なんということでしょう
重戦車に関して、過去の記載の矛盾する箇所をひっそり書き直しました。すみません。
陸軍からの指摘は多岐にわたったが、大きなものは3つあった。
・砲塔が弾薬に比して狭く、装填動作が困難である
・エンジンが車体中央にあり、熱や振動が車内に伝わる
・弾薬搭載量が少なく、継戦能力に不安がある
「うーん、これは確かに……」
日本産業から図面を見せられた耀子とくろがね重工業四輪技術開発部メンバーは、ほぼ車体中央に縦置きされた自社エンジンを見て唸ってしまう。
「だめですか」
「突撃車なら車内空間も広く取れますし、この位置にエンジンを置くしかないのがわかっているので文句も出ませんが……」
「戦闘車はどうしても車体を小さくまとめたいので、この位置にエンジンを置くと乗員からは不興を買いますね……」
そんなコメントをしつつ、耀子たちは図面をじっと見つめていた。これにどこまで抜本的な対策を打つべきか思案しているのである。
「……まず、発動機は車体後方に動かして、パワーパック化しましょう」
「なら砲塔を前に動かさないといけません。重心がさらに前方に偏りますが」
将来的に搭載したいのは、海軍の駆逐艦用主砲の設計を流用した45口径12cm砲。現在野戦重砲兵連隊にてカノン砲として運用されているこの兵器は、移動可能な陸軍火砲の中で最も長い砲身長を持ち、日本産業では搭載したときのフロントヘビー化が心配されていた。
「いえ、この砲塔位置なら収まります。幸か不幸か、砲塔後部が長いので、その分車体後部も延長されておりますから」
「本当にこの空間に収まるのなら、発動機が後ろに来る分、むしろ重心は後ろ寄りになりますね……」
「まあ、重心の問題はサスペンションで案外どうにかなります。あんまり神経質にならなくてもよいでしょう」
これでエンジン搭載位置の問題は片付いたといってよいだろう。1万CCにもなる8気筒エンジンの横置きパワーパック化は簡単な話ではなさそうだが、この手の設計案件にくろがね重工業ほど長けているメーカーはこの世に存在しない。
「で、12cm砲がらみの指摘ですが……まず、皆さんはもう12cm砲の事は忘れて、10cm砲のレイアウト検討をしてください。12cm砲を搭載できて、乗員から苦情が来るといっても装填動作が可能ということは、10cm砲ならまともに運用できるはずです」
つまり、今の砲塔設計のまま、12cm砲を、現在陸軍で開発中の40口径105mm戦車砲に換装せよと耀子は主張した。
「つまり、砲塔は12cm砲仕様と10cm砲仕様で分けると?」
「そうするしかないでしょう。戦闘重量に対してエンジン出力に余裕がないし、車体規模に対して現状では砲塔容積が足りてませんから。どうせ砲塔内の機器配置も変わっちゃうだろうし、だったら砲塔丸ごと別物で開発してもそんなに製造側の負荷は変わらないんじゃないですか?」
流用した牽引砲と、生粋の戦車砲では、操作体系がいろいろと異なっている。史実でも、九〇式野砲をほぼそのまま搭載した三式中戦車では、戦車砲としての操作に不向きな操作体系をしていることが難点として挙げられていた。
「……そんな気もしますね。しかし、後回しにしても12cm砲の搭載には、もっと砲塔内容積が必要というのは変わりませんが……」
とはいえ、日本産業側の言うように、問題は棚上げするだけでは基本的に解決しない。
「そこは私にいい考えがあります」
そういって耀子は、12cm砲の仕様変更を陸軍に要求することを明かした。
「……ということで、どうせ車載砲として改修しなければいけませんから、どうせなら弾薬も固定弾薬から半固定弾薬に変更しましょう。そうしないと、今よりうすらでかい、わが国では運用の難しい戦闘車になってしまいます」
後日、耀子は陸軍技術本部を訪れ、十年式十二糎加農砲の戦車砲バリエーションを設計し、その際弾薬については現在の固定弾薬(完全薬莢式)から半固定弾薬(分離薬莢式)に変更するように要請した。
