563話:ご対面3
ヴラディル先生に呼ばれて、入学前の面談に同席することになった。
しかもこの面談は、ルキウサリアの王城からも打診があったんだとか。
「あ、それ。もしかしたら僕がソーに聞いたからかもしれません」
「あぁ、チトス連邦のほうから遅れて連絡来たのかと思ってたが、そっちか」
「ソーの様子から、調べてそれらしい王族はいるくらいの回答でしたけど」
ヴラディル先生が聞いたところでは、大使館側も把握しておらず王城も詳しいことを把握しておくべきだと面談を推奨したんだとか。
それを聞いてエフィが小さくため息を吐く。
「本当に何も関係ないのは俺だけか」
「待て、自分も同郷なだけで関係はない」
ウー・ヤーが訂正するけど、関係のあるなしなんて意味はない。
逃がす気のないヴラディル先生によって、僕たちは面接用に部屋を整えてる最中だ。
「主眼は海人の双子。身元を本人たちから確かめるのと、卒業後に帰るかどうかとか、在学中に問題ないかとか聞きたい。で、ウォレンシウム王族やクラウディオンって自治都市の貴族は目くらましだな」
一人というか、ひと組だけ呼ぶと警戒されるからってことらしい。
僕としては、ウォレンシウム王族には、ルキウサリアの指示、クラウディオンからの人には皇帝である父からの指示があるなじゃないかと疑ってる。
そこら辺を直接確かめられるなら、悪い話ではない。
ただ学園的にいいのかな?
僕たちただの学生だ。
前世の学校よりも各自の事情に合わせた通学もできるし、自由なところというか、学生の自主性を重んじるにしても、入学前の面談を学生に手伝わせるって。
錬金術科がそれだけ人手不足と言われたらそれまでだけど。
「ところで、ネクロン先生は何処ですか?」
エフィが学生よりもこの場にいるべき相手を捜すと、ヴラディル先生が苦笑いする。
「関わるだに面倒そうだと言って、な…………逃げた」
「なんというか、王侯貴族を嫌うところがあるとは思っていたが」
はっきり逃げたと言われて、ウー・ヤーも呆れる。
嫌うって言うのも、王侯貴族御用達のラクス城校で、講師してるのに変な話だけど。
よほどタイミングと給料、待遇が良かったんだろう。
なんて思えるくらいには、ネクロン先生の現金さを僕も感じてる。
そんなことを話しながら部屋を用意して、すでに待たせてある合格者を呼ぶ段になった。
「僕たち、なんの打ち合わせもないんですけど?」
「急だったから、俺もどうしようか考え中だ。まずは錬金術科がラクス城校の中でも特殊だから、本当に入学するのかってことを聞いてみるつもりではある」
ヴラディル先生もぶっつけだそうだ。
僕たちはともかくヴラディル先生を中心に話を進めて、疑問があれば都度問いかける。
方向性としては、錬金術を真面目に学ぶ気があるかどうかの確認。
それぞれの事情は学業に関わらないようなら深堀りしないことになった。
「よし、じゃあ…………合格者一人ずつ呼んでほしいんだが、誰が呼びに行く?」
「「アズで」」
「ひどい!」
ウー・ヤーとエフィに押しつけられた!?
その上僕を推す二人の理由は、一も二もなく図太いからだって。
相手が王族でもなんでも気にしないだろうとか言う。
僕だって気にはするよ。
ただ皇子っていう身分上、偉そうな人に慣れてるってだけなのに。
そんなことを思いながら、僕は錬金術科の校舎の中、空き教室になってた三つ上の就活生が使っていた教室へ迎えに行った。
「それでは面接を始めさせていただきます。ひと組ずつ呼ぶので、呼ばれた方は僕と一緒に移動をお願いします」
「ひとくみ?」
一応丁寧に言ってみると、赤い髪の海人の美少女が小首を傾げる。
視線が合うと、少し目を細められた。
それだけで美人って迫力が増すらしい。
「一人ずつでいいようなら、別けるよ。けど、残念ながら今日いる面接担当者に女性はいないんだ」
どうするって聞くと、兄妹ってわかる顔つきの美少年が応じた。
「問題ないとも」
うん、育ちの良さは隠す気なさそうだし、ここは接し方を明示しておこう。
「学園の理念として学生は平等だ。その上で特に敬称はつけないし、身分で物は言わないけど、そこは理解してくれてる?」
「では、あなたの身分は聞かないが、どのような立場であるかを聞きたいな」
ウォレンシウムの王族が、なんか無闇にイケメンフェイスで爽やかに聞いてきた。
悪役令嬢と王子キャラが揃ってそうでなんか嫌だ、なんて考えすぎかな?
