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第一章:【時空の魔女】を追え!!3

 今日は入学式というだけあって、授業はほぼオリエンテーションのようなものばかり。

 だから、弥姫ちゃんから送られてきた学園七不思議について目を通して過ごす。

 そして放課後となり、今朝のように弥姫ちゃんの席に集まった。


「この【時空の魔女】って、高等部の先輩なの?」

「うん。名前は渡堺聖果(とさかせいか)、ウチの三年生なんだって」

「そこまで知ってて、どうして誰も騒がないんだろう」


 童話の中で登場するキャラクターで、現実に存在するかも定かじゃない。古今東西と歴史上では関連した事件も多いが、どこか信憑性がなくてピンとこなかった。

 もしその噂が本当であれば、騒がれたっておかしくない。

 特に閉鎖的な環境下に近い百籃学園は全寮制で、周囲は木々が生い茂っている。街に行くにも専用のバスが学園からでていて、外出にも許可が必要だ。


「ま、花火みたいな純粋な反応が新鮮なんだよ」

「そうそう、百学(ももがく)に在籍してれば一度は耳にするはずし」

「……そっか」


 逆に、この学園では名物のようだ。

 であれば、是が非でも会ってみたい。

 そして弟子入りなんかもしてみたり、みなかったりと考えてしまう。


「じゃ、さっそく教室に行ってみるの?」

「それが出来れば苦労しないんだよ」

「何のための七不思議だと思ってるの」


 肩を落とす弥姫ちゃんに、神妙な表情で頷いた沙衣ちゃん。

 さっきから似た反応ばかりだ。

 ちょっとだけ興味を持ち始めたのに、気分の方が萎えてくる。


「百聞は一見に如かずか」

「説明するより、確かに手っ取り早いかもね」


 どこか覚悟を決めた二人の表情に、クラスを後に上階へと向かった。

 放課後というだけあって、どの学年も閑散としていて残っている生徒が少ない。微かな会話声が聞こえるだけで、どこからか金管楽器の音色が響いてくる。


「そういえば二人は部活動とかするの?」

「あ~そんなこと言ってたねぇ~」

「私は変わらず文芸部かな。運動は苦手だし、忙しいのも文化祭くらいで楽だし」


 窓辺から見下ろせる中庭を走る、ラケットバッグを背負う女子生徒たち。耳をよく澄ませば、グランドの方からも運動部の掛け声が聞こえてくる。

 そこで、ふと疑問が過った。

 入学式も終わって間もないというのに、歓迎ムード的なものが存在しない。

 むしろ通常モードかのような時間が流れ、すでに一部の同級生も部活動に混じっている様子。

 そうなると、この場に浮くことになる存在の弥姫ちゃん。

 沙衣ちゃんは口にしたように文芸部らしいが、弥姫ちゃんはどうするのだろうか?

 理由としても一つ、運動神経が良いのだ。

 中等部の頃は各運動部から引っ張りだこで、入部はしないが助っ人として動いていた。それも本人に合っていたのか、忙しそうにしながらも楽しげだったと思う。

 中高の一貫校だけあって、弥姫ちゃんの活躍は耳にしているはずだ。

 それも【時空の魔女】のような七不思議ではなく、確かな実績を各部で残してきた。

 こうして一緒に放課後を過ごしているのも珍しいくらいで、七不思議なんて噂を追っていていいのだろうか。


「花火はどうするのさ、今年も帰宅部?」

「いやぁ~何をしようか決められないんだよねぇ~」

「それ、去年も言ってる」


 鋭い指摘されると、ただ笑うしかなかった。

 好きで帰宅部を選んでるわけでもなく、色々と興味深い部活が多いから決められない。だけど、弥姫ちゃんのようにアクティブに動けるわけでもなく。どれか一つに決めあぐねているうちに一年が過ぎている。

