予想外の事
「なんだったのかしら?」
男性の背中が見えなくなった頃、カイナツさんが現れた。
「カロリーヌ様。小人達から日傘をもらってきました」
カイナツさんから日傘を受け取ってから先ほどの話をする。
「今緑の髪に金色の瞳の方がここに来たの。それってもう一人の伝説の方なのかしら?」
「いえ。私にはなんとも。あの伝説が作られてからまだ数百年しか経っていません。シャドーが蘇るには早すぎます。ですから、私は違うと思いたいですよ。今回、お二人が立ち向かうべき相手はシャドーを蘇らせようとしている悪魔信仰の者達です」
「じゃあ私達はシャドーに立ち向かうわけではないのね。少し気がらくになったわ」
そう答えたが疑問が残る。
じゃあ何故侍従も目覚めたのかしら。
「カイナツさんやトロンさんは目覚めるための条件ってあるの?」
「はい。ございます。伝説の魔法使いの血を色濃く受け継ぐ子孫が生まれた時のみ、私達も目覚めます。具体的には、外観的な要素にくわえて一定の魔力量が必要になります」
「じゃあ、私はかなりの魔力量が?」
「はい。ございます。しかし、今まで意図的に押さえ込まれていたのですから無理をしないでください」
そんな話をしていると、今まで立っていた地面にキラキラと光るシルバーの絨毯が敷かれている事に気がついた。
しかも、その絨毯はまるで道のように視線の先に続いている。
何処に繋がっているのかしら?
そう思って歩いていくと、雪が残っていると思っていた所は城だった。
雪に囲まれた氷の城だ。
更に近づいて気がついた。
「これって水晶でできているの?」
驚く私にカイナツさんは笑顔で頷いた。
シルバーの絨毯はお城の中まで続いていた。
中に入ると、エントランスホールの真ん中に大きな水晶玉が置かれていた。
そして壁には色とりどりの宝石で描かれたモザイク画が飾ってある!
あまりの美しさに目を奪われる。
「私は奥に何があるのか確認してきますね」
カイナツさんはそう言って奥へと進んでいくが、私はあまりの素晴らしさにしばらく動けずにいた。
「カロリーヌ様、あちらに進めそうですよ」
するとグラッドさんとトロンさんがどこからともなく現れた。
「コニー、待っていてくれてありがとう」
「そんなに待っていないわ。それよりも豪華なところね」
「ここは地の力が結晶になって現れた物だけで作られております。ちなみに、クーリエ様はこの城に誰も入れなかったので、初めのお客様がカロリーヌ様ということになりますね」
トロンさんはそう言いながら、奥へと案内しようとしてくれる。
私とグラッドさんは顔を見合わせた。お互いについていくか迷った目をしたけれど、グラッドさんは頷いて手を握ってくれた。
これはついていくという事だ。
私達はトロンさんに案内されるがまま、奥へと進んでいく。
すると、今見てきた水晶や宝石とは違う石壁の広い部屋に案内された。
そこはまるで謁見の間のような造りで、一段高いところには豪奢な椅子が置いてある。
「ここは?」
グラッドさんの質問にトロンさんがうやうやしくお辞儀をした。
「王の間にございます」
「王の間?何のためにこんなものが?」
「シャドーが世界を破壊する前は、ここはギルティロール魔法国家として栄えており、世界の中心でした」
「では、ここは当時の王城?」
「そうです。グラッド様はその王族の子孫。ギルティロールが滅びる時、王は私に国家の再建を願いながら亡くなりました。あれから数百年。やっと王族の末裔で最強の魔力を持つものが現れたのです。グラッド様、貴方様こそ、この国の王として復活するに相応しい」
そう言ってトロンさんは私を見た。
その瞳の奥が光ったと思った瞬間、沢山の水晶でできた矢がこちらに向かって飛んできた。
咄嗟にカイナツさんが私の前に出て手をかざす。
すると、何百もの宝石の矢は、空中で止まった。
