508話:皇子のお仕事3
第二皇子のテリーは王城に残り、学生のアズロスは寮に戻った。
そして第一皇子の姿になって髪を黒く染めた僕は、笑顔で告げる。
「さて、馬鹿なことした黒幕捕まえに行こうか」
「公爵家の方の忠告何一つ聞く気がない!?」
錬金術部屋では、元気に声を上げたレーヴァンが痛みを訴えてお腹を押さえる。
押さえてるの胃じゃないなら、たぶん余計なこと言って何かされたんだろうな。
テリーのほうにいながら目がうるさかったし。
何か言いたいこと溜まってたんだろうけど、それを言っちゃったらそうなるって。
「たぶんテリーが動くし、気にしてルキウサリア側もマーケットを取りやめてでも対処に当たってしまう。だったら今の内に犯人は突き出して、マーケットの警備の配置だけに集中してほしいんだ」
屋敷にいたヘルコフとイクトは、僕がいう黒幕の当てはわからない様子だけど、僕の帰宅に合わせて戻ってたウェアレルは止めない。
まぁ、クトルと会ってもらったし、その時にちゃんと責任は取るよう言っておいたし。
ウェアレル曰く応諾したらしいから、たぶんハリオラータと間違えてごろつき送り込んだ誰かさんは、ハリオラータの頭目本人に捕まってるはずだ。
「姫君からもルキウサリア頼るようにと言われたでしょ。あれ、勝手に動かないでほしいっていう意思表示ですよ。もしくは動くなら事前連絡して、せめて殿下の安全確保だけはさせてほしいっていじらしいお願いですって」
レーヴァンが止めようと大げさに言うけど、まぁ、言ってることは正論だ。
正直皇子がすることじゃない。
けど相手が相手なんだよ。
「相手を思うと、ルキウサリアがこれ以上動くと余計に拗れる気がするなぁ」
僕はウェアレルに目を向けて意見を求める。
「えぇ、あちらはともかく手が早いので、二度手間程度ならまだしも、認めない相手からの接触は受け付けないでしょう」
「…………はぁん? そういうことか。では修道院のほうに?」
ヘルコフは気づいて、修道院、ハリオラータ幹部捕まえてる監獄のことを口にする。
ジョー誘拐未遂がハリオラータと思しき賊とは、レーヴァンあたりから聞いてたんだろう。
イクトも黒幕については、最近うろついてるクトルが関わることを察した様子だ。
「ルキウサリア側から、ハリオラータの対応についてはどう聞いているんだ?」
イクトがレーヴァンに向けて確認する。
問題として表向きは、ハリオラータ幹部を捕まえて情報収集をしてる。
その上で死刑決まってるけど、それをどの国でやるかは協議中という形。
さらに言えば、死刑にされるのは替え玉の、色々やらかしてる別組織含む名うての犯罪者って言うのが、表向きの裏側。
ルキウサリア国王周辺は替え玉承知してるし、そもそもハリオラータ幹部がお菓子で釣れてることも知ってる。
頭目と幹部が一人、ハリオラータを畳むために動いてることも言ってはあった。
また、僕が直接説得の上でそういう形にしたことも、現場は見せてないけど報告してる。
「裏も聞いてるの? レーヴァン?」
水を向けると苦い顔を向けてくるってことは、聞いてそうだな。
レーヴァンには表の裏じゃなく、クトルが動いてる裏も言っていいと判断しよう。
ただこれ、上司のストラテーグ侯爵にも伝わるだろうけどいいのかな?
