自由交易都市に風は吹く~野望の風は凪いできて~
「ねぇ、起きて」
「……誰?」
「今は内緒、でもここでしか私たちは会えないの」
「なんで?」
「どーしても」
「まだ熱は残ってます。これ以上こじらせることのないようお願いしますシルフ様」
「わかってる」
やってきたのは練習場、退屈をこじらせたシルフ様にまた逃亡されないよう、ガス抜きのために来た。
やってることといえば、自分の魔力の制御である。
「風よ!」
と短い詠唱すら、彼には制御できない。
「僕はこんな簡単な魔法すら、つかえないほどよわくなってしまったのか?」
「いいえ、使えないのではなく制御できないだけですわ」
「そう言うがな、エアリス。僕は台風ごときなら十や二十簡単に制御できたのだ。それがどうだ。こんな渦巻きみたいな小さな風さえ制御できない。弱くなったと思っても仕方ないだろう!」
彼は、自分の右腕とも言うべき存在にいらだちをぶつける。しかし、
「制御できなくて当たり前なのです。あなたは、自分の使う風をひとりで制御していたと考えていらっしゃるのですか?それは大きな間違いです」
「ならば誰が制御しているというのだ?」
「あなた以外の上位から中位の風精霊およそ五十名です」
「多いな、私の力はそれほど制御しづらいのか?」
「風そのものである私たちから見ても、あなた様の操る風は大雑把過ぎるのです」
「それほどか」
「はい、そのため被害が出ないよう制御する人員が四十名です」
「とすると今手伝えないのは、この娘に憑依しているからか?」
「そうです。魔力の色と言えばいいのでしょうか、その色がついてしまっているのです」
「そのため皆は手伝えないと、そういうことか」
一息つきながら、大きく背伸びをすると、
「すまん、この体でどこまでできるかやってみたい。このわがままについてきてくれるか?」
「わかりました、やはりあなた様は優しいです」
疑問符を浮かべる彼を見て微笑む部下だった。
sidechangetoチーム【ツキアケ】
「よどみの方は?」
「ダメっぽい。全然散ってない。まだここに澱んでる」
「そっか、ただの自由じゃダメみたいだね」
「一応錬金術でどうにかしてはみたんですが…」
「効果のほどは、…出てないか」
ため息をつく三人、しかし立ち止まってはいられない。
「とにかくよどみに関しては、眠り姫の目覚めを待とう」
「それ以外は、私たちの仕事ですね」
「本当なら千年も前の亡霊だしね」
マイカがつぶやく。
つぶやいた言葉は、空に溶けて消えた。
「とにかく、こんなめんどくさいことに引き込んでくれたバカの顔は、眠り姫が目覚めたら見に行きましょう。それまでは、あのおぼっちゃまの護衛とチーム【バシリスク】の依頼者が誰で何が目的なのかの調査この二つかな」
マイカの言葉にふたりは頷く。
そのまま眠り姫が目覚める三日後まで彼女たちの水面下の暗躍は続いた。
「だから、あなたに私のすべてを引き継いでもらわないといけないの」
「回りくどいね」
「よく言われる」
「私があなたを引き継ぐことに何の問題もないよ」
「本当?」
「私は、あなたなんでしょ?」
「でも私ではない。そう言ったよ」
「それでもいいの」
自由交易都市編第一部クライマックス間近となります。
11/16日更新となります




