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恐怖心との戦い

運ばれてきた麻袋は、心なしか動いてるような気がする。

気のせいでありますように……。


「この中の者に今から『芽』を植え付ける」

そうマントの人物が言うと、麻袋は複数の人の手により大きな箱に入れられた。


動いていたのは得体の知れない気持ち悪い物ではなく、人!

助けなきゃ。

でもどうやって?


そう考えながら見ていると、箱には王家の紋章が入っていた。

トロンさんが入れられていた檻にかけられていた幕とそっくりな幕も準備されている。


国家ぐるみだったんだ。

そんな私個人が抵抗してもただ捕まるだけかも知れない。


でも、今から本当に実行に移すつもりなんだから、なんとしても阻止しないと!


一歩前に出ようと私が動こうとしたその前にグラッドさんがすごいスピードで壇上に上がった。

「やめろ!」

グラッドさんはそう言いながら、麻袋の前に立ちはだかる。



しかし、誰一人として身動きしない。

どうなっているの?


「救世主の力を受け継いだからといって何ができるのだ?お前に出来ることなど限られている。これは阻止できない。自分の力を思い知るが良い、グラッドよ」


名前を呼ばれだがグラッドさんは返事をしない。

仮面をつけているから表情はわからないが、怒っているのがわかる。

その証拠に、ワナワナと怒りで震えているのが見てとれた。


なぜグラッドさんの名前がわかるのかしら?

この人達は、もしや先読みの力があるのかもしれない。


「やはり返事はしないと思ったよ。君も返事をしないのだろう、カロリーヌ」

私の名前を呼ばれた途端に鳥肌が立った。


気持ち悪さと、恐怖心が同時に自分の中に芽生えて、今度こそ震えが止まらない。

何故、私の名前を知っているのかしら?


「2人が紛れている事くらいすぐにわかる。それに名前以外にも君達が夫婦だって事もわかる」


何故今日ここに私達が来ることも名前も何もかも知っていたのかしら?


もしや、トロンさんと同じようにリリちゃんにも悪の芽が植え付けられているのかしら?

だから私達をここへ連れてきた?

嫌、あの時浄化は完了したはず。


私は恐怖で立っているのがやっとだ。

どうすればいいのかわからずに身動きが取れないでいると、男性は突然、黒い革手袋をつけた右手を前に出した。そして、何かを呟きながら、手をぎゅっと握った。

すると、男性は一枚の紙を握ったのだ。


「お前達がもしも魔力に目覚めたとしても、その力を私達の物にすることができるのだよ。この紙に名前を書いたからな」

男性は勝ち誇ったように結婚証明書を私達に見せた。

それは、教会にあるはずの原本のようだった。


「それがなんだと言うのだ?私がお前の言った名前とは限らないし、魔力があるとも限らない。それにどうやって魔力を奪うのだ?」

グラッドさんは聞いたことないくらい低い声で答えた。


「これは結婚証明書であるが、呪いの契約書でもあるんだ。お前達はそれに知らずにサインをしている」

男性は笑いながらそう答えた。


私は確かに名前を書いた。

でも、ミドルネームも含めた正式な名前を書いたわけではない。

貴族の娘として世間に名乗っている名前を書いたのだ。


それはグラッドさんも同じではないかと思う。


だから、不完全な呪いの筈だ。


「そんな脅しには屈しない!」

グラッドさんはそう言いながら、男性に火の弾を投げつけたが、マントを盾のように使い、払い除けられた。


グラッドさんはあの麻袋の中の人を助けるつもりなんだ。

私は背筋を伸ばすと、礼拝堂の真ん中にある通路に出て、真っ黒なマントを着た人々の間を歩いた。


そして、壇上に登った。

私はグラッドさんを守るためにシールドを張ろうと思った。


「ハッハッハ。2人揃ったな。それで?そんな攻撃でお前達に何ができる?その程度のもの、大した事はない」

男性は高笑いをした。


「そうかな?1回目はどの程度の相手か探っただけだよ」

グラッドさんはそう言うと、右の掌を開いて相手に向けた。


すると、その手から沢山の火の弾が放たれて男性を攻撃する。

それを合図に私はシールドを張った。


すると相手側も男性の周りにいた取り巻きの1人がシールドを張り、もう1人が反撃を始めた。

それを男性は眺めている。


気がつくと、グラッドさんのそばにはマーカスさんがいて、二重にシールドを張ってグラッドさんと私を守っている。


グラッドさんは麻袋に当たらないように狙いを定めて激しい攻撃をしているようだ。

確実にあの男性と、攻撃をしてくる者と、シールドを張っている者だけを狙っている。


何故か、壇上にはまだ数名が居たが、この3人以外は身動きしない。

もしかして操られているのかしら?



グラッドさんの攻撃が相手のシールドを割った。

そして、次の弾が男性の仮面に当たり、仮面が割れた。


そこに居たのは、司祭様だった!

私とプラウドウッド辺境伯領まで行き、グラッドさんと私の婚姻の手続きをとり、国境沿いまで連れて行ってくれた、あの司祭様だ。


相手の顔を見た瞬間、グラッドさんの攻撃が止まった。


「司祭様!何故、貴方様がこんなことを?もしや…操られているのですか?」

私は急いで、クーリエ様のお墓に浄化魔法をかけた時のようにしてこの会場に浄化魔法をかけた。


「そんなものは効かない」

司祭様が馬鹿にしたように笑って答えた。












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