第106話:熊の決心
どもどもべべでございます!
今回で、ついにこの物語のジャンルが嘘でなくなる……かもしれない!
さぁ、みんなでケモナーになろう!
という訳でご投稿! どうぞ、お楽しみあれー!
さて、私のしたい事は皆さんに伝えました。
反対意見も、たくさんいただきました。
今後は、かつてのように付き合えるか怪しいとさえ言われました。
その上で、結論は……「これしかない」、というものでした。
「ゴンさん、お手数おかけします~」
『まったく……今日は走り通しだ』
私は現在、ゴンさんの背に捕まって疾走しています。ものすごいスピード感。これはしっかりと掴んで顔を埋めていないと、振りほどかれてしまいかねません。
えぇ、このモフモフはやむを得ないモフモフです。だから今の内に堪能しておく事こそ何よりも大事なのです!
『フンっ』
「ありがとうございますっ!」
相変わらず邪念の察知能力が高いゴンさん。跳躍の後の着地により、私は鼻っ柱を背骨にがっつりぶつけてしまいました。ふぅ、自重自重。
先ほどまでのゴンさんは、勢いのままに木々をなぎ倒しながら進んでいたご様子。しかし、今は余計なダメージを貰う訳にはいきません。
なので、私の力で一直線の通行上にある木々に、少しだけどいてもらいながらの移動中です。
『ちんくしゃ、疲れた。茶を寄越せ』
「はいはい~、心和特製のゴンさん茶ですよ~」
更に、既に2つの国を股にかけて走って頂いたゴンさんの為に、ゴンさんぐるみから取り出したお茶をプレゼントします。
え、手を放してるのになんで振りほどかれてないのかって? 君たちのように勘の良い子は嫌いですよ?
ちなみにこれは、サイシャリィに初めて向かっていた時に、フィルボの兵隊さん達に飲ませたことのあるあのお茶ですね。疲労無視、能力倍増、最高の肉体的パフォーマンスを実現してくれるあのドーピングぱぅわーを秘めたゴンさん茶です。
その代り、効き目が切れたら3日近く寝込んでしまうという諸刃の剣でもあるのですが……今日この日の内に全てを解決しないといけないので、後のことは知ったこっちゃありません。
ゴンさんも、ちゃんと承諾の上で飲んでくれてますよ?
「っ……グォォォォォオオオ!!」
「はぁん、ゴンさんの雄叫び……ワイルド……♪」
お茶を飲んだ瞬間、ゴンさんの四肢がバンプアップしたような気がします。
水を吸い上げ光合成100%突破した大樹が如き逞しさ! 時と場所が予断を許さない状況じゃなければ、私はこのままゴンさんを拘束して宿屋にゴールインしていた所です。
「ここちゃん! 欲情してないで、もっと準備を進めておいてください!」
「っ、あわわ……す、すみません~!」
思わずゴンさんの首に回そうとしていた腕を、上からの叱咤でハッと引き戻します。
そうでした。私達の上空では、ねーちゃんが葉っぱに乗って飛んでいるのです。監督役としての義務をしっかり果たしてもらってるおかげで、脇道にそれがちな私の思考はしっかりと目的を遂行するための作業に戻れます。
ちなみに、今ゴンさんの背中に乗っているのは、私とキースさんの2人です。上にはねーちゃんがいますので、ゴンさん含めて4人で目的地に向かっています。
まぁ、キースさんはあまりのスピードに泡吹いて気絶してますけどね。蔦を生やしてゴンさんに括りつけているので、落ちる心配はありません。
『ちんくしゃ、邪獣の力が解放されておる! どうやらドゥーア達とやり合い始めたようだぞっ』
「う~ん、始まっちゃいましたか。あんまり皆さんに死んでもらっても困るんですけどね~」
『まぁ、チビ助次第だなっ』
ですね~。
ノーデさんが間に合ってくれていたら、どうにかしてくれるでしょ。ようは茶渋さんがあそこから動かなければいいんですよ。
その間に、私はじゃんじゃか作るもの作っちゃいます。ゴンさんの背中の上で超スピードの移動中だとしても、この一年で培った私の技術に狂いはありませんとも~。
「……ゴンさん」
『なんだ』
でも、うん。
やっぱり、少し集中力、切れてますかね。
「私って、ヒドイ妖精ですか?」
『人間達の倫理からしてみれば、まぁ外道だな』
そっか。
まぁ、そうなんでしょうね。心和の記憶にもこんな事してる人間は、ドラマなんかでは大抵悪役でしたし。
『だが……』
「……だが?」
『我は、貴様に感謝しておるよ』
隆々に四肢を滾らせながら、走るゴンさん。
しかし、私にかけられる念話は、とても優しいものでした。
『我の100年は、諦めと共にあった。……長く隣にいた同胞を、滅する事でしか解放できんのだと思いながら過ごしておった』
