第40話 戦い終えて~テツヒコ
久しぶりの投稿となります。
間隔が空き、申し訳ないです。
今回はタイトル通り、テツヒコの回です。
それではお楽しみいただければ幸いです。
新たな勇者の誕生に場内全体が湧き上がる。あらゆる人々の注目が注がれる中、仕掛けた当の本人、テツヒコは胸中で密かに胸を撫で下ろした。同時に己の見事すぎる程の立ち回りに重圧と達成感が複雑に入り混る——なんとも形容しきれぬ高揚感を得ていた。
(危ねぇ……。上手くいったようで安心したぜ……)
息を切らせる素振りも見せないテツヒコ。実は相当、追いつめられていたことを知る者は少ない。実際は薄氷を踏むかの如く今に至っていた。
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テツヒコ・ダイモン
種族 人間
職業 召喚勇者
状態異常 衰弱
LV 35
HP 54/412
MP 78/504
STR 114
VIT 154
AGI 62
DEX 73
INT 192
MND 181
LUC 91
スキルポイント残 0
≪属性適正≫ (S~H、適正なしは「—」)
光 -
月 -
火 C
水 -
風 -
雷 D
土 S
闇 -
≪スキル≫
・完全自動防御壁 LV5
殺傷力のあるものに対し、術者を中心として半径1メートルに魔法障壁を自動で展開する
任意発動可能
発動の都度、MPを消費
※本人談「見よ!俺様の無敵装甲を!」
・土に愛される男
母なる大地より活力を受け取る
地に足がついている際、【HP・MP自動回復】の効果を得る
※本人談「……女にも愛されてぇよ(泣)」
・ザ・グレイト・やせがまん LV4
状態異常に対して抵抗を試みる
戦闘中にHPが「0」になる攻撃を受けた時、HPを「1」残して耐える
各々の成功率はスキルLV×5%
状態異常、HP及びMP減少の程が著しい際、不敵に笑うことができる
※本人談「グレイトゥッ!且つパーフェクトゥッ!な俺様にそんな攻撃は効かねぇよ!」
・イケメンキラー LV5
イケメンに対する攻撃魔法・スキルの威力及びクリティカル率に補正
補正値はスキルLV×5%
※本人談「イケメンには負けられねぇ!」
・顔がイマイチ!
異性からの好感度が上がりにくくなる
外見上に不利なハンデを背負っている分、成長速度にプラス補正
レベルアップに必要な経験値減
※本人談「余計なお世話だ!男は顔じゃねぇ!」
・遅延魔法
魔法を即時発動せずに、特定の条件を満たした際に発動することが可能
例として「HP〇%減少」や「〇秒後」、「特定の場所に触れる」など
装飾品等に効果を付与することも可能
・身体強化 LV5
戦闘中、身体能力が強化される
HP、STR、VIT、AGIにスキルLV×2%の補正
・詠唱短縮
初級魔法及び熟練度の高い魔法の詠唱時間をキャンセルして発動可
中級以上、熟練度の低い魔法については詠唱時間を50%減
・魔法範囲拡大
魔法の効果範囲を任意で広げることが可能
・魔法威力増大 LV5
魔法の威力がスキルLV×5%増
・消費MP減 LV4
魔法及びスキルの消費MPが減少する
減少量はスキルLV×2%
・栽培 LV4
生産職系スキル
植物系の素材を育てることができる
スキルLVが上がる程、高度な素材の栽培が可能
※本人談「俺は……、家はつがねぇ。魔法士になって成り上がってみせる!」
≪魔法≫
・ロックミサイル
土を固めた魔法のミサイルで対象を攻撃する。土属性初級魔法
初級とはいえ術者次第で弾数が増加するため威力は侮れない
・ボルケーノランス
土属性及び火属性複合魔法
マグマの槍で対象を攻撃する
威力、貫通性能ともに申し分がない
・アースクラッシュ
