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エピローグ:姉妹制約

「ほんとぉ~に、ごめんなさい!」

「そう何度も謝らないでちょうだい」


 目が覚めると、クローゼットから引っ張りだした服が床に散乱し、気づけば街へと向かうバスの時間が過ぎてしまっていた。

 せっかくの渡堺先輩とのお出かけは、なくなってしまったのだ。

 また後日と優しい言葉で許してはもらえたが、楽しみにしていただけもあって逃したショックは大きい。それもこれも、前日に何を着ていくべきかと悩みに悩み、寝るのが遅くなってしまったのだ。

 そして今、バスの時間が過ぎたことに渡堺先輩がわざわざ足を運んで起こしてくれた。それに加えて、部屋の片づけまで手伝ってくれている。

 何から何まで頭があがらないどころか、本当に優しい先輩だと思う。

 ……どこが、魔女なんだろうか?

 渡堺先輩は百学に在籍する七不思議【時空の魔女】らしいのだが、そうは思えない。まあ、授業に出席しないのに学年トップの成績で、先生から何一つ音沙汰がないのは不思議でしょうがない。

 それもここ数日と勉強をみてもらって過ごすうち、どうでもいいのかなと感じてしまう。

 だって、渡堺先輩は渡堺先輩だ。


「私の顔に何かついてるの?」

「な、何でもないです! ただ、どうしてお出かけするのに制服なのかなって疑問が……」

「……私服のつもりだったのだけれど、可笑しいかしら?」


 その一言に、唖然とさせられてしまった。

 濃紺色のスカートにはどこか懐かしくも見慣れた感覚があり、記憶を数か月と遡って新しい。

 だけど、渡堺先輩のとは異なる。

 まるでそんな疑問を見透かしたように、説明してくれた。


「これは確かに中等部のセーラー服をベースに、上に重ねる形で高等部の履いてるのよ」


 中等部のセーラー服丈の長さに、高等部の膝上と重ねたんだ。

 みせつけるように人前で層となる高等部の白い裾を捲る行為だが、同性ながらも恥じらいを感じてしまう。


「さすがに高等部のブレザーだと目立つと思って、上はカーディガンにしたわ」


 後ろ丈の長いカーキ色のカーディガンを羽織ってみせ、大人の落ち着いた雰囲気が一層増していった。


「ま、その必要はなくなったのだけれどね」

「ホント、ごめんなさい」


 その点に関しては、ただただ平謝りするしかなかった。

 それでも渡堺先輩は弄るようなことはせず、短く咳払いをする。


「ちょうどいいわ、花火。大事な話があるの」

「はい?」


 服を畳む手を止めた渡堺先輩は、思案するように微かに瞼を閉ざしたかと思うと、真剣な眼差しを向けてきた。


「この部屋、本来は二人部屋よね?」

「あ、はい。……けど、この通りです」


 本来は二年生の先輩と同室になる割り振りらしいのだが、生憎と今は一人で使わせてもらっている。弥姫ちゃんや沙衣ちゃんは広く使えることを羨ましがるも、掃除をするは一苦労で、朝だってギリギリでも起こしてもらえない! 最後のは、願望だ……。

 良い所と悪い所があるものの、中等部の頃からだから慣れきっている。

 渡堺先輩も部屋をぐるりと眺めて、再び視線を戻してみつめてきた。


「この部屋に来ようと思うの。遊びにとかの意味ではなく……移動? で、合ってるのかしらね」

「ええっ!!!?」


 あまりにも急で、予想外だったことに自然と声が大きくなってしまう。


「……うるさいわよ」

「ご、ごめんなさい」


 眉間に皺をよせ、両耳を手で塞ぐ渡堺先輩。いくら二人部屋とはいえ屋内、かなり騒がしかっただろう。休日ともあって近隣の生徒を驚かせたどころか、寮母さんにまた怒られてしまわないかと身を竦める。


「とりあえずそういうことだから、さっそく荷物を持ってくるわね」

「手伝いますよ」

「……大丈夫、一人で出来るわ」


 そんなことよりもという視線を、渡堺先輩は部屋中へと向けた。


「私が来るまでに……わかってるわよね」

「急いで片づけます!」


 それからせっせと服を畳み、昨日の夜に弥姫ちゃんが横になってクシャクシャにしたベッドを整える。ついでに窓を開けて空気の入れ替え、床のカーペットには掃除機とコロコロをかけ、これ以上に無いほど徹底した大掃除を行った。


「……そんなに息を切らしてどうしたのよ」


 手の甲で額の汗を拭い、抱えるほどの段ボールを一つ手にした渡堺先輩を歓迎して招き入れる。


「それだけですか?」

「教科書とかは教室においてあるから、着替えだけあれば問題ないわ」

「そういうものですか」


 中等部から高等部への移動の際、寮も変わるのもあってかなり大掛かりだったと記憶している。

 だから、渡堺先輩の荷物があまりにも少ないことに驚かされた。


「それじゃあ花火、これから同室よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 嬉しさのあまり声をまた張ってしまうと、渡堺先輩は呆れたように肩を竦めた。


「そうだ、私からの追試を合格したお祝いがあるの」


 段ボールを机に置き、渡堺先輩はガサゴソと中身を漁る。

 そして近づくようにと目線で乞われ、ドキドキしながら正面に立った。


「手をだして」


 右手をだすと、渡堺先輩は手首に細い紐のようなものを結んでくれた。

 黄色やオレンジといった、色彩が同系統でまとめられた一本のアクセサリー。


「ミサンガよ。初めて作ったから不格好かもしれないけれど、これが切れた時には願いが叶うというらしいわ」

「……何をお願いしてくれたんですか」


 キュッと結ばれたミサンガに触れ、渡堺先輩を見据える。


「花火の成績がもっと良くなりますように、かしらね」

「が、頑張ります」

「ええ、そうしてちょうだい」


 痛い所を突かれてしまったが、口もとに手を当てる渡堺先輩に笑い返す。


「けど、嬉しいです! 大事にしますね!」


 これから一緒に過ごすのかと思うと嬉しくて、これからの学園生活が楽しみでしょうがない。

 ベッドの縁に飛ぶように腰かけ、渡堺先輩が荷物を片づける姿を眺めた。

 すると、着替えに混じって違ったものに目がひく。


「キャンドルですか?」

「……ええ、ラベンダーのアロマキャンドル」

「お洒落ですね!」


 いかにも年上っぽく、大人な趣味に食い気味に興味を抱いてしまう。

 それをみてか、渡堺先輩は大事そうにキャンドルを両掌の上に乗せた。


「今日の夜にでも使ってみようかしらね」

「楽しみです!」


 ガラスの入れ物に、白い蝋の部分を紫色が模様を波のように描く。

 それがどこか渡堺先輩の雰囲気と合っていた。

 そこからは他愛もない休日を過ごすかと思いきや、まさかの追試問題の復習をさせられるとは、誰が予想できただろうか。

 偶然とはいえ在籍する学園の七不思議を知り、追いかけた先にいた存在【時空の魔女】を自称する先輩。まさかの同室になるとは露知らず、高等部へとあがった新たなる門出のように感じられた。

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