 そんなこんなで中等部時代を過ごしてきてしまっている。

 だから今年こそはと意気込んではいるものの、何となく変わらないままの気がしていた。


「私は百学の七不思議でも追おうかなって考えてるんだ」


 決して冗談を口にしている様子もなければ、揶揄われること覚悟で真剣みを帯びた弥姫ちゃんの声音。

 何か一つのことに打ち込む真摯な姿勢。

 それはどの部活動でも目にした活躍する姿とは別で、同性なのに心惹かれてしまうカッコよさが滲みでていた。

 三年という長いようで短い付き合いの関係だが、初めてみせる弥姫ちゃんの一面。


「かっこ――」

「バカじゃないの」


 不意に発しようとした気持ちに重なる、沙衣ちゃんの抑揚なく冷たい言葉。そこにも普段はみせない感情が宿っているようで、肌が少しだけピリついた気がした。

 胸の内に秘めた気持ちを押し殺すような憤怒。

 しょうもない事へと時間を費やそうとする意志への愚行。

 それに対する批難。

 幼馴染として共に育った故の冷遇。

 そんな負を連想させる本質と対照的な正の気心。

 長い付き合いからの、馬鹿げた発言すら受け入れる寛容さ。

 やり遂げようとする勇敢な意志への切望。

 それをさらに後押しする、表には決死でみせない激烈。

 何よりもシンプルな愛情。


「だよな!」


 それら一心を受け止めてなのか、弥姫ちゃんは快活と笑った。


「そうよ。一人でなんて無理でしょ」

「沙衣はそういうけど、誰もまともに取り合ってくれないんだからしょーがないじゃん」


 ほんの一瞬で繰り広げられたやり取りを目の前に、呼吸をすることすら忘れていた。

 だが、そんなのは幻だったかのような光景。


「ん? どうした花火」

「まぁ~た、ぼぉ~っとしてる」


 不思議そうに瞳を丸くさせる弥姫ちゃんに、揶揄うような声音で視線を向けてくる弥姫ちゃん。

 ついさっきと変わらず、中等部の頃に初めて声をかけた時を思い返す懐かしさ。

 見えない何かが、知らないところで崩れてしまっていたのではと錯覚してしまう。


「う、ううん。何でもない」


 だから必死に笑顔を繕って首を横に振った。


「……ほら、花火のこと怖がらせた」

「私が悪いの?」

「え~だんっぜん、沙衣でしょ」

「弥姫が変なこと言いださなければいいだけよ」

「ん? んん? 二人とも……喧嘩してるわけじゃないの?」


 お互いの肩を寄せ合う距離で会話する二人の姿に、ただただ疑問しか浮かんでこない。どこかバツが悪そうな表情の弥姫ちゃんと、相変わらず感情が読めない沙衣ちゃん。視線だけでの会話を始め、無言の時間が続いた。