大地を揺るがす土属性及び雷属性複合魔法
粉砕した大地の亀裂後に雷を走らせる範囲魔法
・アースバインド
土の鎖で対象を拘束する土属性捕縛魔法
・アースブラスト
土属性及び火属性複合魔法
二属性の力を大爆発させる範囲魔法
・ヒール
初級回復魔法。部位欠損の修復不可
・キュア
状態異常回復魔法
≪称号≫
・鉄壁
防御系スキル及び魔法の効果UP
・三枚目の星
一般大衆の好感度が上がりやすくなる
・元魔法学園優等生
魔法の取得及び強化に必要なスキルポイントが20%減
・影の努力家
獲得経験値10%増
・農家の長男坊
栽培系生産職スキルにプラス補正
豊作になりやすい
≪装備≫
右手 ブレイブ・アースランス(両手武器)
左手 -
頭 ブレイブ・ゴールドサークレット
体 ブレイブ・ゴールドアーマー
装飾 ナビゲーション・リング
ヒール・ストーン(残り使用可能回数0)
マインドヒール・ストーン(残り使用可能回数0)
マジックアップ・クリスタル(残り使用可能回数0)
リバイブ・クリスタル(残り使用可能回数0)
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キョウマの指摘した鎧の輝きは遅延魔法が発動した証。テツヒコはいざという時のため、回復魔法を仕込んでいたのだ。
(懐の道具も空。鎧も外見は無事だが中身は結構、ガタがきてやがる)
ルール上に問題ないとはいえ、鎧の宝玉以外にもテツヒコは自動発動型の様々な道具を試合に持ち込んでいた。魔力回復、疲労回復、魔法威力増大……と実に様々。それこそ、どこに忍ばせていたのかを疑うほどに。
勇者と煽られ困惑するキョウマをテツヒコは横目に伺う。狼狽える様子に「してやったり」と手応えを覚え、心の中で小さくガッツポーズを浮かべる。
(あのまま続けていたら負けていたのは俺だった。そうなったら、俺の地位と名声は地に落ちるところだった。ほんと、マジで危なかったぜ)
キョウマの攻撃から身を守ってくれた鎧。寂しくなった懐の感触に心中、ホロリと一滴の涙が頬を伝う。
(こっちは道具の補充に装備の修理……。どれだけ金が要るのかわからねぇ。正直、採算合わねぇが……)
再び、キョウマへ視線を移す。試合中のふてぶてしい態度は今も尚、見る影もない。
(俺様の勝ちだな!上手く、やり込めたぜ。ふははははは!)
——ビクッ!——
密かに勝どきを上げるテツヒコの背に不意に冷たい悪寒がよぎった。ゼンマイ仕掛けの人形の如く、ぎこちなく首だけをギギギ、と横に曲げる。
——クスクスクスッ——
(ひぃっ!)
視界に入るは長い黒髪のメイド少女。その右手には魔力を通わせた銃器が光る。
思わず目が合った。口をにたぁっ、と吊り上がるのを目の当たりにする。目を座らせ幽鬼の如きオーラをその背に漂わせ、テツヒコに向けて浮かべる笑み。美少女であることを感じさせぬ形相に小さく悲鳴を上げた反応はある意味正しい。再びギギギ、と首を正面に正して、キョウマに目配せをした。
「あ、アキヅキよぉ。お前の妹、どうにかならねぇのか?」
「ん?」
すっかり疲れ果てたキョウマは気だるそうに返した。見るまでもなくリナの様子を理解しているキョウマは特に視線を向けることなく答える。
「ああ、ムリ」
即答だった。「ああなったら手に負えない」と付け加える。
「おい、そりゃねぇだろうよ」
「リナを怒らせたのは、そっちだろ?ああ見えて結構、根に持つからな。夜道には気を付けた方がいい」
「う、嘘だろ……」
「……冗談だ。あのままだと僕も困るからな。全部終わればフォローは入れる」
「そ、そうか。それは助かる」
