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出来心?確信犯?

 祠巡りを終えて宿に戻ると、朝食は豆腐の味噌汁のおから和風ハンバーグ定食だった。

「これが畑の肉か。旨いな。ああ、この甘じょっぱいタレで飯が進む。今日もたくさん働くからおかわりしたい!」

「口当たりが軽くて、何個でも食べられそうだ。大豆を作付けする場所がない?ダメもとで牧草刈った後に植えてもいいかな?」

 冒険者たちは発想が、食べられない文句を言うより、作ればこれからも食べられる、に変わってしまった。

「植物の成長促進の魔法陣を重ね掛けしているから楽しみだな」

 ぼくがそう言うとケニーが顔色を変えた。

「牧草を茂らせて飛蝗が増殖したら蝗害の発生源になってしまう!急いで確認に行かなくては!!」

 味わって食べていたおからハンバーグをご飯の上にのせて一気にかっ込んだ。

「昨日の今日でいくら何でも……」

「この人数で馬鹿みたいに魔力奉納しまくったんですよ。神々はこういうお祭り騒ぎが大好きなんです!」

 訝しがる冒険者たちにウィルがそう言うと、優雅に素早く食べきった。

 ぼくたちの慌てっぷりに冒険者たちもつられて、あっという間に朝食を終えた。

 神々が直接関与しなくても、張り切った精霊たちがやらかすことはよくあることだ。


 急ぐとはいえ神々への挨拶は欠かせない。

 大豆をたっぷり食べたい冒険者たちの希望を叶えるため、今日の寄進は豆腐にし、教会に魔力奉納をしに行った。

 足が付くのが早い食品だから早めにおさがりにして食べるようにとマーボー豆腐や揚げ出し豆腐のレシピを手紙に書いていると、宿の奥さんが自分も教会で手伝ってくる、と言って教会までついて来た。

 ぼくが宿の奥さんにレシピを託すと、ベンさんは見たことのない料理をレシピだけでつくる事に心配げな顔をした。

 冒険者から隠れるように鞄に引っ込んでいたキュアが顔を出し、護衛は任せろ!とベンさんに眼力で伝えた。

 ロブも控えめながら、俺も騎士です、とベンさんに目で訴えた。

「……俺は後から追いかける」

 そんなやり取りをしているさなかに、ケニーが教会の中庭を掘り返していた。

 どんな隙間な土地でも畑にしてしまうケニーには頭が下がる。

 もちろん今朝出遅れたウィルが躍起になって魔法を駆使したからできたわざだ。

 連日供物を持参し、魔力奉納をし、怒涛の勢いで厨房や中庭を侵食していく、ぼくたちに呆気に取られている教会関係者への説明は商会の人たちに任せ、馬車を置き去りにしてぼくたちは実証実験をしている村へと走った。


「牧草の種にトウモロコシまで交ぜていなかったはずなんだけど、どうしてこうなった!」

 村の外側の新たな結界を施した土地に芋の苗をさり気なく植えたケニーの行為は確認していた。

 牧草の中に茎が横に広がるサツマイモが紛れていても、刈り入れには問題ないと考えていたのに、デントコーンを撒いたやつがいる。

 一日で刈り入れできる背丈まで成長した牧草の中に、今まさに受粉時を迎えたトウモロコシがまばらに生えているのだ。

 冒険者たちは牧草の成長に喜んでいるが、魔法で一気に刈り入れしようと企んでいた留学生一行は一様に膝をついた。

 デントコーンは飼料として魅力的だ。

 刈り取り時期が違うデントコーンを残して牧草だけ刈り取るのは手間がかかるが、致し方ない。

 兄貴とシロが俯いてぼくと目を合わせない。

 デントコーンの種をまいたのが兄貴で、ぼくに気付かせないようにしたのがシロだとするなら話の辻褄が合う。

 鞄から顔だけ出したキュアとみぃちゃんや、ポケットの中のスライムたちが、楽しそうにワクワクしている。

 デントコーンを残して、牧草だけ刈り取れば、村をぐるりと取り囲むトウモロコシ迷路が出来上がるのだろう。

 いいさ、やってやろうじゃないか!