 先に口を開いたのは弥姫ちゃんで、片頬を人差し指でかく。


「私が沙衣とケンカして、何か得することある?」

「花火も含めてだけど、追試ギリギリの面倒をみてあげてるのは誰?」

「……サイちゃんです」


 過去を振り返っても沙衣ちゃんの一人しかおらず、テスト期間は毎晩のように泣かされてきた。それは弥姫ちゃんも同様で、共に苦楽を過ごしてきている。

 こうして三人そろって高等部に進級できたのも、沙衣ちゃんの存在が大きい。

 もし見切られでもすれば、楽しい学園生活はほぼ灰色に染まった未来が待ったなし。


「些細なことで衝突はするだろうけど、私は寛大だからね」

「だったら、今回の件で怒らなくても良くない?」

「それとこれとは別でしょ」


 何かとお世話になって沙衣ちゃんには頭が上がらないものの、常にご機嫌取りの胡麻すりで接してるわけじゃない。

 同い年であり友達、だけど他の子とは関わりの深い親友と思っている。

 不満を口にする弥姫ちゃんを指差し、沙衣ちゃんが視線を向けてきた。


「弥姫のヤツ【時空の魔女】に弟子入りして、同じ力を手に入れるんだって意気込んでるのよ? そんなのあり得るわけないのにね」

「でたよ、夢のないリアリズム」

「もしそんなことが出来るんだったら、そこかしこにネコ型ロボットがいっぱいいるわよ」


 ここまで来て、ようやく七不思議を追おうとする事の発端がみえた。

 だから余計、弥姫ちゃんに共感ができてしまう。


「……花火、アンタも同じこと思ったでしょ」

「えっ!? そ、そんなことはないよ……」

「裏切るのか花火!」


 睨みつけるように細められる沙衣ちゃんの目もと。妙に迫力があって目が合わせられず、けして弥姫ちゃんのような不純な気持ちを抱いていないことを主張しておく。

 そんな感じでやいのやいのと騒ぎながら上へ、気づくと目的の階に到着していた。

 下階同様に静けさの中に、どこか場違い感を錯覚してしまうような空気。


「……な、なんか、緊張するな」

「言い出しっぺでしょ、ほら」


 普段は明るく元気いっぱいな弥姫ちゃんですら緊張しているのか、表情がどこか硬い。その後ろを続くように、沙衣ちゃんは袖口を掴みながら軽く背中を押した。

 だからでもないが、倣うように弥姫ちゃんを先に進ませる。


「お、押すなって二人とも……」

「弥姫なら運動部繋がりで顔が広いでしょ」

「私はほら、帰宅部だしね」


 階段を昇り終えてから、まったく前へと進まずに似たやり取りを繰り返す。


「ん? そこの一年生ちゃん達、何か用かい?」

「「「っ!?」」」


 不意にかけられた、誰もいない通路によく通る声。複数形の誰を指すのかと確認するまでもなく、向こうの方から近づいてきた。

 少しだけ目線の位置が高そうな、頭頂部から毛先にかけて濃くなる紫色の髪。歩くたびに揺れるやけに長い後ろ髪は魚の尾ひれを連想させ、風が吹いていないのに空気を含んだようにフワッとさせる。