心の中で、「き、今日のところは特別に引き分けにしておこう」とテツヒコはゴチた。予期せぬ形でキョウマ達は一矢報いる結果となる。ある意味、リナのファインプレーなのかもしれない。
(まてよ……)
キョウマの言葉に引っかかりを覚え、テツヒコは再びキョウマに問いかける。
「“全部終われば”って、もう終わったじゃないか。なら、今すぐ行ってやれよ。ここはもう、俺様だけでも十分だぜ」
当然の如く「俺様の平穏のために」、と口には出すことはない。それでも表情は心の内を素直に物語っていた。
「断る」
「なっ、何ぃぃぃぃぃっ!?」
またもやキョウマは即答した。キョウマを“重度のシスコン”と評するテツヒコにとって、それは予期せぬ返事。信じられない、が半分、勘弁してくれ、がもう半分。勇者の貫録など微塵も感じさせぬほどに狼狽えた。
「お前、妹が可愛くないのか!?」
「ふっ、愚問だな。超絶、可愛いに決まっている!!」
「お、お前。まっ、まあいいだろう。でも、だったら……」
ドヤ顔の「超絶、可愛い」発言に呆れるテツヒコ。「なぜ」、と言い終わらせずに次なる言葉をキョウマは重ねた。
「まだ、終わってはいない」
「は?終わっていない、ってどういう……」
「すぐにわかる。少し、静かにしていてくれ。奴に気付かれる」
「おっ、おう?」
終わってはいない、と口にしながらもキョウマの表情に緊張の色は感じられない。観客からの声に精神的に疲れ切った顔を依然として浮かべたままだ。先ほどから交わす言葉の内容との不自然さに違和感を覚えたテツヒコは声を上ずらせて答えた。
(アキヅキの言う“奴”って、誰だ?)
指を額に押し当て、一考したテツヒコはこれまでのいきさつへと行き着いた。キョウマと戦うキッカケ——それは……。
(そうだ、姐さん!)
キョウマが敵意を向ける相手の心当たりは他にない。テツヒコは振り返り目的の人物を探す。
(姐さん?どこへ行ったんだ)
つい先ほどまで舞台傍の場外で戦いの行方を見守っていたはず。出会いはつい先日のこと。他の冒険者達とは一線を画す実力に加えて、その美貌。異性との縁に恵まれぬことも重なって、付き合いは短くとも一目を置く以上の存在となっていた。
そのはずなのに……。
今は言い表すことの不安がテツヒコの脳裏によぎる。試合前と後でテツヒコの中で起きたある種の変化。
(アキヅキのことが、どうしても無視できねぇ……)
テツヒコはキョウマのイフリルを見る目を思い出す。とても同じ人間を見ているとは思えない程の異常さ。不安を拭い去るかのように消えたイフリルの姿を求め、視線は辺りをさ迷い続ける。
「来たか……」
「?」
微かなキョウマの呟き。唇を僅かに動かしただけにすぎないはずの声を奇跡的にもテツヒコは聞き逃さなかった。それだけ、全神経を集中させて見えぬ探し人を求めていたのかもしれない。
「リナ……」
続く声に従い振り向くテツヒコ。視線の先に映るは想像していた望まぬ光景。
「姐さん!!」
大鎌を振りかざし、か細い少女を切り裂かんと迫る姐さんがテツヒコの目に焼き付いた。
お読みいただきありがとうございます。
作中、語れませんでしたがテツヒコがレベルの割にキョウマ達よりステータスが低い理由は以下の通りです。
一つは、キョウマ達がステータス重視に対してテツヒコはスキル重視のため。
もう一つは、キョウマ達は異世界に来た際に種族が“転生人”になっていますが、テツヒコは“人間”のままだからです。
ちなみにこの世界で他の冒険者のステータスを解析で見ることは禁じられています。そのため、キョウマ達は自分達と他の冒険者達との違いに気付けていない面があります。
それでは次話もまたお楽しみいただければ幸いです。少し、はっちゃける予定なので好き好きが分かれるかもしれませんが、ご容赦の程お願いします。




