79話: Hobby
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「あの! ヨリは……私のだから!!」
チーナの大きな声が響いた直後、つかの間の沈黙。
俺を囲っていた連中は皆一様に口をぽかんと開けて呆けている。
そして一瞬の後、自分が何をしでかしたか理解したチーナが、口を△にして慌て始めた。
「あ、えっと、”私の”っていうのは、ちがくて、その、私の恋人とか、そういう、いみで……」
うん、わかるよ。別に自分の所有物だと主張してるわけじゃない、ということを言いたいんだろ?
でも、そうだな。
今のは、矢面に立たされた俺を助けるというよりはむしろ……嫉妬、だったような気がする。
可愛いかよ。
俺とチーナは付き合っていることを隠しているが、別に知られてまずいという絶対な理由はないのだ。
ただ騒がれるのが面倒だっただけ。
だが、まさかチーナから公開するとは思わなかった。
であれば俺が、ねちねちと隠しておくのは違うだろう。
「ごめんごめん、驚かせて。彼女がいろいろ突っ走っちゃったみたいでさ」
俺はチーナの両肩に手を置いて、にこやかに宣言した。
「まあ聞いての通り俺ら実は付き合ってるから、そこんとこよろしく」
それを聞いた皆の反応は、非常にまちまちであった。
「いや、まあ、そうだろうな」
『なんだ、脈なしかぁ……』
「そんなことはどうでもいから、お、俺も基地の中に……」
「はいはい。もういいから、みんな名刺交換しようぜ。あと、俺は司令官の息子だけど、特に何の権限も権力もないからいろいろあきらめてくれ」
そこまで言ってようやく、「それもそうだな」っと皆がばらけ始めた。
なんということでしょう、収集がつかないと思われた会場に、落ち着きが取り戻されました。
やれやれ、俺の対集団スキルが火を噴いたみたいだな。
『ヨリ、ごめん。勝手に話しちゃって』
チーナもクールダウンしたようで、申し訳なさそうに……でもないか。
「反省はしている、後悔はしていない」というような雰囲気で謝ってきた。
『別にいいよ。なんだかあれだな、お前が転入してきたときみたいだったな』
『立場は逆だけどね』
チーナが日本に来た直後は、彼女が囲まれる立場だった。
その渦中に何度飛び込んでいったことか。
『にしても、チーナが嫉妬であんなことするなんて思わなかったなあ。ははっ』
『べ、べつにそんなんじゃないんだからね』
『……俺ツンデレ嫌いなんだよね』
『べつに嫉妬したんだからね』
ちなみにこの世界には、ツンデレ、巨乳、メガネっ子、ツインテール、不思議ちゃん、年上、褐色、中二病すべてNGという針の穴ストライクゾーンな人間もいると聞いたことがある。
我儘なやつめ。
『っと、さすがに俺たちも交流しないとまずいな。あんなに絡まれたのに、名刺一枚も交換してねえぞ』
『確かに』
『んじゃ、また後でな』
『はーい、二年後に会おう』
そう言ってチーナと別れ、本来の趣旨である異文化交流に合流する。
各々が用意した手製の名刺には、本来のビジネスシーンで必要な連絡先や住所の代わりに、出身地や趣味などを記入している。
名刺交換の後、多少雑談が発展するようにという手助けだ。
ちなみに、俺は趣味の欄には「食事・トレーニング」と書いておいた。
『君、ボディビルダー?』
これが交換後の相手の反応。
うん、確かに。
ビルダーが丸太のような腕で料理をしている動画をよく見かけるきがする。
作る料理はタンパク質極振りなわけだけども。
『いや、別に食事はふつうだよ。どちらかといえばカロリー優先』
『そっか……。君も筋肉と会話できる人かと思ったのに……』
『ああ、マルチリンガルだしな……ってやかましいわ』
『ははっ。案外ノリがいいんだね』
などと他愛ない会話で何人かと交流していく。
周りを見ると、皆えっちらおっちらどもりながら、たどたどしい会話を繰り広げている。
「好きな食べ物は、キスの天ぷらです」
「Really!? ヒトのリップを、た……べルの!?」
「ちがくて……。えっと、キスイズフード!」
「ヴァンパイア!?」
中には、コミュニケーションが覇道を進んでいるペアも。
まあ、慣れていないとこんなものだろう。
あ、誰かの名刺落ちてる。
name:Soji Shimizu
from:Japan
hobbby:Philosophy
お前……哲学ってなんやねん。百歩譲って人間観察だろ。千歩譲っても倫理。
オブラートに包まれすぎて哲学さん息してねえよ。
趣味が哲学とか抜かす奴を、俺は生涯信じないと誓う。
『ヨリ~、それ誰の名刺……って、うわ』
『チーナですらこの反応』
二年後、再会したチーナは、たった二文字で持ち主の本性を見抜いた。
気付けば、もう20分ほど経っている。
そろそろ名刺交換も折り返し時間だ。
『どうだ? 交換できたか?』
『うん。もうなくなったよ。ヨリは?』
『俺はあと二枚』
『ならちょうどよかった』
そう言ってチーナは、おもむろにポケットから名刺を取り出した。
あれ、もう無くなったって話じゃなかったのか?
『これ、最後の1枚。ヨリと交換しようと思って取っといたんだ』
『ああ、なるほど。同じ学校同士で交換するのか?』
『異文化交流って言うなら、私たち異文化の塊だと思わない?』
『確かに……』
よくよく考えれば、俺たちってかなり国際的なカップルになるわけだ。
一応2人ともアメリカ人……にはなるのだが。
『じゃ、せっかくだから交換しとくか。こっそりな』
そう言って、俺の名刺を1枚差し出そうとする。
だがチーナは、『その前に……』っといたずらっぽい笑みを浮かべてながら、それを押し返した。
『どうした?』
『私の趣味、当てられたらあげる』
『いたずら』
『はい、どうぞ』
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m(_ _)m




