第14話 やっぱり僕らは運がない~始動!リナのキョウマ改造計画!
おまけ、あります。
一時間程歩いたところで辺りに木々は見えなくなった。街道沿い一面は緑一色で染まって見晴らしがいい。既に随分歩いた。戦闘もこなしている。
グゥー!
お腹が空くのも無理はない。腹の虫は食べ物を求め催促を上げる。
「腹……、減ったな」
お腹をさすり情けない声を上げるキョウマにリナはクスリと微笑む。
「わたしも」
キョウマの訴えに続きリナはナビゲーション・リングの収納空間に右手を入れゴソゴソと探る。何かを見つけたのだろう。「これこれ~♪」と呟き引き抜いた。
「じゃ~ん!お弁当だよ」
「お~、流石!ありがとう、助かるよ」
「これでも一応、“職業、サポートメイド”ですから」
えっへん、と胸を張るリナにキョウマは両手を合わせて拝んだ。
取り出すは出来立てのエッグサンド。シャキシャキのレタスに新鮮なタマゴを加えたリナお手製。時間を止めて保存が可能な収納空間に感謝の言葉が尽きない。
キョウマは涎を抑えるのがやっとだ。手渡された瞬間、かぶりつきそうになる。そんなキョウマを「だ~め、言うことがあるでしょ」と窘めた。合点がいったキョウマは姿勢を正す。
「「いただきます!」」
早速、キョウマは口に運び咀嚼する。新鮮な野菜と卵がおりなすハーモニーに舌鼓を打つ。
あっという間に食べつくすキョウマにリナは頬を綻ばせた。「もう一つど~ぞ」とキョウマの口元に運ぶ。
俗に言う「はい、あ~ん」……。
キョウマは何事もないように受け入れる。「ありがとう。美味しいよ」と言いのけるサマは“バカップル”そのものであった。
——“リア充爆発しろ”——
見た者全てがそう口にするだろう。正に「さっさとくっついちまえ。鈍感兄妹」である。
「「ごちそうさまでした」」
二人だけの時間はようやく終わる。腕を伸ばして背伸びしたところでキョウマに異変が起こった。
「あれ?何か僕……、光ってない?」
キョウマの体はうっすらと白い光に包まれていた。体を捻り、あちこち見回すが特に異常は感じられない。
「おかしなところは特にない……みたいだ。攻撃されているわけでもないな」
「う~ん……【解析】でも特に異常ないみたいだよ」
白い光に害はなく、むしろ温かく心地よい。そうこうしている間に光は消え去った。
「まっ、いっか」
「……兄さんらしいね」
思考をやめたキョウマにリナはジト目を向けた。
「先……、行こ」
「ああ、腹もふくれたしな!」
「そだね……」
すっかり忘れたキョウマにリナは呆れ、遠い目をして明後日の方向を向く。キョウマは「?」を浮かべて首を傾けていた。
…………
「ねえ!何か見えてきたよ!」
最初に気が付いたのはリナだった。キョウマの腕の中でリナは言う。道草した分、取り返すためキョウマは【アクセル・ウイング】を使用した。
お姫様抱っこに慣れたリナの表情に恥じらいはない。一方、キョウマは頬を赤らめている。その手に伝わる心地よい感触とリナの黒髪から漂う香りが原因だ。前方に気が付かなかったのも無理はない。
「町……なんだよな?あれ……」
「そのはずなんだけど……」
遠くに目を凝らすと木で作られた柵が見えた。エスリアースの堅牢な城壁から比べれば遥かに劣る。——が、人が作ったものには間違いない。奥には建物らしきものも伺えた。
「なんだかボロボロじゃないか?」
木の柵は所々が破損し隙間が伺える。屋根のない建物も見えた。
「もう少し近くまで行こうか」
「そうだね」
町はもう、すぐ近く。ここまで来て引き返すわけにも行かない。二人は頷き合い歩を進めた。
…………
「廃墟……だね」
「廃墟……だな」
目的地には着いた。到着して二人は茫然と立ち尽くす。
町を守る柵には打ち破られた形跡がある。よく見ると焦げ跡もあった。「まさか、魔法で……?」とリナは呟く。
家屋にしても同様だ。そのほとんどが倒壊し住居として機能しているものはない。
「見て、兄さん!あそこに煙!」
「廃墟になったのは……ここ最近?」
家屋から立ち上る煙にリナが気付いた。その視線の先にキョウマも追う。
「リナ、こっちに隠れて。何かいる」
不穏な気配を察知したキョウマはリナの手を取った。コクリと頷き後を追う。二人は物陰に隠れて辺りを伺った。遠くの角からそれは姿を現した。
「魔物がいるな……」
不格好な鎧に身を包み二足歩行で歩くニメートル大の巨躯をキョウマは見つける。魔物と判断した理由はその大きな体だけではない。頭部が人と明らかに異なっていたからだ。豚の顔をしてブヒブヒと鼻を鳴らしている。
「オーク……」
リナが魔物の種族を呟いた。解析結果が浮かぶ。
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オーク
LV 7
HP 87
MP 12
STR 18
VIT 17
AGI 7
DEX 11
INT 3