「この背が高くて茎が太い植物はまだ刈り入れの時期じゃないから残そう」

 ぼくの言葉に留学生一行は頷いた。

「この植物は立派な茎をしていますが、たくさんつける実の方が飼料としての価値があります」

 ケニーがデントコーンの利用価値を力説している間に、ぼくたちは牧草だけ魔法で刈り取る方法を模索した。

 終末の植物の種を採集する方法で、牧草だけ根こそぎ宙に浮かせて集める方法と、稲の刈り入れのように必要な茎から上を刈り取り、根を地中に残すべきかで意見が分かれた。

「実証実験だと考えるなら五つの村でそれぞれ別な状況にして検証するのが正解だとわかっているんだけど、村で生活している人たちのことを考えたら、失敗しそうな実証実験は提案できない。ぼくは上だけ刈り取る方がいいと思うよ」

 ぼくが刈り取り案を支持すると、ケニーは牧草の根まで除去した方がサツマイモも育つのでは、と反論した。

「土地の魔力が弱ってきた隙をついて、地中の奥深くから終末の植物の種が浮かんでくると仮定したら、牧草の根を残して地表を覆っていた方がいいような気がする」

 留学生たちにはウィルの意見が支持されて、牧草だけ刈り取る魔法を研究することになった。

 ぼくたちが喧々諤々やっている間も、冒険者たちは黙々と牧草を刈り取っている。

 お互いの作業の邪魔にならないように、ぼくたちは班分けをして村の反対側に移動した。

 冒険者たちが刈り取った牧草を乾かす魔術具を設置する班と、牧草だけ刈り取る魔法を研究する班だ。

 ぼくは自分で考案した魔法陣の上に生えている植物なので、魔法陣に魔力を流すと牧草を種類別に判別できるが、ぼくたちが去った後に冒険者たちが効率よく刈り入れができるように、魔法や魔術具を研究する必要がある。

 ウィルが牧草の魔力を感知し、牧草だけ風魔法で刈り取る練習をしている。

 集中する作業なので刈り取った牧草は後から回収する方が効率的だ。

 ぼくは小型の草刈り機に魔力判別機能を付けてデントコーンを傷つけずに牧草だけ刈り取るようにした。

 刈り残しを風魔法で対処すれば、冒険者たちでも魔力枯渇を起こさないで村一つくらい作業できるだろう。

 “……検証が済んだんだったらカイルの魔法で一気に終わらせようよ”

 早くトウモロコシ迷路で遊びたいキュアにせかされた。

「後四つも村を回らなければいけないから、ここはぼくの魔法で一気に終わらせてもいいかな?」

 それもそうだ、とみんなも賛成してくれた。

 鳩の魔術具を飛ばし、村の中の光と闇の祠の広場に集まるように連絡を入れて、ぼくたちも移動した。

 ぼくたちは七大神の祠に魔力奉納しながら、光と闇の神の祠の広場に向かった。

 村人たちは一夜にして村の周囲の牧草が育ったことに感激し、出会う村人全員がぼくたちにお礼を言い続けた。

 土壌改良の魔術具の効果も即日あったようで、村の麦畑も青々と茂っている。

 光と闇の祠の広場の前で村長がぼくたちを待ち構えていた。

 お礼の言葉を途切れることなく繰り返す村長に、村民たちが魔力奉納を頑張らなくてはこの状態を維持できないことを伝えた。

 冒険者たちや乾燥の魔術具を担当した班も他の祠で魔力奉納していたようで、ぼくたちよりやや遅れて広場に来た。

 芝刈りの魔術具に、これは作業が楽になる、と冒険者たちが大喜びした。

 キュアがしびれを切らして鞄から飛び出すと、冒険者たちと集まっていた村人たちが、飛竜だー、と腰を抜かしそうになるほど驚いた。

「この飛竜はぼくが預かっている飛竜の幼体で、キュアと言います。性格は穏やかですが、飛竜なので魔力は相当あります。くれぐれも怒らせるようなことはしないでくださいね」