「気でも狂ったか!仮にも救世主の子孫だぞ!私達を作りし神、『トマ、ゴート、ハリウ』の末裔なんだ。わかっているのか?」
カイナツさんは大きな声で早口に捲し立てた。
「ああ!わかっているさ!私はゴート様の末裔以外はどうなろうと知った事ではない。ゴート様は当時、ギルティロール魔法国家の王族という立場を放棄して、爵位に関係なく強い魔力を持った者を集め、世界を守ったのだ」
そう言って、次は光の球を次々とこちらに向けて放つ。
それが何かに当たると鋭く爆発して小さな穴を作っていく。
「っつ!グラッド様が命を落としたら、その時点でお前も消えるからだろう?そして、次の『ゴートの末裔』が産まれても、お前が蘇るとは限らない。なぜなら、私達侍従は複数存在するからだ」
そうカイナツさんはトロンさんを挑発しているようだ。
何が目的かはわからないけど、避けるので精一杯だ。
グラッドさんにトロンさんの暴走を止めてもらおうとしたが、トロンさんの隣にいるグラッドさんの動きが止まってる。
まるでグラッドさんの時間を止められているようだ。
「何か言ったらどうなんだ!」
カイナツさんはシールドを張り私を守ってくれるが、それにも限界があるようで、どんどんシールドが弱くなっていく。
私はどうすればいいのか考えて自分の魔力をこのシールドに向けた。
うまくいけば自分の魔力で維持できるかもしれない。
しかし、全く変化がないようだ……。
突然、カイナツさんはトロンさんへの攻撃を辞めて、グラッドさんに攻撃の矢を放った!
「カイナツさん!何をするのよ!やめて」
私の声が聞こえていないのかカイナツさんは尚もグラッドさんを攻撃した。
「トロン、お前の主人がどうなってもいいのか?」
「ハッハッハッハ!最初から防御魔法を張り巡らせてあったから、その程度では何も起きない!それに我が主人はクーリエ様ただ一人。バカだな」
トロンさんはカイナツさんを見てバカにしたように笑った。
実際、カイナツさんの攻撃では、グラッドさんを覆うシールドはびくともしない。
グラッドさんはシールドの中で一人時間が止まったかのように動かなかった。
「迎えが遅れたのはこの準備があったからだ!お前たちの魔力を使って、この国を甦らすのだ。我が神の末裔以外はどうなろうと知ったことではない」
トロンさんは私の後ろの何かを見てそう言った。
背中に何があるのか振り返ると、この部屋の入り口だった場所はどろどろとした真っ赤な光を放っていた。
「アレに飲み込まれたら私達の魔力を吸い取られてしまいます!まだ魔力の使い方がわからないかもしれませんが、カロリーヌ様も争ってください!」
カイナツさんに言われて私もなんとか抗おうと努力をする。
でもどうやったら魔力を上手く扱えるかわからない。
「トロン!もしやグラッド様は魔力付与の儀式をまだ行っていないのか?じゃないと、グラッド様がこんなに魔力量が低いはずがない!お前、グラッド様ではなく、お前が魔力を得ようとしたんだな?選ばれし者ではない私達は魔力を得られない。わかっているはずじゃないか!」
「そんな事、わからないじゃないか。魔力を開花させるための城は伝説の勇者であるゴート様の末裔グラッド様が必要だと気がついた。何度も一人で魔力開花を試したのだから。鍵であるグラッド様が儀式を始めてくれればあとは、魔力を受け継ぐのは私でもいいはずだ!」
「はあ?さっきから何を言っているんだ!」
カイナツさんの言葉が聞こえていないのか、大きな声で独り言のようにトロンさんは話をつづける。
「私を作ったのはゴート様で、そして私はクーリエ様の魔力の指導を受けた。ゴート様は私に執事としての仕事を希望したが、クーリエ様は魔法使いの仲間として私を扱ったのだ」
伝説の魔法使いとして世界に名前の知れたクーリエさんは、侍従に魔法を教え、自分の分身のように扱ったのかも知れない。
それでトロンさんは自分にも魔力を受け継ぐ資格があると誤解したのかも知れない。