親戚らしいし、ルキウサリア国王からの信頼半端ないな。
「…………殿下が、ルキウサリアの人員排して、ほぼさしで話つけたとは聞いてます。その後のハリオラータ幹部をいいように使ってるとも」
「じゃあ、いいか。心配ならついて来るといい。けど、どう報告するかは制限するから」
「な、何しに行くんですか?」
僕が規制することにレーヴァンも警戒するのは、今までの経験だろうな。
言っちゃえと思ったことはだいたいフルオープンで困らせてる自覚はある。
「僕がいいと言うまでは無駄口しないで。じゃないと命の保証ができない」
忠告はして出かける準備をした。
ハリオラータの監獄行くということは、屋敷に戻る前に言ってあって、王城からの護衛も含めて発つ。
ただ、顔見知りじゃないウェアレルは留守番。
大人の男性増やして刺激してもね。
「あら、初めてお会いする方がいらっしゃるのね?」
今日は監獄の人も排除して行くと、マギナが色気のある視線をレーヴァンに向けた。
能力は伝えてあったから、レーヴァンは無反応を決め込む。
「なんかいつもと違うね。お菓子は?」
「ちょっとハリオラータの残党と思しき人が、僕の目の前でやらかしてね?」
知らない男に警戒ぎみながら、おねだりするカティだったけど、僕の言葉を聞いて退く。
叱られるのは嫌らしい。
代わりに対応するのは、もう幹部の中のお姉さん的な役回りし始めてるアルタ。
「御前に呼んでもよろしいでしょうか?」
「ちなみに何人いる?」
僕が聞くと、無口なイムが応じた。
「クトル以外は四人」
「ふぅん、他の六人は何かな?」
聞いたらやっぱりって顔される。
うん、セフィラ使ってわかってるよ。
クトルと縛られた四人、そしてそれらの逃亡を防止するように六人がいるって。
「思ったより人数いるから、僕のほうから行こう。盗み聞きくらいは咎めないけど、これ以上手間を増やすことをするなら、その盗み聞きさえできないようにするから」
一応ただの脅しじゃないと見せるために、セフィラにとある魔法を起動してもらう。
途端にハリオラータたちは自分たちの鋭い五感を象徴する部位に手を当てた。
やったのは、オートマタに搭載された魔法の一部を再現するもの。
あれ、繊細で膨大な魔法が組まれてるから、他の魔法に干渉されないよう守りの機能として、ジャミング装置みたいなものが搭載されてたんだ。
その守りを応用することで、魔法の干渉を鈍くすることをした。
漏れる魔力で五感を強化するような力のあるハリオラータたちは、ひどい違和感に戸惑ったらしい。
(いざって時のために、未起動のオートマタ一つ設置しておくべきかな?)
(新たに作ることを推奨)
(時間ないって)
セフィラにリユースの精神はないようだ。
オートマタは結構頑丈だから、中を弄って設置するだけで済むのに。
問題は稼働に必要な電気の確保だけ。
そこがこの世界だととんでもない問題なんだけどね。
だから作り直したらっていうセフィラの考えもわからなくはないんだ。
「あの、言い訳の余地、あります?」
修道院から出て、まず姿を現したクトルが開口一番そう言った。
それとなく目が新顔のレーヴァンを窺う。
ただイクトと同じ制服で所属はわかるだろうから触れないようで、まずは今回の件の言い訳を申し出た。
「僕も手早く終わらせたいところだ。収穫祭に続いてマーケットまで潰されるのは面白くないからね」
「はい…………」
クトルがさすがにやらかし自覚してるせいか大人しい。
そして話すのは、呆れる内容だった。
使った人員から想定してたけど、ハリオラータとやり取りのあった、とある魔法使いが誘拐未遂の主犯だという。
ルキウサリアからも後回しにされる程度の悪事しかしてない、小悪党。
やってる内容も周囲に害のある禁書や禁術の扱いじゃなく、密猟品の売買。
ただ得た魔法素材使っても、これといった成果もあげられてないとか言うしょっぱい人。
「ただ、その…………城の女中とできてまして。その女中が例の錬金術師に食事を世話する係で。青いアイアンゴーレムを調べてる人物ってことで、教えたそうっす」
「四人もいるのはどうして?」
聞いたら、縛られて猿轡に目隠し、耳栓までされた人たち四人が引き出された。
いつかのクトルが着てた、目くらましのローブを着た六人が、すぐさま四人を押さえつけて僕に向けて頭を下げる。
「ゴーレムの作成技術が錬金術だっていう話と、錬金術は詐欺だって話がごちゃまぜに伝わったみたいで。アイアンゴーレムを青くする錬金術をしてるっていう話から、なんでかゴーレムを青くする研究してるって思いこんだとか」
「あぁ、それは錬金術科の学生が研究しようとしてる内容だ。もちろんちゃんと色だけじゃなく、素材として鉄から青いアイアンゴーレムを再現するためだよ」
「まぁ、それで錬金術師攫って、自分たちがそこらのゴーレムを青くして詐欺をしようと仲間募ってこの数っすね」
「詐欺ね。学園で誘拐未遂なんて馬鹿な真似したのは、それだけ見返りがあるからにしても、無謀すぎる」
「そこは皇子さまの言とおり舐めてたんじゃないか? …………です」
さすがに口調が崩れてクトルが言い直す。
どうやら僕が捕まえてるところも聞いてたらしい。
聞く限りこの四人だけの思い付きの犯行。
ハリオラータ関係で繋ぎのあった犯罪者が馬鹿をしたけど、ハリオラータは無関係と。
「じゃあ、その四人は引き受けよう。で、そこの六人は覚えたけど、僕の感知圏内に入ったら排除するから、何かさせるなら変に隠れさせないでね」
「あ、もしかしてあのローブの誤魔化し効いてない?」
「逆にそれだけぎゅうぎゅうに術が詰められてると、隠れてても何かあるのがわかる」
セフィラの言葉を伝えたら、犯罪者の頭目から信じられないような目を向けられてしまったのだった。
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