「僕のことはアズと呼んでくれていい。すでに上はいなくなってるから今の錬金術科の最高学年ってところかな。入試で僕を見た人もいるだろうけど、錬金術科は人員が少ないからこうして手伝うこともあるんだ」
僕を見たことがある海人の双子が、お上品に笑った。
「えぇ、不思議な実験を主導されていた方ね。覚えていましてよ」
「成績優秀者、もしくは貢献度のようなものを基準に選出するのか?」
おっと、思ったより前のめりに錬金術科へ興味を示した?
けど残念、そういう評価基準って錬金術科にはない。
「僕はあまり授業に出られないから、学業が優秀とは言えないね。さて、そういう気になるところもこの面談では聞いてくれていい。まずは君から行こうか。なんと呼べばいいかな?」
「それでは、ハルマとお呼びください」
自治都市の代官をする伯爵家の令嬢ハルマを、最初の面談相手に選んだ。
考えてみればこの案内係はちょうどいいな。
僕はハルマを廊下に連れ出した。
「僕は帝都育ちなんだけど、クラウディオンは自治都市だったよね。他の町とは違うの?」
「いえ、さほどの違いは。ただ貴族的な社交には疎く、失礼があるかとは思いますが」
「あ、僕も身分は高くないんだ。帝都はそれこそ上も下も切りがないくらい貴族がいるから気にしないで。皇帝の下はみんな同じようなものだよ」
大袈裟に言ったら、ちょっと肩の力抜いたようだ。
(さて、それじゃセフィラ? 皇帝って言葉に反応は?)
(ありません。どうやら錬金術科への入学に関して、趣味の延長であるようです)
(趣味?)
(錠前を作ることや、狩猟罠を設置すること)
思いの外ご令嬢の趣味じゃない内容。
ってことは、本当に父は関係ない?
けどそれで錬金術科を選ぶのは何故かが、余計に気になった。
面談前にそういうところも探っておこうか。
「それに錬金術科は身分も多様だ。僕の同学年には、ご令嬢の枠にははまらない、弓矢が得意な子もいるし」
「え!? あ、申し訳ございません」
ちょっと嬉しそうな反応だな。
これは、本当にはみ出し者だから行き場がなく、錬金術科に入った感じ?
「ハルマも狩猟が趣味だとしたら、秋の行事は楽しめるかもね。ただ、錬金術科としては手先の器用さが欲しいところだけど」
「それは、自信があります」
おっと、はっきり答えられるくらいの自負があるらしい。
(セフィラ?)
(実家の金庫が、かつて錬金術師によって作られた特殊錠であるため、些かの心得があると自負しています)
わー、僕も知らない分野の錬金術だった。
この世界の鍵ってだいぶ簡単な作りだし、特殊錠ってどんなものか興味はある。
うん、これはもう趣味と合わせて父は関係ないな、この子。
技師のこととか言ってみたいけど、もう面談の部屋につく。
僕がノックして扉を開け、ハルマを先に入れた。
僕が座った後に、対面の椅子にハルマは着席を促される。
それから名前や出身国、志望動機という基本情報に関する質疑応答が始まった。
「そうか、錬金術はやったことがないと。一応ここはラクス城校で、礼儀作法なんかにも力を入れているのは知っているか?」
「も、もちろん、社交に関しても、多くを学び身につけられるよう努力を怠りません」
慌ててやる気を見せるハルマだけど、ヴラディル先生が聞いたのは逆の意味だ。
「いや、逆に社交目的で入学した学生で上手くいった奴はいないから、それはやめたほうがいい。なぁ?」
ヴラディル先生がラクス城校の校舎にいたエフィに振るけど、答えにくいみたいで別の方向に応じる。
「これと言った強み、錬金術で新たな見地を持てる興味関心の対象があれば、こちらでも問題はないでしょう」
「自分は錬金術で作れるアダマンタイトに興味を持った。それが高じて今は鍛冶に手をつけているような感じだな」
「か、鍛冶ができるのですか? それは女子生徒であっても!?」
エフィに乗ったウー・ヤーに、途端に食いついた。
それでもうハルマの関心ごとは察せられて、僕たちは目を見交わす。
ヴラディル先生が頷いたことで、ハルマへの聞き取りは切り上げになった。
錬金術をやるために錬金術科にくる生徒が珍しいって言うのも世知辛いけど。
春になったら順を追ってできること増やそうねって感じで、ハルマの面談は和やかに終わった。
定期更新
次回:ご対面4




