自由交易都市に風は吹く~囚われの風が自由を得るとき~
「やはり、お考えは変わらないのですか」
「はい。このやり方を何度も続けることがこの国のためとは思えません」
「残念です。次の契約者はもっと私側から出しましょう」
「契約できるかどうかはわかりませんが、あなたの側の人間が少なくとも自由であることはないでしょう」
「本当に残念だ」
「………様!あやつ、緑天石を持っておりません!!」
「なに?!本当かそれは!」
「はい、何度も遺体を調べ腸を裂いて調べましたがどこにも」
「ちっ、急いであの石の行方を探れ!!」
「ハッ!!」
「…女狐め。謀りおったな」
熱を出して風邪をひいた次の日のこと。
まだ熱は下がらず、ベットの上から抜け出すのも辛かったのだが、急な来客に対応せねばならなくなり。
めちゃくちゃ重い体を引きずり、いつもなら壊してしまわないようにゆっくりと開けていたドアがまるで純金製の扉でも押しているかのような重さとなりやっとのことで開けると。
「これを魔女様から貴方にと」
神官みたいな格好をした青年が渡してきたのは、エメラルドのように深緑に輝く宝石だった。
そんなものを渡されても、と考えながら右手で取ろうとした。
『?』
その宝石は小さく動いた、まるで逃げるように。
青年は気づかないままに行ってしまったが、なにか怪しいと思い。
もらった宝石を床に置き今度は、右手の甲を近づける。正確にはそこに埋め込まれている蒼天石を近づける。
今度ははっきりと逃げた。
『イミテーションジュエル』
れっきとした魔法生物である。気がつかずにつけてしまえば、その人は死ぬまで宝石に操られるという殺したい相手にしか使われないほど凶悪な代物だ。
作り方自体は楽だがコストが果てしなく必要になる。
作成成功確率5%未満であり、作ることができるといえ、ひとつにつき一人ではあまりにも効率が悪い。
これを識別するためには、精霊と契約した星石か天石が必要になる。
このように近づけると逃げるのだ。
『……黄狼』
私の影の中から現れた。
『これと緑天石の交換、できる?』
そんな簡単なことかと言わんばかりに頷くと袋を持ってきてくれた。
袋にそれを入れて、彼は影の中に消えた。
私はどてらを着たまま、ベットに倒れ込み、もそもそと布団の中に入った。
そしてそのまま寝た。
私の記憶はここから三日ほど飛んでいる。
その間に起きたことは私は知らない。
sidechangetoチーム【ツキアケ】
それは残りのメンバー三人が、喫茶店で飲み物を飲んでいた時だった。
「ん、そうかありがとう」
そう言って、リップルにつけていた精霊から情報をもらったマイカはため息をついた。
「あのバカ、えらいもんに憑依されてる」
二人に目配せする。
「シルフですか」
「ああ、全く渦中に放り込まないようにしていたのに誰だ。あのバカに緑天石なんぞ-」
ひと吠えしたのは黄狼だった。
「あなたでしたか。それで、こんな真似をした理由は?」
リリアが聞くが暖簾に腕押しだ。
黄狼は人の言葉理解できても話せない。
それゆえどう伝えようかと困惑している。
「とにかく宿の方へ行きましょう。詳しいことはそれからでも遅くないでしょう」
リリアをなだめながら、黄狼にリップルの護衛をお願いしつつ。
彼女たちは、宿の方へ急いだ。
着いたとき彼女たちが見たのは、
「離せ!僕を縛るな!僕は風の精霊シルフだぞ!」
お世辞にも体調が回復してるとは見えないリップルが窓から外へ行こうとしているのと、それをを必死で止めようとしている黄狼だった。
「何をしているんですか。シルフともあろうお方が今の現状もわからずに」
突然後ろから声をかけられて、一瞬痙攣したかのような反応をしたあと
「お、追手か?私は捕まらんぞ『風よ渦巻け』ぇ」
風の初級魔法を唱えたつもりなのだろう。
しかし、その風は彼の予想以上のものとなる前に黄狼によってキャンセルされた。
「な、なんじゃ?これはわしの知る風と違うぞ?」
「一旦落ち着いてください。その子の体は特別製なんです。それにその子は体調を崩しています。下手するとこの国どころかこの辺り一帯が更地になってもおかしくないんです」
「僕はそれでも構わない。僕は自由だ。自由を縛るこの地の人間なんぞみんな-」
シルフを叩いたのは、ニーナだった。
「すいません、黙っていられませんでした。」
「何を「あなたがもし、この憑依を成功させていなければ消えていたのはあなたの方です」言ってるんだ?」
「あなたが制御できない魔力を持っているんです。取り込まれて消えて無くなってもおかしくなかった」
「…ならば、僕が自由でいるためにはどうすればいいのだ」
「今は自由でないことに耐えてください。その子は今寝込んでいなければならないほどひどい風邪だったのです。そうでなければあなたに支配されるほどの憑依は成し得ないでしょう」
「いつまで耐えればいいのだ。私は気が短いぞ」
いかにも怒っているという風を出したかったであろうシルフだが、憑依しているのは小柄を通り越して子供のような小ささのエルフである。
怒り顔はむくれている様にしか見えず、微笑ましい反抗くらいにしか見受けられないのである。
そんなことなどつゆとも知らない、彼にしてみればなにゆえ笑われたのか分からずに怒り続けるのだった。
かくて自由を得た風が真なる自由を得るのは、もうしばらくのちの話となった。
「これで約束は果たしましたよ。魔女様、石は確かにあの娘に。しかしシルフと契約し、この都市を牛耳るのはこの…なっ、これは?!待て、やめろ。なぜだ?!なぜこれがここにある?!まさか、私すら信じてなかったというおつもりですか!くそっ、あの小娘がーーー!!」
即登場の即退場です、あわれ。




