第101話:大惨事(第三者視点)
どもどもべべでございます!
描写がうまくできなくて、悩んでる内にかなり期限を過ぎてしまった。
忙しさならまだしも、こういう事で期限を過ぎたくはないですね……。もうしわけないです
この日、大陸全土が混沌に包まれた。
突如として、バウムの森から発生した力の本流。全てを飲み込まんとする濁流が如き、闇の魔力が溢れ出したのだ。
同時に、目も眩まんばかりの清浄なる気を感じたと、ピット国やサイシャリィに暮らす者たちは発言している。
脳髄を軋ませるようなプレッシャーの正体を、知る人物は少ない。しかし、一度でも相対した事がある者や、伝承を子々孫々と伝えていた者ならば理解できたことだろう。
邪獣。かつて大陸を恐怖に陥れた、明確な脅威。
知ある者を生み出し、エルフ以外の文明を作った立役者にして、最終的にはそれらを破壊せんと暴走した悲しき獣。
守護者べアルゴンの同胞にして、知を与え最強の存在にまで昇華したのがこの邪獣だ。
しかし、そのべアルゴン本人の手により結界の奥に封印され、今日まで眠り続ける結末を迎えたのが、伝承として語り継がれている。
もはや直接相対した存在は数える程しかいない存在。その災厄が、今日この日復活したのである。
先述した通り、この復活は森に面した国の者ならば即座に気付けた変化である。
それはつまり、ピット国にて同盟についてを語り合っていた首領陣営も把握できたという事だ。
その場にいたのは、国王デノン。その騎士であり森の管理者の従者、ノーデ。
サイシャリィの統治者、ネグノッテ。唯一商人という立ち位置であるグラハムと、その妻サエナ。
そして、大地の精霊であるアースエレメンタル。最強の守護者べアルゴン。
彼らは互いに手を取り合い、どのようにしてあの森の管理者をコントロールするかを話し合っていた。あのドライアドを中心に同盟を組めば、多方からあれの動きを抑制できる。そうすれば、あの馬鹿げた魔力を暴走するのを抑える事ができるようになる。
その為の会議の途中で、あの邪獣復活が発生したのである。
『馬鹿な……』
べアルゴンの念話が室内に響く。
その声色からは、明かな動揺が感じられた。
『よもや、復活を果たしたというのか? いや、それはいい。だが、何だというのだ、この力は……!』
「どういうことですか? あれの魔力は既に枯渇していると言っていたではないですか!」
べアルゴンに続き、ネグノッテも気配を感じたのだろう。血相を変えて巨大な獣に詰め寄っている。
その場にいた面々もまた、魔力を感じられない者を含めて、心臓を握りつぶされそうな重圧に耐えていた。
「守護者様……! これって、もしかしてよ……!」
「我が王、体に障ります。ご無理をなさらぬよう」
「そうも言ってられるか。これって……邪獣、なんだろ?」
デノンの言葉に、グラハムが一瞬意識を失った。
この場が混乱に包まれなかったのは、ひとえに面子がある種の衝撃に耐えられるよう鍛えられていたからだろう。森の管理者の突拍子の無い行動も、精神面の修行としては役に立つようである。
『うむ、間違いない。これは邪獣の気配よ。……なれど、この力はどういう事だ? 奴の魔力はこの100年で枯渇していたはず……』
「では、これはどう説明するのです!」
『我に言われても困る。我とて奴を完全に滅する為に魔力を削っておったのだ。何故このような事態になっておるのか……』
「大変ねぇ、あの時みたいな事にならなければいいんだけど……」
「と、とにかく、市民の避難を促さんといかん! ノーデ!」
「畏まりました」
ノーデが部屋を出て行き、部下へ伝達に走ったのを確認し、室内の彼等も動き始める。
グラハムはサエナに指示を出して国への伝達を送る算段を取り、ネグノッテもまたサイシャリィへ連絡するために魔法を行使した。
「……考えられるとすれば……」
『まぁ、ちんくしゃの仕業であろうな』
最重要の行動をこなした彼等の中では、一つの答えが導き出されていた。
まず間違いなく、この事態は森の管理者が絡んでいるという共通認識に、全員が深く頷いた。
『そも、あの結界を解除できるのは我を除き、あ奴しかおらん。こうして我らが語り合っておる時に、結界を解除したのであろう』
「ですが、何故邪獣はあれ程に力を蓄えているのでしょう」
「……そりゃあ、管理者様しかいないだろう。それも」
『あれが、魔力を邪獣に注いでいた、と?』
全員の脳内に、しいたけみたいな目でテヘペロピースしてるドライアドが連想された。
「「「ありえる」」」
思いは一つであった。
『ぬぅ……あれを過大評価しすぎていたか。よもや、何者かもわからぬ封印対象に魔力を恵んでやるなどという蛮行を、悩みもせずに行うとは……』
「相変わらず予想の斜め上を行く人だよな……」
「何でもっと心配して見張っていなかったんでしょうね、私達」
「ねぇべアルゴン。この前、もし魔力与えてたら一生介護とか言ってたわよね?」
「お願いしますね、一生介護」
『ぬぅ……!?』
言っている場合ではないのだが、消えてくれないテヘペロドライアドにそれぞれの愚痴が止まらない。この段階でまったく心和の心配をしていないのは、ある意味で信頼の現れなのかもしれない。
そんなことをしている内に、ノーデが室内に帰ってくる。避難指示を出した後、現場を他の騎士に任せて戻ってきたのだ。
「失礼いたします! 避難指示を出して参りました」
「そうか。ありがとうな」
「私は邪獣の動きを調査する為に、偵察に行こうかと思います」
「一人では無茶なのでは?」
「いえ、森に関しては充分に地理を把握しておりますし、なにより私は死にませんので単独での偵察が順当かと愚考いたします」
死なないという言葉にデノンがすこぶる微妙な顔をし、ネグノッテとグラハムが怪訝な顔をする。
しかし、最終的にノーデの提案が通り、単独での偵察に向かう形になった。
『さて、我も戻らねばならんな』
ノーデを見送った後、べアルゴンはゆっくりと立ち上がる。
本来ならば壁を破壊してでも一直線に急行していただろう。しかし、存外にも頭の奥ではどこか冷静になれている。
おそらく、邪獣復活と同時に発生した聖なる気配のおかげであろう。邪獣とは真逆の性質を持つ魔力は、おそらくかの獣の行動を縛る要因になったはずだという確信がべアルゴンにはあった。
『あやつがどれ程の魔力を与えたか解らぬが、現状ではっきりしておるのは我以外に邪獣を止められんということだ。チビ助の偵察とは別に、我も動かねばならんのだ』
「それに、ココナちゃんも心配だしね?」
『……別に、あれは死んでおらん。森の管理をしておるあれになにかあれば、この森自体に急な変化が起こるはずだしな』
「んもう、そういう事じゃないでしょう? 素直じゃないんだから」
アースエレメンタルの言葉には返事をせず、べアルゴンは部屋を出て行った。
残されたのは、首脳陣。ノーデの報告を待ち、邪獣に対してどのような対応を行うべきかを考える。
果たして、人類は邪獣の脅威から、自分たちを守る事は出来るのであろうか……。




