もっとあなたらしく
筆が乗らなかったので短めです
8/22:3CVのエンジン性能が高すぎたので修正
「人がゴミのようねえ」
会場内の人の群れを見て、耀子がそんなことを言った。
「それだけイタリア……いえ、欧州の皆さんは自動車に関心があるということですね」
そんな耀子の発言を聞いて、秘書兼護衛の文子が答える。鳥学会一行はローマ郊外でフィールドワークに出かけており、この場には居ない。
「せっかくだし、よそのブースを見て回りましょう」
「了解です」
敵情視察も兼ねて、二人は有力なメーカーのブースを見て回ることにした。
まず真っ先に見に行ったのは、帝国人繊からエンジンを提供しているフィアットの新型500である。細部は異なるが、基本的に史実の「チンク」と同じ外観を持ち、丸くて愛嬌のある見た目はイタリア人の心をわしづかみにしているようだ。
FIAT 500
乗車定員:4名
車体構造:鋼製モノコック
ボディタイプ:3ドアファストバックセダン
エンジン:帝国人造繊維"B005C" ユニフロー強制掃気2ストローク水冷単気筒直打OHC
最高出力:37ps/5500rpm
最大トルク:4.9kgm/3500rpm
駆動方式:RR
変速機:前進4速後退1速 1速ノンシンクロ
サスペンション
前:ダブルウィッシュボーン横置きリーフ独立懸架(リーフスプリングがロアアームを兼任)
後:ダイアゴナルアクスルコイル独立懸架
全長:2970mm
全幅:1320mm
全高:1325mm
ホイールベース:1840mm
車両重量:470kg
ブレーキ 前:ツーリーディング 後:リーディング・トレーリング
「かわいい……地元ということもあって展示物も気合が入ってるし、カーオブザイヤーはここかなあ」
前世での愛車プフ650TR(ボディがFIAT500と共通している)を思い出し、色々こみあげる物を抑えながら耀子は嘆息する。
「エンジンとレイアウトが同じということもあって、うちの車と雰囲気が似ていますね」
「あと、ウィズキッドのデザインはイタリア系のデザインを参考にしているから、そのあたりもどことなく似ている原因なんだと思うよ」
「後で乗り味も比べないといけませんね」
カーオブザイヤーの審査では、一般来場者による人気投票のほかに、マスコミや自動車関係者による車両評価も加味して最終結果が決定される。モンテカルロの女王である文子と、帝国人繊オーナーである耀子は、後でこの車両評価会に参加するのだ。
「うーん、しかしさすがローマ開催なだけあって、イタリア人がいっぱいだな」
「ここに長時間とどまってると押しつぶされそうですし、他に行きましょう」
耀子としては開発者の話とかも聞いてみたかったのだが、人がいっぱい過ぎてフィアットブースの人たちの処理能力を上回っているようだったので、車両評価会の方に回すことにした。
続いてやってきたのは、シトロエンのブース。史実の2CV-6に近いスペックを持つ3CVが展示されている。
シトロエン 3CV
乗車定員:4名
車体構造:鋼製プラットフォームフレーム
ボディタイプ:3ドアファストバックセダン
エンジン:自然吸気4ストローク水冷水平対向2気筒OHV
最高出力:27ps/5000rpm
最大トルク:4.0kgm/4000rpm
駆動方式:FF
変速機:前進4速後退1速 フルシンクロ
サスペンション
前:リーディングアーム横置きコイル前後関連懸架
後:トレーリングアーム横置きコイル前後関連懸架
全長:3830mm
全幅:1480mm
全高:1600mm
ホイールベース:2400mm
車両重量:550kg
ブレーキ 前:ツーリーディング(インボード) 後:リーディング・トレーリング(インボード)
「FFかあ……まあそうだよなあ……」
カタログスペックの書かれたパネルを見た耀子は、露骨に顔をしかめた。
「前輪駆動の車って、旋回中にアクセルを緩めるとお尻が滑るんですよね。ラリーだと便利なんですが、峠道を普通に走る分には危ない気がします」
「何より、美しくないんだよ前輪駆動は。加速しようとすると駆動輪から荷重が抜けるとか非合理的過ぎる」
この時代のFF車が容易にタックインを起こすことを文子が指摘し、耀子はそれに同調して言いがかり同然の批評を行う。
「重量配分が駆動輪側に偏ってるのはありがたいのですが、よりによって加速時に其のフロントヘビーな状態が崩れてしまうのがよくないですね」
「結局、エンジンは駆動輪のできる限り近くに居なければいけなくて、なおかつ駆動輪は後ろ側になければいけない。この2つを満たそうとすると、MRかRRになっちゃうよねって感じがあるよ」
「そしてMRは基本的にレイアウトが大変ですから……RRが最高、なのですよね?」
「そういうこと」
もちろん、これは完全に耀子の持論である。実際には、様々な理由でFF車に優位な点があり、我々の世界線ではエンジンがフロントにあるのが常識だ。公道で見かけるリアエンジン車と言ったら、バスとポルシェ911くらいなものだろう。
「エンジンも非力だし、屋根も高過ぎるし……少なくとも私の好みではないかな」
「でも運転姿勢は楽そうですし、『荒れ地を60km/hで走っても籠一杯の生卵が一個も割れなかった』って言ってますよ。乗り心地は相当よいのではないでしょうか」
「タクシーとかにすると受けるかもしれないね。ヤナセにでも売り込んで……いや、もう動いてるかな……?」
「後で確認してみましょうか。あそこはアメリカ製のもっと大きな車を好んで輸入している気もしますので」
そんな調子で、二人はさほど気にかけず次のブースへ向かったのだった。




