タフ&ニート(若年無業者でない)
「……なんだろうな、鷹司さんのコンセプトアートでは大きい車に見えたけんど、完成してみると意外と小っせえな」
「まあ、この方が日本人にゃ具合がいいら。欧米の車はよく走るけんど、取り回しが悪いからな」
帝国人造繊維開発本部四輪技術部の蒔田鉄司と鈴木道雄(生産技術部から異動した)は、完成した試作車を見て感想を言い合った。
帝国人造繊維 SJ11W "ジムニー"
乗車定員:4名
車体構造:鋼製ラダーフレーム
ボディタイプ:3ドアワゴン
エンジン:帝国人造繊維"B010A" ユニフロー強制掃気2ストローク水冷直列2気筒直打OHC
駆動方式:パートタイム4WD
主変速機:前進5速後退1速ドグミッション
副変速機:2H、4H、4L
サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン横置きリーフスプリング独立懸架
全長:3550mm
全幅:1500mm
全高:1600mm
ホイールベース:2,250mm
車両重量:990kg
ブレーキ 前:ツーリーディング 後:リーディング・トレーリング
外観はほぼ史実のSJ30ジムニーのそれである。と言っても、中身は割と別物であり、エンジンは掃気方式にユニフロー式を、冷却方式に水冷式を採用した新設計の「B010A」であるし、サスペンションも史実の3リンクリジッドではなく、横置きリーフにロアアームを兼任させる方式のダブルウィッシュボーン四輪独立懸架とされ、元ネタよりは乗り心地や走行安定性を重視した構造とされていた。
この車両は、ほとんどの道が舗装されておらず、雨などで頻繁にぬかるむ今の日本の過酷な道路事情では、ジムニーか軽トラでないとまともに走れないという耀子の判断の元、自動車分野への進出を目指して開発している。とりあえずの目標は、欧州での戦争が終結したために、近々再開が予定されている「ラリー・モンテカルロ」の完走であった。
「小さく、少なく、軽く、短く、美しく。良い製品を作るための5原則を守ると、こんな風に魅力のぎっしり詰まった製品が出来上がるんだ」
ナイロンストッキングが全世界で爆発的に売れ、必死に生産量を伸ばしていた時からテイジンの物づくりを支え続けてきた鈴木の持つカン・コツとノウハウに、設計主任の蒔田鉄司は大いに助けられていた。蒔田は1913年に新卒採用された東京高等工業学校の卒業生で、鈴木と同じ静岡県の出身である。テイジンでは経験のない自動車、特に四輪駆動システムの開発には困難が伴ったが、生産技術を担当する鈴木と設計を担当する蒔田は阿吽の呼吸でそれらを乗り越えていった。
というわけで、鈴木道雄を拾ってきていたのはジムニーのためでした。彼だけでは苦しいので、くろがね四起の蒔田鉄司もリクルートしています。




