表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】令和の化学者・鷹司耀子の帝都転生 ~プラスチック素材で日本を救う~【旧題:鷹は瑞穂の空を飛ぶ】  作者: 雨堤俊次/コモンレール
世界恐慌編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

263/265

天使の後押し

ようやくあの機体を飛ばします。申し訳ありませんが、ビジュアルが間に合わなかったので、Flyoutのモデルは今回は無しです……

 新春の空を、甲高い音を立てて1機の双発単座機が飛んでいる。エンジン開発の遅れにより、計画が遅延していた次期戦闘機「隼」のテスト飛行が行われているのだ。


帝国人造繊維 TF11F 試製九七式戦闘機 "隼" 

機体構造:低翼単葉、先尾翼、引込脚

 胴体:難燃性エポキシ樹脂系GFRP+AFRPセミモノコック

 翼:ウイングレット付きテーパー翼、難燃性エポキシ樹脂系GFRP+AFRPセミモノコック

  フラップ:ダブルスロッテッドフラップ

乗員:1

全長:10.0 m

翼幅:9.4 m

乾燥重量:2050 kg

全備重量:3390 kg

動力:石川島重工業 F-0 1軸ターボファンエンジン×2

 推力:864 kgf(地上、静止)

最大速度:727 km/h

航続距離:1700 km

実用上昇限度:12000 m

武装

25mm 九四式航空機関銃(機首固定)×3

 口径:25mm

 砲身長:1500mm(60口径)

 砲口初速:850m/s

 発射速度:720発/分

 備考:ガスト式、九四式対空機関銃の航空機搭載版

爆装:250kg


「飛んでる……国産ジェット機が……飛んでる……」


 涙をこらえながら空を見上げる耀子。もともと、GHQに日本の航空産業を破壊させないことを夢見て歴史改変を行ってきた彼女にとって、国産ジェット戦闘機が日本の空を飛んでいること自体が感動的な光景であった。


「こんな見た目でもちゃんと飛ぶんだなあ……」


 一方、主任設計士を務める堀越二郎──三菱が航空産業に手を出していないため、耀子の青田買いが成功したのだ──は、なんとも微妙な表情をしていた。彼としてはごく一般的な、いわゆる「士の字」の機体で十分だと思っていたので、本当に飛ぶのかすら疑問だったのである。


「あれ、もしかして飛ばないと思ってたの?」

「いや、ちゃんと飛ぶように設計はしましたけど、普通の機体と違い過ぎて実感がわかなかったというか……」

「そう? 俺はちゃんと飛ぶと思ってたぜ?」


 そんな堀越のつぶやきに、航空本部長の奈良原三次が突っ込みを入れる。堀越の設計がうまくいったのは、耀子が奈良原に命じて先尾翼機の設計に関する事前検討を念入りに行い、その結果をうまくフィードバックできたからである。


「あ、戻ってきそう」


 一通りの曲芸飛行を行った隼は、テストフライトを終了して滑走路にアプローチし始める。テストパイロットの佐藤章からどんな言葉が聞けるのか、耀子は楽しみでならなかった。




「お疲れさまでした。初めてのジェット機はいかがでしたか?」

「いや、なんかすごく癖が強いなって。プロペラ機とはいろいろと違い過ぎるから、正直困惑してます」


 機体から降りてきた佐藤を出迎え、滑走路わきの事務所まで歩きながら、一同はテストを完走した感想を聞く。


「違いと言うと、振動が来ないとか」

「まず感じたのはそれですね。機体が風に運ばれているかのように進み始めて、いつの間にか速度が乗っている感じがあります」

「ほえー、やっぱそうなんだ」


 史実でもドイツ空軍のアドルフ・ガーランドがMe262を「天使が後押ししているようだ」と絶賛したが、みんな似たようなことを言うんだなと耀子は思った。


「裏を返すと、スロットルの応答が明らかにプロペラ機よりも悪いですね。全開に入れても全然加速しないし、その割にだらだらと速度が上がっていく感じがあって、最高速度の計測をどこで打ち切ったらよいか混乱しました」


 プロペラ機に対するジェット機の欠点の1つが、加速力の無さである。特に黎明期のターボファンエンジンである石川島のF-0は、例にもれず急激なスロットル操作をされると燃焼が止まっ(フレームアウトし)たり、内部の部品が焼損して炎上したりする不具合があったため、スロットル機構にダッシュポットをかませて応答性をわざと下げていた。


「格闘戦は避けたほうが無難と言う感じかい?」

「だと思います。そもそも縦横ともに旋回性があまりよくないですし、一度速度が落ちてしまうと取り戻すのに時間がかかりますから。横転性能は素晴らしいですけどね」


 こうした事情もあり、隼は「動きは緩慢だが、一度速度が乗れば既存の双発戦闘機にも勝る」という、今の常識からすれば不思議な戦闘機として仕上がっていたのだった。


「これは海軍さんには売れないかもしれないなあ」


 史実と違い、日本の戦闘機隊の格闘戦偏重傾向は鳴りを潜めている。これは、1920年代に最高速度500km/h台を達成し、速度の暴力で敵戦闘機を圧倒した八七式戦闘機「長元坊」の記憶があるからだが、だからと言って格闘戦を全く軽視していたかと言うと、そういうわけでもなかった。特に海軍は低空での戦闘が多く、艦船や攻撃機を護衛する機会も多いため、陸軍よりも運動性を重視する傾向がある。奈良原が唸ったのもやむを得まい。


「まあ、もともとこの機体はアメリカの超重爆を絶対に叩き落すために作ったものですから。対戦闘機戦や護衛任務は二の次です。海軍さんが買ってくれなくても別にいいでしょう」


 この後、陸海軍の航空本部が隼を審査したものの、案の定陸軍は防空戦闘機として採用し、海軍では使い道がないとされて不採用になった。それでも、この機体はまだまだエンジンをはじめとした改良点が残されており、それでもなお実用に耐える機体として仕上がっているのである。プロジェクトを主導した耀子としては大満足の出来であるとして、自社と石川島に引き続きの改良を指示したのだった。


少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。特に感想とか頂けますと、作者が小躍りして喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
挿絵(By みてみん)

本作世界のチベットを題材にしたスピンオフがあります。

チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
AIさんにも聞いてみましたが、2基で864kgfはないよねって感じでした。ターボファンでトルク足りないみたいな話してたら、ターボジェットはどうするんだと。初期のジェットエンジンでも1基で800~100…
重量がMe-262の半分位ですから(あっちは全備6t)、改良すれば950km位はいけそう。 これならB-29どころかB-36でも対応可能ですね。 新しモノ好きの伍長とかは真っ先に飛びつきそうですがw
震電の一番の欠点はレシプロ機故の離着陸の難しさだったから、一気にジェット化することでかなり改良されるんですね。 大雑把にみれば小型のミラージュ戦闘機っぽいとも言えるな?そうとらえたらいっそデルタ翼への…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