 細長に吊り上がった目じりの奥、紫紺色の瞳に真っすぐと見据えられた。


「……それ、魔女さんのマネかい?」

「え?」


 結んだネクタイの色は白に紺色の一本ライン。制服の基調である白は変わらず、学年色を示すネクタイだけが違う。一年生は白に濃い緑のラインが一本。

 初対面のはずである上級生を前に、挨拶どころか名乗りもせずに立ち尽くす。

 どこか悪戯っぽい表情を浮かべ、目だけがゆっくりと上から下へと動く。


「ん~の割に小柄で、制服も少し大きめかな。高校生にもなると女の子って背が伸びなかったりするから、調整した方がいいかもよ」


 確かに、全体的に少し大きいサイズを着ていると思う。それも理由があってのことで、そこを否定された気がした。


「……まだ、胸は成長するはずです」

「……」


 日も長くなりつつあるこの頃、同じ校舎なのに高さが違うだけで風景も変わる。差し込む夕日がキレイで、それにあてられでもしたのか頬が熱を帯びていく。


「ぷっ」

「サイちゃん!!」

「へぇ~そんな意図があったんだぁ~」

「ミキちゃんも!!」

「キミ、なかなか面白いね」

「先輩まで!?」


 三者三様の感想とともに笑われ、どこか生暖かい視線に喰ってかかってしまう。


「いいじゃないですか期待したって! 胸があれば女性らしさが際立つし、少しは大人っぽくみられると思うんです!」

「……その発言、私も含めてけっこぉ~敵をつくるかもよ?」


 指差す先に視線を向けると、弥姫ちゃんと沙衣ちゃんが良い笑顔だった。


「別にぃ~スポーツする上では動きやすかったりするしぃ~」

「見た目も大事だけど、人は中身だっていうしね。……勉強もできないと」


 すでに切られた火蓋だが、どうにか収拾できるわけがない。であれば、事の発端である被害者であり加害者へと助けを求める。


「先輩!」

「いやぁ~仲が良んだね三人とも」


 まるで胸のことは気にしていないのか、口もとに手を当てて両肩を上下させる。


「改めて、あたしは三年の()()()()だよ。キミたちは?」


 一度耳にすれば覚えやすいフルネームに、それでいて気さくで親しみやすい麻岐先輩。遅くなったが順番に自己紹介を済ませ、ようやく本題に入ろうと口を開こうとした。


「悪いが、魔女さんは不在だよ」


 麻岐先輩からの抑揚もなく、事実だけを端的に告げる言葉。

 それがあまりにも唐突であれば、まだそのことで訪れたことを明かしていない。


「……麻岐先輩。どうして私たちが魔女についてだってわかったんですか?」


 だからか反応にも少し遅れ、戸惑いながらも弥姫ちゃんが疑問を代弁してくれた。

 さっきまでの賑やかだった空間が静けさを増し、目の前でただ微笑を浮かべて立ち尽くす先輩を見据える。

 全寮制だけあって上級生と関わり合う機会は、少なくもある方だ。

 寝起きする部屋であれ、共同のお手洗いや食堂。学年によって利用時間が決められたお風呂場ですら入れ違いもあれば、何よりも一歩でも廊下へと踏みだせば鉢合わせる。

 たとえ顔見知りで仲が良く、同室であっても最低限の挨拶は交わす。

 だというのに、麻岐先輩は他の上級生とは気質が違ってみえた。

 微笑からさらに表情を豊かに、麻岐先輩は口角を吊り上げる。


「いや、けっこぉ~恒例だよ? 年に数回、こういった類で訊ねてくる下級生をよく目にしてきたんだ」

「そ、そうなんですか」



 弥姫ちゃんよりも、沙衣ちゃんの方が驚いていた。


「今年度だけでいったら、キミたちが第一号かな」


 それは喜んでいいものなのかと疑問だが、弥姫ちゃんは真剣な表情をしていた。考え込むように首を傾げ、顎に手を当て麻岐先輩に――、


「ちなみにほかの方々は、魔女さんにどういった用があったんですか?」

「用というほどでもないが、私は単純な興味だと思うよ」


 何かを訴えかけるような視線に、弥姫ちゃんは納得したように相槌を返した。


「けど、そうだね……」


 真っすぐと、それでいて怪訝そうな声音で麻岐先輩が見つめてくる。


「キミ。……花火ちゃんのように魔女さんの特徴をマネしてきた娘は初めてかな」

「……え?」


 指差し確認で麻岐先輩に問うと、首を縦に振られた。


「けどその様子だと狙ってマネしたんじゃなくて偶然。しかも、魔女さんの存在すら知らなかったって……マジかい?」


「麻岐先輩の方が魔女っぽい気がしたきた」


 ぼそっと呟いたつもりなのだろうけど、弥姫ちゃんの独り言は麻岐にも届いていた。言いたいことはわからなくもないが、確証が持てるわけでもない。

 むしろ、こうしてこの場に留まっていること事態が不自然だ。


「もしそうだったとしたら『自分は魔女です』なんて自ら言って回るかい? それって、傍からすればイタイ奴だろ」


 肩を竦めた麻岐先輩は続ける。


「単純に、上級生に用があるなら寮でも構わない。なのにキミたちは、普段は立ち入るどころか道に迷った様子もなくここにいる。……まるで誰かを探しているようじゃないか」


 これが答えだというように、麻岐先輩は弥姫ちゃんに視線を送った。


「じゃあ最後に聞かせてください。魔女さんは、今どこにいますか」


 どこか釈然としていなさそうな雰囲気の弥姫ちゃんは、片頬を人差し指でかきながら率直に目的を果たそうとする。

 それをみて、麻岐先輩はバツが悪そうな表情で窓辺を見据えた。

 正確には外を、どこか遠くを眺めるような目つきをしている。


「私にわかるのは、この敷地内にいるってことかな。授業の出席はおろか、校舎内にいるか定かじゃない。なのに教師は呼びだすどころか無関心。さすが、常にテストで満点をとり続けるだけあって優秀だから何も言えないんだろうよ」


