体を羽虫に変身させて潜入させたんだけど、子どもが三人いるだけなんだよね」

 ぼくのスライムの言葉にワイルド上級精霊は頷いた。

「なんだかね、一人がね凄く可哀想な状態なんだよ。光影の魔法が反応しないから邪神の欠片の影響じゃなくて火傷か何かだと思うんだ。二人の子どもが手当てしてあげているの。たぶん、子どもたちがあの町のそばまで行ったのは、アリオに薬をもらいに行っていたんじゃないかなぁ」

 怪我が酷いと聞いてぼくたちは顔を歪めた。

 ぼくのスライムが精霊言語で内部の映像を送ってこないということは悲惨な状態なのだろう。

 そんなに怪我が酷いのならばアリオが連れていた三人の子どもの一人はないだろう。

 まだアリオは子どもを連れて歩いているのかもしれない。

「踏み込む前に癒しの魔法を使っていいでしょうか?」

「ああ、そうだな。子どもたちを驚かせて、負傷している子どもの体の負担になったら気の毒だ」

 ワイルド上級精霊も影響力の弱い邪神の欠片の消滅より先に負傷している子どもの治療を優先することに同意した。

「あたしたちがぼろテントに入って子どもたちの気を引くから、その隙にスライムが回復薬を噴霧しちゃえばいいじゃない」

 みぃちゃんの提案に、みゃぁちゃんとみぃちゃんとみゃぁちゃんのスライムたちが頷いた。

「キュアは私たちと一緒に後から入って、子どもたちの健康状態を一人ずつ見てあげてほしいわ」

 自分も行きたい、とキュアが言い出す前に、行動の順番を確認した。

 いきなり飛竜の幼体がテントに入ったら子どもたちが驚き過ぎるので、ここは猫に任せよう、と提案したことを理解したキュアは頷いた。

 弱いながらも施された結界内に侵入したみぃちゃんとみゃぁちゃんと二体のスライムは、テントの入口と裏側に分かれると、入り口に回ったみぃちゃんが、ミャー、と鳴くとテントの中から物音がした。

 すかさず裏に回っていたみゃぁちゃんが、ミャーミャー鳴いてテントの中の子どもたちの意識を裏に引きつけた。

 みぃちゃんのスライムを背中に乗せたみぃちゃんは素早く入り口の隙間からテントの中に侵入すると、みぃちゃんのスライムが噴霧器を噴射する音が聞こえた。

「大丈夫ですわ!毒じゃありません。お薬を広範囲にまいただけですよ!」

 テントの中でドタバタと慌てている子どもたちに声をかけると、垂れ下がった布に石を乗せただけの入り口の布を外してぼくたちはテントの中に踏み込んだ。

 突然現れたぼくたちに怪我をしていない子どもの二人が腰を抜かして手足をバタバタとさせた。

「ここは暗いし、風通しがよくないから空気が悪いわよ」

「天井を外しますね。眩しいから目を閉じているのですよ」

 ウィルとケインが優しい声色で声をかけると、ぼくとイザークは子どもたちに、下を向いて目を閉じるように、と声をかけた。

 風魔法で一気に天井を飛ばしてしまうと、下を向いていた子どもたちは物音に驚いて頭を抱えて丸くなった。

「怖がらなくていいのよ。ほら、こんなに空気が美味しくなったでしょう?」

 優しく声をかけると、顔を上げた子どもたちは眩しそうに目を細めながら大きく息を吸った。

「わたし、しんじゃったの?しんじゃったから、てんしさまがたくさんむかえにきたの?」

 怪我で寝ていた子どもが傷が癒えた自分の体とぼくたちを何度も見返して呟くと、しんでいないよ!と二人の子どもが突っ込んだ。

「私たちが誰なのかを説明しても、よく理解できないでしょう。まあ、そうですね。簡単に言えば、アリオというお爺さんを探している人ですわ」

 ウィルの説明に三人は俯き、後ろめたそうにぼくたちから顔をそむけた。

「ぼくたちのじいちゃんが、アリオかどうかはしらないよ」

「じいちゃんは、ぼくたちのために、きょうかいからしんぐをぬすんでしまっただけで、じいちゃんはわるいひとじゃない!」

 子どもたちを保護しているじいちゃんとやらが教会関係者を避けていることを一人の子どもが漏らすと、ばか!ともう一人が即座に殴った。

「暴力反対!問題解決の手段に暴力を使用したら駄目だよ!」

「「「ちっちゃいひりゅうがしゃべった!」」」

「いや、ちゃんと話を聞きなさいよ。猫だってスライムだってお喋りできるわよ」

 みぃちゃんの突っ込みに、やっぱり、いっぺんしんだのかな?と子どもたちは首を傾げた。

「ほらほら、死んでいないから、体の様子を見せてくれるかな?裏側までお薬がかかっていないから、まだ体の反対側は治っていないはずですわ」

「からだのうしろは、だいじょうぶ。ばくはつしたときに、せなかはやけどしなかったもん」

 寝ていた子どもが服をまくり上げて背中を見せてくれたが大きな傷はなかった。

「戦後の不発の魔術具が誤作動した時の爆風の被害に遭ったようだな」

 ワイルド上級精霊の説明を聞いたぼくたちは、マテルが町で追跡する班に回っていてよかった、と思った。

 こんな子どもたちを見たらマテルは号泣してまい、話が進まなかっただろう。

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