#188 改造艦
「駆逐艦0001号艦、発進する!」
「固定ロック解除!後退微速!」
ついに、改造を終えた第501番艦、いや、今は地球1022第1艦隊旗艦、駆逐艦0001号艦と名を改めたこの艦を、私は発進させる。
第21基地から離脱する。速力は、以前とは比べ物にならないほど速い。あの重い船体が、嘘のように軽く感じる。
改造が終わり、この艦には最新の、いや、この宇宙では標準の装備が付けられた。
核融合炉に、重力子エンジン。射程30万キーメルテの主砲に、防御兵器のバリアシステム、ワープ航法のための超空間ドライブ、重力レンズを用いた長距離レーダー……我々が持つ技術を上回る装備が、この艦に備えられる。
だが、一番恩恵を感じるのは、やはり慣性制御だろう。艦内で立つことができ、さらに加速度を打ち消してくれる。フル加速時でも、シートに座る必要もない。
食堂の一新も、乗員にとっては革命的だ。地上と同じものが食べられる。たったそれだけのことが、乗員の士気を大いに上げてくれる。
ただ、やはり無理矢理改造したおかげで、いくつか妙なところもある。
対空機銃はそのまま残されているが、改造の結果、使用不能となっている。もっとも、対空機銃そのものが無用となったのだが、それは結局、艦の表面に残ったままだ。
エレベーターも1基しか付けられなかった。というのも、元々は無重力で移動するための通路穴が一つ、艦内を貫いていただけなのだが、そこにエレベーターを通したため、一基しかない。あちらの駆逐艦は、2基のエレベーターがあるが、こちらはたった1基を200人で使うことになる。
しかし、乗員の多くは概ね満足している。食堂に行くと、笑顔が見られる。
「あ、コンラート……じゃなかった、クロウダ准将閣下!」
そこには、ラウラ……じゃない、クジェルコパー中尉もいる。しかしこいつ、いつも食堂にいないか?そこで、他の女性士官、下士官と喋っていることが多い。
「ねえねえ、ラウラ、あの『壁打ち提督』といつ結婚すんのよ」
「ええーっ……まだそこまでは、考えてないかなぁ」
「よく言うわよ。もう艦内で同棲してるくせに」
「いやあ、だって、私がいないとコンラートがね、寂しいって言うから……」
おい、その会話、こっちまで聞こえてるぞ。しかしこのやり取り、まるでどこかの地球001艦隊の0001号艦のようだな。重力が作り出した雰囲気ゆえか、それとも、ラウラがあの艦で受けた影響が、伝染したのか?ちなみに「壁打ち提督」とは、私が壁を殴り続けた結果、付けられたあだ名のようだ。
それにしてもラウラのやつ、最近よく食うな。あの艦にも大食いが3人いたが、まさかあの3人の大食いが伝染ったのだろうか?
そういえばあの大食い3人には、それぞれとんでもない能力があると言っていたな。いわば、その能力と引き換えにエネルギー消費が増えて、大食いになったと。そう、マリカ中尉が言っていた覚えがある。
まさか、こいつにも何か、妙な能力がついたのではあるまいな?
「む!?」
と、突然、クジェルコパー中尉が唸る。
「ちょっと、どうしたの、ラウラ?」
「何か、感じる……」
なにやら意味深なことを言い出すクジェルコパー中尉。言ったそばから、それか。まさかとは思うが、何かが接近しているというのか?
