欧州の戦場
ぎりぎりまでネタが決まらず遅くなってしまいました。
極東で日本軍が快進撃を続けている間、欧州ではドイツとオーストリアが必死に防衛戦を繰り広げていた。
「くそったれ!露助は極東で日本とチベットにかまってるからこっちに来ないんじゃなかったのかよ!」
「知るかよそんな……」
砲弾の飛び交う激しい戦場の中で、戦友の愚痴に反応しようとしたドイツ兵は、急遽それを中断して塹壕の中で身をかがめなくてはいけなかった。砲弾の落下してくる音が聞こえたからである。
「……ぺっぺっ!お前の愚痴に付き合ってたら口に土が入っちまったじゃねえか!」
案の定、砲弾はそう遠くないところに着弾し、巻き上げられた土を口に突っ込まれることになってしまった。
「俺に言われても困るわ!」
「くそー、開戦前は無人の荒野を駆け抜けてモスクワまで打通するなんて言ってたのによぉ!」
一次大戦で敗北してから、ドイツは必死に立て直しを図った。敗因を分析し、対策を練り、精強なドイツ軍の再来を目指して動きつづけてきたのである。それがうまくいっている自信があり、そこに思いもかけず旧領回復のチャンスが到来したのを見て、飛びついてしまったのだ。
「日本野郎の『トツシャ』を正面からぶち抜いてやるために、このベッカーまで用意したっていうのにな」
戦後賠償の取り立てに追われながらも、必死にやりくりしながら新兵器を開発し、配備してきた。その結果がこれということは、結局主には金が足りなかったということである。彼らの言うベッカーというのは、史実のベッカー M2 20mm機関砲がこの世界線で対戦車ライフルとして発展したものである。細部は異なるが、史実の兵器だとエリコンFFSを対戦車ライフルにしたエリコンSSG36に近い。
「……!来るぞ!」
塹壕から頭を出して前方を覗くと、敵第一梯団の突撃が始まったのが見えた。歩兵だけでなく、歩兵戦闘車の姿も見える。一次大戦で日本軍が三年式突撃車で戦場を荒らしまわった結果、欧州各国は戦車ではなく歩兵戦闘車の開発に邁進し、史実の戦車くらいの気軽さで運用されるようになっていた。
ハリコフ機関車工場 T-14歩兵戦闘車
全長:6.9m
全幅:2.9m
全高:2.9m
重量:20t
乗員数:3名(運転手、車長兼砲手兼無線手、装填手)
乗客:12名(歩兵一個分隊分)
武装:M1924 45mm戦車砲もしくはM1927 76.2mm戦車砲×1、7.62mm MT機関銃×1
装甲
砲塔正面:45mm
砲塔側面:20mm
砲塔天蓋:10mm
砲塔背面:20mm
車体正面
上部:20mm30°
下部:20mm60°
車体側面:20mm90°
車体背面:10mm90°
車体上面:10mm
車体下面:10mm
エンジン:ホール・スコット リバティ L-8 自然吸気4ストローク水冷90°V型8気筒 300hp
最高速度:45km/h
「T-14か。コムソモーレツなら穴だらけにしてやれるんだが」
「あいつの装甲を正面から抜くには、100mまで引き付けて車体下部を撃たないとならねえ。撃破厳しいな」
ベッカー対戦車ライフルの貫通力は30mm@100mである。気合を入れて開発したのに、登場時にはすでに時代遅れになっているというのは、各国の対戦車ライフルにほぼ共通する悲哀であった。だからこそ日本軍は対戦車ライフルの開発に手を出さなかったのであるが、代わりにドイツは「低反動な大口径機関砲」のベースになるものを手に入れており、現在これを生かすべく新型の戦闘機を開発中である。
「だがまあここは戦場で、俺たちは部隊だ」
「自分自身の手で息の根を止める必要はねえ。そうだろ?戦友」
観測手の合いの手に無言でうなづくと、砲手はスコープを覗いて敵車両に狙いを定めた。
「……!よぉし、命中だ!奴さん、片側が地面にめり込んでるぜ」
砲手は車体ではなく履帯に弾丸を当ててこれを切断し、走行不能にしたのである。そして、敵に側面をさらした車両を、ドイツ軍陣地のやや後方から狙い撃つ者がいた。
クルップ SPzW.I
全長:6.4m
全幅:2.4m
全高:2.5m
重量:14t
乗員数:4名(運転手、車長兼無線手、砲手、装填手)
乗客:10名(歩兵一個分隊分)
武装:3.7cm KwK26 L/45×1、MG08/18 7.92mm機銃×1
装甲
砲塔正面:30mm
砲塔側面:13mm
砲塔天蓋:13mm
砲塔背面:13mm
車体正面:30mm90°
車体側面:13mm90°
車体背面:8mm90°
車体上面:13mm
車体下面:8mm
エンジン:BMW IV自然吸気4ストローク水冷直列6気筒 200hp
最高速度:45km/h
それがドイツ軍の主力歩兵戦闘車、SPzw.Iであったり、対戦車砲のPaK26 L/45だったりする。遠距離ではロシア軍車両の正面装甲を貫通できないため、待ち伏せを行ったり、先ほどのように履帯を切断したりして、側背面を射撃できるようにしているのである。
「そら、あたり一面敵だらけだ!次行くぞ次!」
「わかってらぁ!」
今日の彼らのように善戦するところもちらほらあるものの、敵が強かったり、味方が弱かったりして突破される個所が出るのが欧州戦線である。一度穴が開いてしまうとロシア軍はそこからさらに大兵力を流し込んでくるため、今日もドイツ軍は大事に至る前にじりじりと後退を余儀なくされるのであった。
ジリープアーなドイツさん。描写しませんでしたが、オーストリア側も大体同じような状態です。




