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敵は誰?

「瞬時に溶かしてしまいましたよ」

嫌なものを触ってしまったとでもいうように、トロンさんは手をパタパタと払う。


「貴方様が今まで大切に持っていた宝石と当たり前に着けていた腕輪は貴方様の本来の力を削ぐものなのです。これはどこの領土でもないしかも、魔力を含んだセイレーン様の土地で処分した方がいいのです」

カイナツさんはそう言ったが意味がわからない。


「貴方様の国では貴族のお子様に対して『先読み』が予言をだしますね?」

「ええ。5歳の時に教会に行って予言を伺います。その内容が芳しくないなら、どうやって回避すればいいかを伺います」

私の答えにグラッドさんは驚く。


「そんな小さな子供の未来を占うだなんて意味はあるのか?」

「意味があるかどうかはわかりませんが、婚約者をその占いを元に決める高位貴族は多いです。…私もそうやって第二王子の婚約者になりました」

その言葉を聞いてカイナツさんは眉を下げた。


「カロリーヌ様は貴方様の予言をご存知ですか?」

「いいえ。知りません」


「カロリーヌ様の予言を小人達に聞きに行ってもらいました。彼らの本当の姿は小鳥なのです。その小人達が聞いた内容だと、『カロリーヌ様は18歳になるまでに魔力が開花しなかったら、秘めた魔力を教会の水晶玉に移すことができる。そしてその水晶を持つものが王になる』と言っていたそうです」

初めて知る内容に驚いて震えた。

私に魔力があるという事なのだろうか。


「しかもその際、大司教様はどうすればカロリーヌ様のお力を手に入れられるかと質問をしています。その答えが、先ほどの魔力を吸い取る宝石です」

「あの宝石にはそんな力が宿っていたのですか?」

「はい。カロリーヌ様は日常づかいをする宝石も王室から贈られていたはずです」


確かに、ことあるごとに贈り物を貰っていた。

それは、私を第二王子妃候補として大切にしているといいう事ではなく、魔力を吸うためだったのね。

今更何も期待していないが、今まで見てきた国王陛下や王妃様の心の中にはそんな思惑があったということを知ってしまい、思い出が崩れていく気がした。


「それは、お父様とお母様は知っていたのでしょうか?」


「いいえ、ご存知ありません。5歳の子供と、教会の大司教様と先読みだけで下ろしているのです。誰も立ち会えないのです、そうやって沢山の予言が王族や教会の意のままに扱われていました」


「もしかして修道院で頂いた物も全て私の魔力を吸い取っていたのですが?」

「気がつきましたか?そういうことなのですよ。バーリエル国の教会は、修道院に来る平民の中にも予言がないだけで魔力を持った子供が一定数いる事を知っていました。だから、沢山の魔力を集約しているのでしょう」


そんな酷いことってあるのだろうか?

私は妃教育を受けながら、自分の能力を搾取されていたんだ。

辛すぎる現実に涙が溜まってきた。


「では、私が国を出たことによって何か変化はあったのですか?」

涙声で質問する。

そんな私の肩をグラッドさんはぎゅっと抱きしめてくれた。


「カロリーヌ様が魔力に目覚める条件はバーリエル国の中にあります。5歳の占いでもそこまでしかわからなかったようですね。ですから、国を離れることによって貴女様が目覚める確率はゼロに近いのです。もしも、あのまま第二王子と結婚していたとしても、誕生日の頃は外遊を命じられ、バーリエル国にいないように仕向けられていたでしょう。そうすると、魔力に目覚める確率はゼロに近いですからね」


「そんな。では司教様は知っていて国外に行くことを促したんでしょうか?」


「それはわかりません。グラッド様が魔力に目覚めるにはバーリエル国を離れて然るべき場所に行かないといけません。グラッド様を占ったとしたら『バーリエル国を離れなさい』と出るでしょう」


ここまで聞くと、司教様は私を助けてくれていたのか搾取する大司教様達とグルだったのかわからない。

もう誰を信用していいのかわからなくて、悲しくて悔しくて大泣きしてしまった。

そんな私をグラッドさんは何も言わずにずっと抱きしめてくれた。


「幸いな事に、貴女様の産みの親であるアナベル様は、カロリーヌ様の誕生とともに誰かに利用されないように魔力を封じました。ですから、搾取されていたとしてもほんの一部ですよ」

私がこんなに泣くとは思っていなかったのかもしれない。カイナツさんはどうしていいかわからないとでも言うような顔をしている。

それに対してトロンさんはぎゅっと肩を抱かれた私の前に来て片膝をつき、ハンカチを出してくれた。


私がそのハンカチを受け取ろうと手を出すと、トロンさんは私の手を握り、頭を下げてそれから軽く貴族の挨拶であるキスをした。


そして立ち上がると、話を始めた。


「グラッド様の出身国であるオースブリング国では魔力持ちは一般的で、その素養を隠す必要はなかったので、能力が半分開花しているのです。むしろ生まれながらにして魔力を持たないと、オースブリング国では生きていけないはずです」


「確かに私の国では魔力を持たずして生まれた子供は、他国に里子に出される」


「残念な話ですが、そのせいで貴方様を捕らえて利用しようと考える輩に見つかりやすいのです。まだ開花前でも、かなりの魔力を秘めていますからね」


「私は見つかりやすいのか?」


「ええ。かなりわかりやすいですからね。オースブリング国では、私は『神の岩』として崇められています。ですから、グラッド様が捕らえられた理由と私が持ち去られた理由は違うものだと思います」

カイナツさんは胸に手を当ててそう答える。


「今のグラッド様は貴方様の『存在』を隠匿することはできません。ですから、グラッド様が動くとカロリーヌ様まで危険に晒すことになります。危険を回避するために今から別行動をとっていただきます」

「その後は?また合流できるのかしら?」


カイナツさんとトロンさんはにっこり微笑んだ。


「お二人が再会するかどうかは。お二人が決める事です」

「じゃあ、このまま離れないという選択肢はあるのかしら?」

できることならグラッドさんと離れたくない。

今は侍従と名乗るこの2人よりもグラッドさんの方が信用できる。


「予想外の質問ですね」

そうカイナツさんは答えた後、トロンさんは頷いた。

「もちろんございます。それもご主人様の選択ですから」


「2人で話し合う時間がほしい」

グラッドさんは私の肩を抱いたままそう言った。

その手には心なしかちからが入っているようで、グラッドさんの意志を感じる。


「かしこまりました。お話が終わったらお声をかけてください」

カイナツさんがそう言い終わらないうちに、グラッドさんは私を2人から離れた場所に誘導する。


「あまり上手くないから小声で話してほしい」

そう言って透明な結界を張る。

その結界はワイングラスのように薄く、春の湖の薄氷のようでもあった。

色々ありまして間が開いているので、着地点がわからなくなってしまい、迷走しています。

読んでくださっている皆様、申し訳ありません。

力量不足ですが、なんとか完結させますのでよろしくお願いします!

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