「…………」
『故に、貴様があれの正気を取り戻すなどとほざいた時には、身勝手にも怒りが湧いたものよ。我でも無理だったものを、どうして貴様に成せようかと』
うぅん、ごもっとも。
ゴンさんが長らく準備し、そして今まさにと築いてきた努力を、一切のお構いなしで破綻させてしまった私。
もはや額を地面に擦りつける事を通り越し、一度地面に植え直されて新しく芽吹いた方が良いのではと思ってしまうやらかしをかました今、ゴンさんのお怒りは必然かと存じます。
『だが……あの時、各国の王を前にして貴様が宣った大言壮語には、しっかりとした芯があった。我が諦め、足掻く事もしなくなった壁に、真っ向から向かい合う覚悟があった』
「……えぇと、ゴンさん、それは……」
『わかっておる。茶が絡むからだろう? あれを正気に戻せば、結果として大量の茶が手に入る見込みがある。……だから貴様は動いているのだろう』
故に、と、ゴンさんは続けます。
『だからこそ、絶対の信頼を寄せるのだ。茶が絡んだ貴様は、どうにもならぬ現状を悉く覆してきた。我の傷を、消えるはずの精霊を、頭の固いエルフを、突飛な力で癒し、捻じ曲げてきた。……そんな貴様が、今回も茶の為に動くのだ』
「ゴンさん……」
『ならばどうして失望などできようか! 貴様の手段は確かに非人道的だ。道化を生み出す悪魔の頭脳だ! しかし、それでこそ我が見限った最高の結末を手繰り寄せる事ができると、今では確信しておる! ちんくしゃよ、我は今、貴様をあの日救って良かったと芯から思っておるぞ!』
ちょ、ゴンさ……止めてくださいよ。
デノンさんに、いっぱい怒られちゃったから……少しセンチになってるんです。
それなのに、こんな時にそんな事言ってくれちゃうなんて。手元が狂ってうまく作れません。
「見えました! ……間違いありません、邪獣です!」
頭上のねーちゃんから、声がかかりました。
同時に轟く咆哮が、私達の鼓膜を破きにかかります。
これにはさすがのキースさんも目を覚まし、「ひぃぃい!?」と悲鳴を上げていますとも。
『ちんくしゃよ、ここからは貴様次第だ。だからこそ、今言うぞ』
茶渋さんの威嚇もなんのその。突っ込んでいくゴンさんが、私に言葉を投げかけます。
念話だから、距離とか視線とか関係ないのに……あえて、私の方に視線を向けて。
目と目が合った瞬間、少しだけ時間が止まったかのように感じます。
『奴と友好の証を結べた暁には……我の伴侶となる事を許す』
……Ou?
『さぁ、行くぞ!』
「ちょ、ちょっと待ってくださいゴンさん! ワンモア! リピートアフターミー!? セイ!」
ああああああ! 脳で理解できないのに全身から活力が漲ってくるぅぅぅうう!!
今なら! 世界樹だって! 生やせちゃう気がするぅぅぅぅううう!!
「「ゴァアアアアアアアアアアア!!」」
「ひぃぃぃいい!?」
私達の視線の先には、背中を向けていたシルエットがこちらに向き直っているのが見えています。
間違いありません、茶渋さんです。何かを握りしめたまま、こちらに向けて再度の咆哮をかましています。
それをかき消すように、ゴンさんも咆哮。互いの魔力やらオーラやらなんやらがぶつかり合い、大気が大きく震えました。
同時に、茶渋さんが前足で持った何かをこちらにぶん投げてきます。牽制にしても雑な投擲ですが……。
『チッ!』
ゴンさんは、その投擲物を避けることなく、立ち上がって受け止めました。
結果、繋がっているキースさんはともかく、私は振り落とされてしまいます。
「置いてかないでぇぇぇ!?」
『ちんくしゃ! こやつ等を安全な場所へ運べ!』
「あわわ……は、はいっ」
ゴンさんは即座にキースさんの蔦を切り、受け止めた投擲物と一緒に私に投げ渡してきます。とりあえず、茂みをその場に生やして受け止めました。「ぎゃあ!?」とキースさんの声が響きましたので、無事みたいです。
「あだだ……んぁ? わ、うわぁ!? 血、血が!」
「うん、それキースさんの血じゃないですよ~。……あ~……これは、また……頑張りすぎじゃないですかね?」
起き上がったキースさんの全身は、もれなく真っ赤に染まっています。しかし、彼には小さな擦り傷などはあれど、特段大きな怪我はありません。
その原因は、ゴンさんが受け止めた投擲物。
「ひ、ひぃ!? お前……ノーデ!?」
キースさんのお腹に包まれる、小さな姿が可愛らしいと、いつもなら思える彼。
ですが、今はそんな事言ってられる状態じゃありません。
そこにいた彼、ノーデさんは……左腕と右足の無い状態で、全身が血に濡れていたのですから。




