第五章:まるで本当の姉妹かのように#1
こうして外の情報を得るのは久しぶりね。
特に知りたい記事があったわけでもなければ、興味をひくようなこともない。ただ流し読む形でページを捲り、平積みされた元の場所に戻した。
「……そういえば、お昼がまだだったわね」
あれこれと花火に連れ回され、謎の圧と煽りに応えて続けた。それも追試を合格したご褒美だったが、応えすぎた感が否めない。
……お陰で妙な疲労感がある。
書店のレジにぶら下がる時計を目に、施設内を散策してかなり時間が経った。さすがに花火もお腹を空かせ始めるだろう。
「さて、混んでるとは思うけどフードコートにでも……?」
ふとそこで、違和感に視線を巡らせる。
それもほんの一瞬で状況を把握できた。
花火が、いない……?
ドッと汗が噴きだす感覚に襲われた。
「あの、少しいいですか」
「何かお探しでしょうか?」
するとタイミングよく書店の店員さんが、商品棚整理のためか近くにいた。だから躊躇わずに声をかけるも、的を射ない呼び止めだと頭では理解している。
だけど、どうでもいい。
「これくらいの背丈で、私と似た髪形……右の前髪にひまわり色のリボンを編み込む女の子をみかけませんでしたか?」
花火とは、少し見下ろす形の身長差。頭一つ分とまではいかないが低く、女子としては平均的な身長をしている。逆に私が高い方なので、顎の下辺りを花火の身長とし、左側に編んだ藍色のリボンをみせた。
特徴としては強く、一目見てすれ違っていても記憶に残りそうなものだ。
「……みかけては、いませんね」
困ったように店内を見渡してくれるも、やはり見間違いではないようだった。
そんな期待は虚しくも空振りに終わってしまい、店員さんにお礼を告げて思案する。
ここで私が探しに動いた際、もしかしたら花火との入れ違いになってしまうかもしれない。それが最悪のケースではあるけど、どこに行ったかを予測するなんてできるかしら? 今日だって場当たり的な行動が目立ったし、予測なんて――、
すると、すぐそばに人の気配がして顔をあげた。
「……花火、どこに行っていたの」
「あ、渡堺先輩。もういいんで……?」
まるで人の心配を露知らずといった様子で、花火が不思議そうな表情を浮かべていた。
「すみません、連れがみつかりました」
人が良い店員さんもあって、わざわざ仕事の手を止めてまで店内を探してくれていた。それが非常に申し訳なく、深々と頭を下げてその場を後にする。
そして身を翻して、花火の方へと近づく。
「私の目が届く範囲からいなくなったと思ったら、どこに行っていたの」
「ご、ごめんなさい。……その、あそこに」
肩をシュンとすぼめた花火は、視線を彷徨わせるようにして指差す。
そこは天井からぶら下がる真っ白な布で覆われ、『テナント募集』という文字が書かれていた。
……?
頭の中には疑問が絶えず、花火に直接尋ねる。
「テナント募集中って書いてあるようだけれど、あそこが――」
「はい、行きたかった場所です」
そうだった。最初は花火、入り口前の案内板をみながらガッカリしていたんだ。だから気を遣って楽しませようとしたつもりだったけど、それを忘れされられるほど浮かれてしまっていた。
これは、強く怒れないわね。
「びっくりするじゃない、何も声をかけないから」
もう怒っていないことを伝えたかったが、生憎とそういった器用な性格じゃない。せめてもと口調を優し気に、口調を強めにしないよう意識する。
「私の方こそごめんなさい。ただ、本当に驚いたのよ」
「こ、今度から……気をつけます……」
そんな悲しい顔をさせたかったわけじゃない。
花火はいつでも自由で明るく、手はかかるけど面倒見がいのある元気な娘でいてほしいと思う。
これはちょっと、個人的な気持ちの問題なのかしら?
どうやらまだ怯えた様子の花火だったが、手もとから一枚の紙が床に舞った。
「……何か落ちたわよ」
「あっ」
そこで、我に返ったような表情で見あげてくる。
そう、これでこそ花火だ。
手もとの紙を覗き込み、内容を一読する。
「……テナント移動のご案内?」
「そうなんです! なくなったと思ったんですけど、どうやら駅前の方に分け合って移動したって紙が貼られてて、ほら」
なるほど、そういった事もあるのか。
小さく記載された地図をみると、ここから近いようだ。
何よりもここまで『行きたいです!』オーラを放っていると、無下にはできない。
「是非、行きましょう!」
「……もぉお、アナタって子は」
こんなことを直接伝えると怒るだろうけど、まるで元気な子犬の散歩をさせられている気分だ。……寮暮らしだから飼ったことはない。全部、本から得た表現を照らし合わせている。
その表現が適していると思えた。
だから、さっきのようなことがあると困る。
「建物の外となると、探すのも一苦労どころじゃなくなるわ。こうして行きましょう」
「こ、子ども扱いしないでくださいよぉ~」
こうやって手を繋いで歩く姿は、周りからはどう映っているのかが気になった。
……もしかして、本当の姉妹のように見られたりするのだろうか?
何やら不満を口にする花火を無視して、私は建物の外を目指した。