 ぼくがそう言うと全員が頷いた。

 飛竜を見るのが初めてな人たちばかりなので、羽をほとんど動かさなくても飛んでいられるキュアを、不思議なものを見る目で見ている。

 みぃちゃんもポーチから出てきたが、シロと同様に注目をあびていない。

 猫と犬は可愛いけれど珍しくないからね。

「牧草の刈り入れはこの冒険者の方々のお仕事ですが、今回は急成長の様子を他の四つの村でも確認しに行かなくてはならないので、ぼくたちが魔法で刈り取りますね。刈り取った牧草を堆積する場所が必要なので取り敢えずこの広場に積み上げてもいいでしょうか?」

 刈り取った牧草を全部ここに堆積するのは無理だが、見本として少し広場に置いて、後は冒険者と村人で運んでもらおう。

 村長が集まってきた村人たちに、下がるように声掛けし、場所を確保した。

 ぼくたち留学生一行は空いた場所で、ケニーとロブ以外がそれぞれのスライムを肩に乗せて輪になって並んだ。

 本当はぼく一人でも出来るけれど、みんなでやった方が何かの儀式みたいでカッコいい。

「ちょっと待った。商会の馬車が来たから作業の進め方を変えてもいいかな?」

 商会の人たちの馬車が村の外側に侵入した気配を察知して、牧草ロールまで出来るのではないかと考えて作戦を変えることにした。

 留学生たちは頷くと、顔をつき合わせて作戦会議を始めた。

 ぼくたちの真上でキュアが踊りながらクルクル飛んでいるので、冒険者たちや村人たちの視線はそっちに釘付けになっていた。


「祭壇用の高級布ですね。ありますよ。何か神事をするのですか?」

「牧草が美味しくなるように発酵の神様にお祈りします」

 商会の代表者にウィルがざっくりと説明すると、商会の人たちが光と闇の神の祠の間に簡易の祭壇を用意し始めた。

 チーズやベーコンを祭壇に祀ると、本格的なお祭りのようになってしまった。

 後四つの村が控えているのだから、と余計なことは考えず、ぼくは高級布に発酵の神の魔法陣を手早く描いた。

 ああ、風の神と大地の神と空の神の魔法陣も重ね掛けしよう……水の神を忘れていた。

 牧草を乾燥させるのは水の神様に助けてもらわないとね。

 ふんふん言いながら魔法の杖を何度も振って、納得のいく魔法陣を描き上げた。

「うーん。隠匿の魔法陣がえげつなくて読み解けないけれど、絵画のように綺麗だね」

 ウィルが唸りながら顎に手を当てた。

「たぶん、これで使用する魔力量を減らせるはずだから、試してみよう。みんな自分の役目をしっかりイメージしてね」

「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」

 元気のいい返事をして、魔法陣を囲むように留学生全員が配置についた。

 ぼくと兄貴とウィルは清掃魔法をかけてから魔法陣の中央に三角に並ぶとシロもついて来た。

 魔法陣の外周を留学生たちが取り囲んだ。

 ケニーとロブの足の間に、みぃちゃんとみぃちゃんのスライムが座り、二人の代わりに魔力を提供する。

 今回はみんなのスライムを通じて魔力を提供してもらい、牧草の刈り取り、乾燥、牧草ロールまで一気に仕上げてしまう予定なのだ。

 キュアは村の外側全域が見えるまで上昇して見学するようだ。

 上から見たら迷路の順路がネタバレになってしまうよなぁ。

 案内係にでもなりたいのかな。

「それじゃあ、始めるよ」

 ぼくは魔法の杖を掲げて声をかけた。

 留学生一行が頷いたので魔法の杖を一振りした。


 精霊たちが魔法陣の中でキラキラと輝くと、呼応するように村の外周が光った。


 シロがぼくと兄貴とウィルの三角に立つまんなかにいるんだもん。

 こうなると思っていたよ。


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