ちなみに、分離薬莢式が半固定弾薬と呼ばれるなら、分離弾薬とは何のことなのかとなるが、分離弾薬は薬嚢式の事を指す。
「……まあ確かに、これまでは海軍と弾薬を共通にするため、十二糎加農砲については固定弾薬にしてきたが……」
「野重連隊からは『装薬ごとに砲弾まで一緒に揃えないといけないので管理が手間』だという声も上がっているらしいんですよね」
話を聞いた信熙と原が耀子に同意する。
「ありがとうございます。これなら、なんとか日本で運用可能な砲塔の大きさになりますし、弾薬庫も砲塔バスルにみっちり詰め込む構造にできるので、搭載弾薬の少なさにも手が当てられるかと」
「砲塔内に25発だけというのはさすがに少なすぎたからな。すぐに取り出せる即応弾薬庫として使えなくてもいいから、もう少し車室内に搭載できた方が、我が軍の戦闘教義にとって都合がいい」
「素人質問で恐縮ですが、搭載弾薬が25発しかないって少なすぎるんですか?」
信熙のコメントを聞いて、耀子はおずおずと質問した。
「戦闘車をも敵陣深くまで浸透させたいわが軍としては少ない、という意味だ。我が軍の戦闘教義では、敵第1戦を突破した部隊は、そのまま無補給で数日間前進可能であってほしい。12cm砲クラスの大火力砲ならば、1日に撃つのはせいぜい十数発だろうが、25発しか積めないとなると、浸透突破した翌日の戦闘中に弾を使い果たしてしまう」
「そろそろ設計が完了する十二年式の最終型も、10cm砲を載せたことで弾薬が大型化していますから、少しでも搭載量を増やすため、すぐにはとりだせないところにも砲弾を詰め込んでいます。苦労しましたよ」
信熙に続いて原も弾薬搭載量の重要性を語る。
「なるほど。であれば、1会戦に必要な弾薬だけでなくて、何度も戦えるだけの弾薬があった方ができればいいということですね」
「できれば、だけどな。弾薬を積むために車体や砲塔を大きくするというのは……まあなしではないが、そのために我が国で運用できない重量や大きさになるのは勘弁してもらいたい」
戦車砲としての最適化を要望しに来たはずなのに、いつの間にか弾薬搭載量の増加をお願いされてしまったが、当初の目的自体は達成され、十年式十二糎加農砲は九八式十二糎車載砲として半固定弾薬を用いる戦車砲に再設計されることとなった。
その間に日本産業とくろがね重工業で設計を進め、完成したのが以下の車両である。
日本産業 九八式重戦闘車 1型
車体長:5.7m
全幅:2.9m
全高:2.4m
戦闘重量:30.2t
乗員数:4名(運転手、車長兼無線手、砲手、装填手)
主砲:九七式十糎車載砲
口径:105mm
砲身長:4.0m(40口径)
砲口初速:685m/s
貫通力
APCBC-HE:165mm@100m、140mm@500m(九一式徹甲弾)
HEAT:190mm@100m、220mm@500m(九四式穿甲榴弾)
副兵装:9.3mm重機関銃 同軸×1、砲塔上部ハッチ前×2
装甲
砲塔正面:120mm75°+防盾75mm35~20°
砲塔側面:75mm
砲塔天蓋:40mm11~0°
砲塔背面:40mm90°
車体正面
上部:75mm20°
下部:90mm30°
車体側面:75mm90°
車体背面:25mm90°
車体上面:25mm
車体下面:25mm
エンジン:帝国人造繊維"C099E" 強制ループ掃気2ストローク強制空冷水平対向8気筒
最高出力:408hp/2600rpm
最大トルク:141.0kgm/1600rpm
最高速度:38km/h
車内レイアウトが劇的に改善された本車両は、エンジンの出力不足とそれに伴う発動機油温の高さが指摘されたものの、それ以外特に物言いがつくこともなく正式採用された。
そうして主に北海道や沿海州、樺太に配備され、特に整備兵には多大な苦労を強いたが、日本産業とくろがね重工業は精力的に改良を繰り返し、のちに控えている12cm砲搭載型の設計完了に備えて、信頼性の向上に努めたのである。
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