『クロウダ提督!レーダーに艦影!至急、艦橋に来て下さい!』
さらに、こんな意味深な艦内放送まで入る。まるであの獣人のような能力がついたのではあるまいな?私は少し、心配になる。艦内放送で呼ばれた私は、急ぎ艦橋に向かう。
結局それは、民間船だったのだが、それにしてもラウラのやつ、まさかこんなものを感知したのか?民間船などにいちいち反応していたら、キリがないと思うのだが。
戦艦キヨスを出て、1週間が経つ。我が第1艦隊10隻は今、第5惑星ポセイドン軌道上にいて、海賊船の取り締まりを行なっている。交易開始直後には、海賊が出やすいと聞いたからだ。
「再び、レーダーに感!距離、120万キーメルテ!」
「コード受信、地球131船籍の船と出ました。」
「なんだ、また交易船か」
「いえ、妙です。地球131という星は、ここから9000光年も離れてる星ですよ。そんなところからわざわざここまで来るとは思えませんが」
「確かに妙だな……よし、船籍コードを解析、照合する」
「はっ!」
明らかに怪しい船が見つかった。もしかすると、ラウラはこっちの方を感じていたんじゃないか?
「コード解析!明らかに偽装コードです!不審船と認定!」
「やはりな……よし、こうなったら外宇宙までも追いかけるぞ!全速前進!」
まさかのビンゴだった。この艦隊として、初めての成果になりそうなやつが出てきた。できれば、我々の警告に応じず、逃げてくれないだろうか?そうすれば、我々の主砲の餌食にできる。
かなり危険な発想に、私は向かっているな。そういえば、ヤブミ少将の言っていたあの仮説を思い出した。我々の遺伝子には、破滅の未来が刻まれている。油断すると我々は本当に、滅亡に向かおうとしているのだな……
◇◇◇
「えっ!?本当ですか!?」
『ああ、貴官が地球1022に関わっている間に、そういう報告を受けた」
衝撃的な知らせが、僕の元に届く。それはあの重力子エンジンの技術士官、モハンマド大尉からの報告だった。
その技術士官曰く、魔石を動力源として使う方策を発見した、と。
『つまりだ、魔石をエネルギー源とし、この空間からエネルギーを得て、航行できることが分かった。これが、モハンマド大尉からの現状報告だ』
さらりと言ってのけるコールリッジ大将だが、これはとんでもない話だ。
つまりこれは、無補給でどこまでも航行が可能になると言っているようなものだ。こんな夢のような機関、それだけで、戦争の常識を変えてしまう。
いや……ふと我に返る。これはすなわち、僕がクロウダ准将に話した「滅亡の道」につながる発見でもある。そんな危ないものを、よりにもよってこれほど早く見つけてしまうことになろうとは。
「あの、ところでコールリッジ大将閣下。まさかこれを、実用化しようと考えておられますか?」
『当たり前だ。そんな面白そうなもの、使わずにいられるものか』
大将閣下は、やる気満々だ。うーん、これではますます、滅びの道にまっしぐらか……と思った矢先、大将閣下から思わぬ提案を受ける。
『そこでだ、早速これを駆逐艦に取り付けようと思う』
「えっ……いきなり、駆逐艦ですか?」
『補助エンジン程度ならば、既存の艦艇につけられるとモハンマド大尉から聞いている。ならばと、それを既存艦艇に取り付ける許可を出した』
「あの、ところで、どこの艦艇にそれをつけるのでしょうか?」
『決まっている。第8艦隊の艦艇だ』
「ええと……それってつまり、うちの艦隊じゃないですか?」
『それはそうだ。実験艦隊だからな。ちょうどいい』
いやあ、ちっともちょうど良くない。どうしてそういう怪しげなものをうちに押し付ける?
「ということは、大将閣下。また地球001へ帰投することになるんですか?」
『いや、例のアルゴー船の一件もあるから、魔石が絡むものを地球001で搭載することに、軍司令部でも難色を示している者がいる。ところが都合よくそこに、あの戦艦が向かっている。あれなら、この規模の改造作業をするのに十分な設備が備わっている』
「あの、大将閣下。あの戦艦とはもしや……」
『そうだ。我が地球001が誇る、宇宙最大の超大型戦艦だ』
大将閣下の一言で、僕はその船の名前を察した。そして、大将閣下は僕にこう命じる。
『というわけで、ヤブミ少将麾下の第8艦隊は、これより戦艦ゴンドワナに向かえ!以上だ!』




