突然の移動
リリちゃんはそっと移動を始めた私達の前に立ちはだかった。
「あのね、私はワガママを言うためだけにクーリエ様が作り出したの。ずっと一人だったクーリエ様が、『妹が欲しい』と私を作り出したのよ。だから、私の仕事はワガママを言う事。でね、私は仕事が済んだらまた長い眠りについてもいいとクーリエ様が私を作り出す時に決めたのよ」
そう私を睨んでから言った後、カイナツさんを見た。
「ゴート様の末裔はなんだかんだと表舞台に出てくるけど、トマ様の末裔は数百年ぶりよね?だから、この人達に足を引っ張られて、グラッド様は結局何も成し遂げられないんじゃないかと心配したのよ」
リリちゃんは辛辣にそんなことを言った。
「トマ様の末裔が脅かされることはここ数百年ありませんでしたからね。私達侍従が、城から離れるのは主人が脅かされる時のみです」
カイナツさんの答えだと、何かあっても脅かされなければ出ないと言うことなのかもしれない。
「私はまだ寝足りないの。だから、そんな面倒な『悪魔信仰の奴等を探して歩くー』とかしないで、一気に連れて行ってあげるわ。あいつらどこにいるか分かり易いもの」
と言ってマーカスさんが止めようとしたけど、時すでに遅し。
突然、フワッと浮いて見覚えのある景色の場所に瞬間移動した。
それはバーリエル国のトワニー教会だった。
私が修道女になるために選んだ教会だ。
教会の礼拝堂は以前のまま、何一つ変わっていない。
困惑する私の顔を見て、リリちゃんはニヤッと笑った。
「あら?ここがどこかわかっている顔してるー。それはそうよね。バーリエル国の王都だもの」
その言葉でグラッドさんも私を見た。
「どこかわかっているのか?」
「ええ。ここは私が出家を決めた教会よ」
なんだか信じられなくて、出入り口の重いドアを開けた。
やはりそうだ。
外を歩く人は皆、バーリエル語を話している。
ここは私の母国だ。
もう一度扉を閉めて、中を歩き回る。
どこもかしこも、ここから司祭様と馬車に乗ったあの日から変わっていない。
何故?
どうしてここに連れてこられたのかしら?
私達が普段、食事をしていた食堂も何一つ変わっていない。
「足音がします」
カイナツさんの言葉で、食堂の食器棚の物陰に隠れた。
すると、真っ黒なフードをすっぽり被り、長いマントの二人組が入ってきた。
その二人はこちらに気がつかない。
「もうすぐ報告会の時間だ」
そう言いながら、礼拝堂に向かう廊下に消えて行った。
人がいなくなると侍従達は姿を消していたのか、またゆっくりと姿を現した。
「私達も行ってみましょう?」
ちょうど、沢山ある食堂の椅子に真っ黒のマントが2枚掛けてあったのでそれを手に取ると、その下には真っ白い仮面まで置いてあったのでそれを被る。
そして礼拝堂に向かうと、同じ格好をした人が沢山いた。
これが悪魔信仰の組織。
想像より人数が多い。
礼拝堂には沢山の黒いマントの人が立っていたのだ。
数百人はいるだろうか。
全員が同じ格好だからもう見分けがつかない。
どうしようかと下を向いたら、上流階級の男性が履くような靴の人が一人だけいた。
きっとグラッドさんだ。
私の足元も違った。
ブラウンの革製のハイヒールだ。
あとは皆同じ、黒い皮のブーツを履いている。
誰も気が付きませんように。
そう祈りながら誰かが話し始めるのを待った。
すると、壇上に長い杖を持った人が現れた。
「今日は悪い知らせを伝えに来た」
その声はすごく響く男性の物だ。
「トマの末裔が残念ながら魔力に目覚めた。トマの末裔が魔力に目覚めないように18歳の誕生日まで国外に追いやったはずなのに、何故かこの国に戻っていたようだ」
するとその説明を聞いた者たちがザワザワし出した。
「国外にいるのを第二王子が見ている」
「船に乗るのを確認した者もいる」
ザワザワした群衆の中から声がした。
「確かにそうだ。この国を出るのを私が自らの目で確認をしたのだ」
壇上の男性がそう答えた。
私達はこの人たちにずっと見張られていた事をこの時初めて知って、いつからどのように見られていたのかと想像すると恐怖で震える。
しかし、誰かに気が付かれないようになんとか、群衆に溶け込もうと、背筋を伸ばしてぐっと足に力を入れて立つ。
「これは確実だ。なぜなら、トマの末裔の魔力を着実に奪っていたはずなのに、数日前から一切奪うことができなくなった。これはつまり、トマの末裔が魔力に目覚めたからだ」
これには多数の落胆の声がした。
「次に、私達の先人がゴートの侍従に植えた悪魔の芽が全滅した。正しくは強制的に浄化させられた」
次は、打って変わってシンと静まり返った。
「あれは着実に育っていた。もうすぐで、侍従を一人飲み、魔物として孵化する手前だった。にもかかわらず失敗した。しかも、悪魔の芽を植え付けられた複数の侍従がいた筈なのに、全員から悪魔の芽が消し去られた」
そう壇上の男性が説明をした後、壇上に麻袋が複数運ばれてきた。




