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ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です  作者: 山口三


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26 二人の会話


 ジーナは俺とクレアを二人きりにするために、早々にランチを切り上げクリストファーを連れ立って食堂を出た。


「ジーナは私とアロイス、あなたを二人きりにさせたかったみたいね」

「あ、ああ」


「企みがバレバレだわ。でも、とてもチャーミングよね、彼女」

「そう、かもな」


 クレアは何もかも見透かしたような眼をして俺に笑いかけた。決まりの悪い思いがよぎるのは、図星を付かれているからなのか。


「クレアはその、どうなんだ? ジェリコとは」

「殿下には求婚されました」


 目を伏せながら静かにクレアは言った。その仕草からは嬉しいのか、そうでないのか、感情が読み取れない。


「そうか…でも最近のジェリコは評判が悪いだろう? 繕っていた体裁が崩れて、みんなジェリコが本当はどういう奴か知り始めてる。クレアも気付いているんじゃないのか」


「・・・殿下は根っからの悪人ではないと思うの。私が傍でお支えして差し上げたら、彼も変わるのではないかと。そんなのは私の思い上がりかしら?」


「いや、いい方に変わるなら、それに越したことはないよ。クレアならそれが出来ると思う」


 クレアがジェリコを選ぶなら、俺が人間に戻れる可能性は極めて低くなる。そうなれば次の国王はジェリコだ。ジェリコにはしっかりしてもらわなければ。クレアには謎めいたところがあるし、先日の不可解な行動の事も気になるが、ふたを開けてみれば取るに足りない事だったのかもしれない。


「私が殿下と婚約したらジーナは残念に思うかしら」


 なぜジーナが? ジーナはとっくにジェリコの事は吹っ切ってる。いつも四人で食事をしていたのだから、ジーナの様子を見ればレニーの事が好きだと気付いているはずだ。俺とクレアの仲を、ジーナが取り持とうとしている事を言っているのか。なら・・・


「残念なのは、まず俺じゃないか?」


「アロイスはそう思わないでしょう? ジーナは誤解している様だけど、あなたが好意を抱いている相手は私ではないんだから」


 俺が息をのむ様子を見て、クレアはまた「ふふっ」と笑みを漏らした。俺は年齢を偽ってこのクラスに編入したが、クレアはジーナやジェリコと同い年のはずだ。だが、その笑みはやけに大人びていた。


 確かにクレアの言う通りだ。


 クレアとの結婚を望んでアカデミーに入り、初めて彼女の姿を見た時はその清楚な美しさに目を奪われた。気持ちも後から付いて来ると思っていた。そうして結ばれたあかつきには、仲睦まじく暮らして、ついには呪いが浄化されて人間に戻れる日が来るという期待を抱いた。


 でも俺の気持ちはいつの間にか違う方向へ動いてしまった。恋とは思惑通りになんていかないものだと思い知った。俺の感情の天秤は、人間に戻る事よりジーナを想う気持ちの方へ傾いたのだ。





 俺はスターク伯爵の次男という肩書でアカデミーに編入しているが、もちろん実際は違う。そして住まいも変わらず王城の離宮で、ヴィンセントと暮らしている。


「おかえりなさい、殿下」


 ヴィンセントがダイニングルームの扉を開けると、肉の焼ける香ばしい匂いが漂って来た。


「アロイスでいいって言っただろ。アカデミーでも殿下なんて呼んでしまったら大変だぞ」


「そうですね。それより食事がもうすぐ出来上がりますます。その鬱陶しい前髪も結って、着替えてきて下さい」


 俺の話はさらっと流して、ヴィンセントはまたダイニングルームに消えた。


 ヴィンセントは俺の警護の為にアカデミーで教鞭をとることになった。だが教職をこなしながらここでの生活のあれこれを一手に担うのは、流石に負担が大きすぎるのではないだろうか。


 夕食を共にしながらその事を話すと、ヴィンセントは問題ないと笑った。


「食事のほとんどは王城で作ってもらっていますし、掃除は使っている部屋しかしてませんから」


「それならいいが…」


「それよりジェリコ殿下とクレア様の婚約が近いうちに整うそうです。」


 ヴィンセントはそう言いながら俺の顔をじっと見ている。これを聞いた俺の表情から気持ちを読み取ろうとしているのだろうか。


「そうか、俺もクレアから求婚の話は聞いたよ」

「アロイス様…私もとても残念に思います」


「仕方ないさ、クレアはジェリコを支えたいと思ってくれているようだった。それはいい事じゃないか。ただ気になるのは、フェダック家の次男が転入してきた事だな。ジェリコとの婚約が決まりそうなこの時期に来たのは何かあるのか」


「何とも言えませんね。フェダック様の転入はかなり急な話だったようです」


 本当なら狩猟大会の後は帰国する予定だったはず。何がクリストファーの気持ちを変化させた? 


 ヴィンセントはワインを口に含み、少し考えてからまた話し始めた。


「現在、シュタイアータの皇王は体調が優れないと聞いていますが、実際はかなり重い病に伏せっておられるようです。昨年、後継者の長男が二十二歳の若さで逝去されたのが、精神的に堪えたのではないかと言われていますね」


「でももう一人男子が…ああ、確かまだ七つか八つだったか」


「そうです。それで皇王陛下亡き後、次男の後見人争いが、既に熾烈な状態だともっぱらの噂で…」


「クリストファーの父は大公だから、後見人候補の一人か」


「フェダック大公は皇王陛下の弟君。もう一人の有力候補者は、次男の母親の実家であるアテート公爵家ですね」


「シュタイアータの皇子も、俺とジェリコのように母親違いの兄弟だからな。なるほど…そこら辺が絡んでいそうだ」


 クリストファーはクレアがこの国の王族と婚姻する事を嗅ぎつけて、クレアがフェダック大公側なのかアテート公爵側なのかを探りに来たのかもしれない。何せ、クレアが味方に付いた側にこの国の後ろ盾が得られることになるのだから。


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