MND 2
LUC 1
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(ゴブリンリーダーのパワー系といったところか……)
キョウマは目で「どうする?」とリナに問いかける。嫌悪感を抱いているリナの表情をキョウマは見逃さなかった。この場所で宿をとれない以上、“逃げる”選択肢もある。
「まだ人がどこかにいるかも……」
頭を振ってリナはキョウマに答えた。キョウマ苦笑して木刀を収納空間から取り出す。
「わかったよ、リナ。僕から離れないで」
コクリと首を縦に振るのを合図に二人は物陰から飛び出した。「こういうのはガラじゃない」とぼやくキョウマに「向いているんじゃない?こういう“変身ヒーロー”、っぽいこと」とリナは重ねる。クスリと笑うリナに「そうかもな」とキョウマは返した。
「サンダーショット!」
“てっぽう”を構え雷を帯びた弾丸を撃ち込むリナ。ガンマン顔負けの早撃ちにキョウマは舌を巻く。
「負けてられないな」
雷のショックに痺れ悶絶するオーク。キョウマは蒼の斬撃を水平に滑らせる。豚の頭が胴体から切り離されボトリと落ちた。
「まだいたか!」
オークは一体だけではなかった。異変に気付いた二匹が迫りくる。首をなくした同胞に気付いたのだろう。目は血走り大きく見開いた。ブヒブヒと巨体を揺らし左右から鉄の剣を振り下ろす。
斬るよりも叩き潰すことを前提にした武骨な大剣——常人であればその一振りで潰されることは間違いない。左右同時に繰り出された一撃を前にして、キョウマは口端を吊り上げ不敵に笑う。
「この程度か?」
二体のオークに焦りが生じる。ギリギリとその太い腕に力を込めるが一方に動かない。
キョウマは二体がかりの全力攻撃を木刀一つで易々と受け止めていた。
片手一本で。
「終わりだ」
最後通告と同時に木刀の蒼き光は輝きを増す。キョウマはそのまま受け止めていた腕を振り抜いた。武骨な大剣はバターのように斬り捨てられる。その異常な光景にオークも後ろへ一歩下がった。逃すまいと懐へと飛び込む。
「蒼葉光刃心月流、旋風蒼葉斬!」
自らの体を独楽の如く旋回——蒼き斬撃が弧を描きオークの胴を二体同時に分断する。キョウマの繰り出す剣が円を描いた。蒼き木の葉は吹き荒れ、舞い散る。その葉の一枚一枚が鋭利な刃物と化し巨体を切り刻んだ。
回転を止め木刀を振り払う。躯は霧散し核となる魔石のみが残った。
「兄さん!また光ってる!」
「これは……あの時と同じ光?」
リナの声に気が付きキョウマは自分の体を見回した。白い光に包まれ心地いい。リナの弁当を食べた後に感じた温かさを秘めている。両の手を開き交互に一瞥する。
「力が……湧き上がる?」
左右の手を軽く握りまた開く。体の芯から溢れる活力に目を見開く。
「兄さん!レベルが一つ上がってるよ!?」
「ほっ、本当か!うぉっしゃっぁー!」
(今ならきっと……)
「ついに僕の時代が来たーっ!」とばかりにガッツポーズを取るキョウマをスルーして、リナはナビゲーション・リングを起動させる。浮かれるキョウマは全く気付かない。宙に浮かんだキーボードをカタカタ叩くリナの目はさながら「フフフ……これで」と笑っているよう。その背には小悪魔の羽がパタパタしていた。
「はい!できた♪」
「へっ?……って、なんで……」
楽し気な声に合わせ、ポチッと黒リナが【確定キー】を押す。ようやく気付いたキョウマは間抜けな声を残して膝をついた。激しい脱力感に眩暈を覚える。
「ちょっと、大丈夫!?」
「う~ん、まあ。少し休めば何とか」
二人は物陰へと移動する。リナの肩を借りて歩くキョウマの顔色は青ざめていた。魔物がまだいるかもしれない以上、身を隠さなければならない。
崩れた廃屋の隣に休めそうな小屋を見つける。家畜がいない代わりに干し草は残されていた。クッション替わりにと二人は腰かける。
「それで?僕に何をしたんだ?」
「ナンノコトカナ」
片言のリナに息を切らせながらもジト目で睨むキョウマ。
「まあ、いいや。レベルの上がった僕のステータス、見せてくれないか?」
「今?」
「今」
「う~っ……、わかった」
キョウマの視線に耐え兼ねてリナは指輪を起動させる。映し出されたステータスを二人で覗き込む。
(うん?新しく取得したスキルがある?新スキルのみ詳細を表示しよう)
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キョウマ・アキヅキ
種族 転生人
職業 竜魂剣士
LV 2
HP 300
MP 128
STR 157
VIT 138
AGI 157
DEX 138
INT 39
MND 56
LUC 301(スキルポイント100消費によりプラス300)
スキルポイント残 507
≪スキル≫
・蒼葉光刃心月流 LV10
・逆鱗
・狂乱
・竜技
・ヒーロー見参! NEW!
