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おとなげない大人たち

 魔獣カードは専用の競技台を魔術具で制作することで、誰でもエフェクトを出せるようになった。細かいルールは決めておらず手持ちのカード、最大7枚を組み合わせて相手より強いエフェクトを出した方が勝ちという見た目重視で遊んでいる。今回は競技台を使わず、カードをハンカチに包んで魔方陣の描いてある魔獣カードとただの木札と混ぜてあるのを探してもらう。

 話が進まないのは男性陣が本気で遊び始めてしまったからだ。

「この、火喰い蟻強すぎだよ。ありえない!」

「そいつなら、灰色狼一匹で十分だ。手持ちのカードの質が悪いせいだよ」

「カードを混ぜて配るのやめようよ。まともな陣形がとれないよ」

本当は知育玩具のようなものだし、ぼく自身対戦型のカードゲームのルールをどう設定したらいいかわからなかったのもあるけど、まさか大の大人たちがまるで幼児たちのような会話を繰り広げている。細かいルールを後回しにした後悔をまさか父親たちを見て感じるなんて思わなかった。

「ドッカーン!!いけー…」

 ぼくがドン引きした顔でもしていたのだろう、横から母さんがぼくの肩に手を添えてくれた。

「ほっといてあげましょう。まず私が試してみるね」

「母さんは魔力探査ができるんでしょ」

「ドーンと魔力を使ったらできるの。ちょっぴりではやったことがないわ」

 そうか、こういう風に魔力探査をしましょうね、って教わってしまってはそれ以外でやろうとは思わないものだ。

 母さんに後ろを向いてもらっている間にハンカチに包んだ5枚の木札を置く。そのうちの1枚が魔獣カードだ。

「もういいよ」

 母さんは5枚のカードに手をかざすとためらいもせず、1枚を選び出した。

「これは簡単すぎね。微弱でも自分の魔力ですもの、すぐわかるわ」

 ハンカチを外すと、正解の魔獣カードだった。

「これは、私の方が適役だね」

 今度はお婆にバトンタッチしたのだが、お婆も母さんより少し遅かっただけであっさりと正解した。

「ジーンの魔力だものすぐにわかったわ」

 同居家族では簡単すぎか。ぼくでもわかる。

 あれ?カード配っているのって父さんだ。

「魔獣カードって強力な攻撃波を出すカードの方が魔力含有量多いの?」

 おっと、父さん、いかさましているな。さっきから大人気なさすぎるよ。

「そうよ。魔方陣も複雑になっているわ」

「じゃあ、今度は魔獣カードだけで一番強いのを探そう」

「「それいいわね」」

 今度はお婆から先に試してみた。同じ強さのカード4枚とそれよりやや強いカードの組み合わせにしたところ、お婆が悩み始めた。

「うーん。同じ種類の魔獣はないのね。属性によって魔方陣がかわるから、これは迷うわ」

「自分の不得手な属性の魔方陣を描くときは込める魔力量が多くなるからかしら」

 とうさんいかさま説はなしか。

「お婆。理屈で選ばないで、勘で選んでみて」

「そうだね、あまり魔力を使わないで探さなくてはいけないのに、考えこんだら魔力反発を使うところだった」

「どうしても教科書通りの行動をしてしまうのよね」

 お婆が悩んで選んだ1枚は不正解だった。

 母さんはまたもやあっさり正解した。

「なんだか、魔方陣がわかるのよ。描いた本人だからかしら」

「ぼくも試してみていい?」

 ぼくには魔方陣がわからないけど、複雑な形をしているのを選べばいいはずだ。

 5枚のカードは確かに魔力の量が少し違う。お婆が悩んだのもわかる。少し強めのカードが二枚ある。でも片方の魔方陣の方が複雑だ。

「これだね」

 ぼくが選んだカードは正解だった。

「よくわからないから、魔方陣が複雑そうな方を選んでみた」

「魔方陣が見えるのかい?」

「よくわからないけど、こうモヤモヤと複雑な線がある気がするだけ」

 ぼくたちが、あれやこれやと検証しているうちに、男性陣が騒がしくなった。

「配り終えたばかりのカードを全員見せるんだ!」

 勝負の前に手持ちのカードを確認しないと納得できないほど父さんが連勝でもしたのだろう。

「「やっぱりそうだ」」

「とうさん、ズルしてるね」

「……そんなことはないぞ。運がいいだけだ」

 誰もそれでは納得しないだろう。指名してカードを交換できるようにしたらいいのに。

「じゃあ、次は配り終えた後、じゃんけんで勝った人が負けた人とカードを取り換えてみたらいいんじゃないかな」

「「その案採用!」」

 カードを配る人を変更したらいいのにね。身分の高い人は配ってもらうのが当たり前の事なんだろう。父さんが親なら絶対いかさましてるよ。勝ち負けがあるものだもん、そうするよね。ぼくはしないけども!

 あっちはまだ時間がかかりそうなので、ぼくはスライムに魔獣カードを当てさせることにした。

 スライムは全く迷うことなく正解の魔獣カードの方に這っていく。お婆と母さんも興味を示して、自分たちのスライムでも試し始めた。

 母さんたち、あんなにスライムのこと嫌がっていたのに、ちゃんと自分たちのスライムもお世話していたのか。ご飯の時に魔力をねだるように指先をツンツン触れてくるところとか、可愛いんだよね。お婆のスライムは半透明な黄緑色。母さんのは半透明な薄紫色。どちらもとても綺麗だ。

 結果はどのスライムも、迷わず正解の魔獣カードを選び出すことができた。なかなか優秀だ。魔獣カードは、一番強いカードと母さんが不得手な属性のカードが同じくらいの魔力含有量なので判断は難しい。スライムたちはぼくたちが選んでほしいと思っている方を選んだ。もしかしたらぼくたちの指示がわかるのかもしれない。スライムってこんなに知能が高い魔獣だったのか?

「こっちはなにしているのかな?」

 自分が勝てたハルトおじさんはようやくこっちの検証に興味を示した。魔獣カードを出したのは遊ぶためじゃなくて、魔力探査を実践するためだったんだが。

「魔力探査の練習をしようとしていたけど、同居家族の魔力は見つけやすいので、あまり練習にならないからスライムに魔力探査をさせてみたんです」

「同居家族の魔力は見つけやすい……。ジュエル!やっぱりいかさましていたんだな!!」

「ぜっ、全部ジーンの魔力のカードだから、伏せられてたら見分けられないぞ。言いがかりだ!」

 ケインがカードを伏せた状態にしてカードを選び始めた。集中しているんだろうな、横顔のほっぺがほんのり赤くなってるし、鼻息もちょっと荒い。

 案の定ケインは“ぼくがかんがえたさいきょうのデッキ”を作成してご満悦になったようで、ぼくの方に少しドヤ顔の混じったような得意げな笑顔をむけた。可愛い。

「冤罪はありえないな。まあ、今日のお土産は、お好み焼きがいいな」

 イシマールさんに父さんは肩を叩かれているけど、これは助け舟だ。ハルトおじさんはすっかりいかさまの恨みを忘れて、お土産のお好み焼きの具を考えて、ニマニマしている。

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