 麻岐先輩の皮肉交じりで、どこかありありと感じられる扱いに対する不満。

 それは、弥姫ちゃんも同様のようだ。


「羨ましい!」


 声高らかに発した言葉に、沙衣ちゃんは肩を竦めて横目を向けてきた。


「魔女を探す手掛かりも得られましたし、ありがとうございました麻岐先輩」

「ん、もう行くのかい?」


 名残惜しそうに眉を潜める麻岐先輩だったが、言い出しっぺでもあり、邪まな願望で【時空の魔女】さんを探している弥姫ちゃんは止められない。


「すみません、また何かあったら来ますね!」

「ああ、無事見つけられるのを願ってるよ」


 踵を返して駆けだそうとする弥姫ちゃんを、麻岐先輩は胸もとで小さく手を振って見送ってくれた。弥姫ちゃんに引っ張られるように、沙衣ちゃんと麻岐先輩に軽く頭を下げてその場を後にする。

 先を歩く行く弥姫ちゃん。


「よし、とりあえずは花火の髪形に似た先輩を探そう」

「なかなかにいなさそうだけどね」

「え、そんなに奇抜かな」


 これといった特徴は、お気に入りのリボンを右の横髪に編んでいるくらい。色も単色の黄色よりも濃く、夏に咲くひまわりに近いと思う。

 けど、それくらいだ。

 女の子だから登校日であろうとお洒落くらいはするし、ヘアアレンジともなると多岐に渡って限りない。似合う似合わないもあるだろうけど、周りは目を惹くほど個性豊かに満ち溢れている。

 改めて二人からまじまじと見つめられ、たじろいでしまうほどの圧。


「てなわけで、別々になって探す?」

「まあ、そこまで広くない敷地内だけどね」

「サイちゃんって、意外と魔女さんを探すのに積極的なの? ミキちゃんが言いだした時は否定というか、信じてない雰囲気だったような……」


 顎に人差し指を当てて小首を傾げ、ついさっき交わした会話の内容を思いだす。

 たまにぼぉ~っとしてると言われるも、話を聞いていないわけじゃない。記憶力も勉強を覗けば時どき忘れはするものの、まだそこまで呆けていないと思う。


「沙衣も【時空の魔女】を信じてないわけじゃないぞ。むしろ、学園七不思議にだって興味津々だよな?」


 揶揄うような弥姫ちゃんの表情に、沙衣ちゃんは目もとを細めた。


「私はただ、いないモノや目で見れないのを信じてないだけ。弥姫と違ってあれこれと出回る噂に踊らされたくないのよ」

「ホント、そこはブレないよね」


 肩を竦める弥姫ちゃんに、この件は長らく続いて未だに平行線のようだ。


「けど麻岐先輩の言葉で確証が持てた、【時空の魔女】は実在する」

「それが嘘の可能性は?」


 更なる弥姫ちゃんの横やりに、沙衣ちゃんは鼻を鳴らして歩き去ってしまう。


「だ、大丈夫なの?」

「いつものことだからな」


 仲が良い二人だから余計に心配だが、弥姫ちゃんは軽く笑うだけで焦りのようなモノを感じさせない。


「花火こそ、毎回こんなケンカで一喜一憂してたら身が持たないぞ」

「だって~みてて冷や冷やするんだもん」


 むしろ、逆に気遣われてしまった。


「たまにぼぉ~っとしてるわ、勝手な思い込みが激しいし。花火ってば、感受性が豊かなの忙しいヤツだな」

「褒められてるの!?」


 弥姫ちゃんとは同い年のはずなのに、まるで妹かのように頭を撫でられる。

 それから本当に手分けする形で探すようで、弥姫ちゃんとは別れて一人になった。


「……あの感覚、どこかで」


 高校生にもなって、誰かに頭を撫でられる機会は少ない。弥姫ちゃんの場合は、揶揄っている節での延長線上にある行為だろう。

 だというのに、懐かしさを感じる不思議さ。


「……気のせいか」


 いくら思いだそうとしても心当たりがなく、一度考えることを止めた。沙衣ちゃんがどの範囲を探しているかわからないが、弥姫ちゃんに頼まれた文化部棟に足を運んだ。

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