#135 武装解除
「敵艦1隻、さらに接近!距離1200!」
単艦で接近を続ける敵の旗艦。それにしても、思ったより早く、説得が終わったようだ。
と、いうことはだ。今ここに向かっているビスカイーノ准将という指揮官は、めちゃくちゃ有能ってことじゃないか?
そんなやつと僕は、今から話さなきゃならないのか?緊張する。
「接近中の旗艦に打電。武装解除ののち、0001号艦への接舷を許可する。交渉用バンドにて、こちらの位置をビーコンで送信する、と」
「はっ!」
ジラティワット少佐が、接近する敵艦に向けて、僕のメッセージを伝える。すぐに、その敵艦から返電が来る。
「敵旗艦より入電!接舷許可、感謝する!距離100で停船する!その後、既定に従い、行動されたし!以上です!」
今のところは、比較的順調だ。しかしまさか降伏する相手と向かい合うとは思わなかった。
この最新鋭艦に、連盟軍の人間を乗せてしまうことになるな。だが、それも仕方がない。機関部や砲身といった重要機器以外は、例え最新鋭艦と言えど、規格通りの駆逐艦に過ぎない。内部を見せたところで、問題ないだろう。
「敵艦艇、停船!」
「よし、では規約通り、作業に移る。テバサキに連絡。直ちに、武装解除作業に入れ!」
「はっ!」
◇◇◇
「人型重機が一機、接近中!目視にて確認!距離、30キロ!」
観測員が、重機の接近を伝える。その直後、ドーンという爆発音が響く。それは、砲身を貫いた一撃によるものだ。
『砲撃管制室より艦橋、主砲、使用不能!』
管制室からの報告とほぼ同時に、艦橋の真上辺りからも爆発音が響く。
「長距離レーダー、使用不能!」
艦橋の上に取りつけられた、重力レンズ式の長距離レーダーのアンテナも破壊される。これで当艦は、主要な攻撃能力、索敵手段を失う。
ただ、それ以上の破壊は行われない。短距離レーダーはそのままであるから、航行には支障はない。この上、さらにバリア装置やレールガン発射口まで破壊する場合もあると聞くが、あのロングボウズの指揮官は、そこまではやらないようだ。
『テバサキより交渉艦へ、作業終了!これより、前進を再開されたし!』
「1101号艦より重機パイロットへ、了解、これより前進を再開する!」
あちらの人型重機から、武装解除終了の通信が入る。通信士が、それに応える。それを聞いたあの人型重機は艦橋の前で敬礼すると、そのまま離脱する。
しかしあの重機のコールサインは、どういう意味なんだ?テバサキ?我々の場合、通常、重機には動物や植物などの名前をつけるのが通例とされているが、何かの生き物の名前だろうか。
「両舷前進微速!」
「両舷前進びそーく、ヨーソロー!」
再び、前進を開始する我が1101号艦。機関音が鳴り響く。あの人型重機が向かった先に、我々も進む。
降伏受け入れの説得や、武装解除のことで頭がいっぱいだったが、冷静に考えれば、これから我々が向かう先は、あのロングボウズの旗艦だ。そんな艦に、我々は乗艦することとなる。
降伏受諾の儀礼として、降伏する側は、その相手の艦に乗り込むという暗黙のルールがある。降伏する側の船に乗り込んでくるやつは、普通いない。人質として取られるか、あるいは消されるかの、どちらかの懸念があるためだ。だから、降伏する側の人間を乗り込ませる。自身の艦ならば、安心というわけだ。
が、今回は、これが幸いする。意図せずして、私は秘密のベールに包まれたロングボウズの内の一隻に乗り込むことになる。そこは、どんなところなのか?そして、どんなやつが指揮しているのか?
「見えました!ロングボウズの旗艦を視認!」
「両舷停止!接舷用意!」
「両舷停止!接舷よーい!」
逆噴射のスラスターの音が、響き渡る。目の前には、灰色のあの異様に長い船体が見える。その長い船体に、横づけをする我が艦。
ところで、我々はあの艦に乗り込むわけだが、通常では考えられない乗り込み方を提示されている。
普通、他の駆逐艦に乗り移る際は、哨戒機を使う。わざわざ艦を横付けするよりも、その方が手っ取り早いからだ。
が、聞けばこの艦、哨戒機を収める格納庫がないという。だから、横付けしてエアチューブをつなぐ他に、あの艦に乗り込む術がないというのだ。私は、その話を聞いたときに、思わず面食らう。
全長450メートルという、最大長の駆逐艦でありながら、格納庫がないとはどういうことだ?まさか、格納庫に入れたくない理由でもあるのか?いや、そういわれてみれば、さっき我が艦の武装解除を施したのは、哨戒機ではなく、人型重機だった。まさかとは思うが、小ぶりな人型重機を納めるだけの格納庫しかないというのか?
ロングボウズは、未知の砲、未知の機関があると言われている。そのことが、格納庫を確保できない理由となっているのかもしれないな。思わぬことで、この艦の情報が得られた。そういえば、先日の中性子星近傍宙域戦で、人型重機による近接戦闘を仕掛けてきたが、あれはつまり、哨戒機が搭載できないが故の戦術だった、というのだろうか?
「敵……ええと、ロングボウズ旗艦より、エアチューブ接続!」
そのロングボウズの旗艦の左横で停止、我が艦の艦底部左側面にある接続口に向けて、エアチューブが取り付けられる。しばらくするとハッチが開けられ、向こうとの接続が確保される。
そして私は、その通路に立つ。
いよいよ私は、敵艦へと乗り込むことになる。