可愛い女の子、ついでに子供のピンチに駆け付ける。好感度の高い女の子の場合、転移して駆けつけることが可能。
・ウォーターコール NEW!(スキルポイント 10消費して取得)
何もないところでも水を出す生活スキル
・キュアウォーター NEW!(スキルポイント 10消費して取得)
汚れた水を浄化する生活スキル。
・クリーン NEW!(スキルポイント 10消費して取得)
衣服と体の汚れを落とす生活スキル。
≪魔法≫
・アクセル・ウイング
≪称号≫
・むっつり???
・天井知らずの限界突破者
・白銀の星竜
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(LUCが一気に上がっている!それにしても……)
ジト目の視線にリナは目を合わせようとしない。キョウマは溜息を一つつく。
「僕のスキルポイントがごっそり減っている。前にリナが言っていた“考え”ってこのこと?」
「そっ、たくさんあったからLUCに使ったの」
「だったら他のステータスはどうしてあげなかったんだ?」
スキルポイント「1」につきステータスは「3」上げられる。残っているスキルポイントを他のステータスに注げば今後の戦闘が有利になる。キョウマの疑問はもっともだ。
「えっと……ね。一度に使えるスキルポイントには限界があるの。レベルアップの時にしか使えないみたいだから他は今度……かな?」
どこか歯切れが悪い。訝しむキョウマの視線に再びリナは目を逸らした。
「まさか……、限界を超えて使ったとか?そのせいで僕の体調が悪くなった、なんてことは……」
「うっ!……ごめんなさい」
あっさりと白状した。
「ようやく辿り着いた町も廃墟になっていたんだよ。早く運を上げないと兄さんが歩くたびに町が滅ぶかもしれないんだよ」
上目遣いで「それでもいいの?」と訴える視線に膝をつきかけるキョウマ。負けられないキョウマはジト目を貫く。
「なら、この【生活スキル】は必要だったのか?」
「便利でしょ」
「ウォーターコール……」
指先からピューッ、と水が出る。
「水に困らないね!兄さんがいれば水道いらずだね!」
「キュアウォーター……」
床に零れた【ウォーターコール】の水が澄んだ色をする。
「安心して水が飲めるね。さしずめ人間浄水器?」
「クリーン……」
二人の衣服から汚れが落ちる。まとわりつく汗もすっきりしていた。
「さっぱりしたよ、ありがとう兄さん。まるで乾燥洗濯機みたい」
「リ~ナ~。ちょっとヒドいぞ」
「う~っ……【ヒーロー見参!】よりマシじゃない。あれ可愛い女の子にしか効果ないじゃない。兄さんのエッチ!子供は“ついで”って、ヒドすぎ!」
「逆切れかよ!」
「じゃ~、それな~に?」
リナの指さす方向——キョウマの前髪の一部がクイクイッ、と矢印を作っていた。「早速、可愛い女の子、見つけたんだ」とリナは不機嫌な声を漏らしそっぽを向く。
「何か無性にあっちの方に行きたくなってきた。」
キョウマの体調もすっかり元の調子を取り戻した。ご機嫌斜めなリナの手をとり矢印の方向を一瞥する。
新たに発現した“ヒーローアンテナ?”に導かれるまま二人は外へと飛び出していった。
~おまけ~
時間は少し遡り、町へと向かって移動中のこと。
アクセル・ウイングを使って移動する際、リナはキョウマの腕の中——いわゆる、“お姫様抱っこ”されている。背には光の翼があるため“おんぶ”はできないのだった。
(兄さん……、気付いていないよね……)
リナが少し見上げるとキョウマの顔がすぐ近くにあった。目が合い「どうかしたのか?」とキョウマが尋ねると「何でもな~い」とリナが舌を出す。
(【指輪待機】のスキルでわたしが指輪の中に入れば“お姫様抱っこ”、しなくて済むのに……。でもせめて、兄さんが気付くまではこのまま……)
一方のキョウマは、というと。
(まさかリナにバレたりしていないよな。【指輪待機】を使えばお姫様抱っこ、しなくて済むって……。けど、言われるまではこのままでいよう。好きな子をお姫様抱っこするのは男の夢ってのもあるけど……。やっぱり、リナを指輪の中にずっと閉じ込めておくなんて出来ないからな)
翼から溢れる光の粒子が風に乗り舞っていく。まるで二人を優しく見守るようでもあった。
お読みいただきありがとうございます。
次回から主人公、キョウマ視点となります。




