034:最終試練(挿絵あり)
まあそんなこんなで領主とも仲直りしたんで、とりあえず全員で大広間の前でキャンプを張って、隊列と準備の再確認とかをきっちりさせた。
こういう現場の話がわかんねえ領主様は、話の外においておく。
「……まあ、最後はグレートケイブウルフ6匹だ、これは頑張ってもらうしかねえなあ」
「グ、グレートだと……!? あんな魔獣を6匹も相手にするのか……!」
兵士たちが動揺するのも無理はない。
そりゃ、冒険者ギルドでもBランク指定だからな。兵士に元冒険者もいるとなれば、ランクは痛いほど知ってるはずだ。
しかも6匹。動物系は群れになればさらに強くなるってんで、名前だけでもうビビっちまってる。
うん、こいつら本当に戦闘は優秀そうだが、魔物狩りに慣れてねえのがすぐ分かった。
放っておけば、なまじ普通の腕があるだけに深く突っ込んで事故る。重傷者か死人が出るに決まってるので、回復のポーションも少ない現状、そんなコトさせらんない。
「あー、違う違う。お前さんがたは5人でチーム組むの。相手するのは1匹ずつで6グループ。これを徹底する、そんだけだ」
「ほ、本当にそれで倒せるのか?」
「いけるいける、楽勝。そもそもお前ら、俺なんかよりずっと強いんだし、無茶さえしなければ全然いけるんだって」
半信半疑の連中に、とりあえず無理矢理にでも自信を持ってもらう。俺、ここの連中に正面からやりあったら勝てねえのはマジだし、戦士ってのはそんぐらい強いんで。
それに、普通のパーティなら6人がかりで相手するんだが、こいつら戦士しかいねえので5人でも行ける。
で、見立てでは正面からやりあえば、良くて6:4なんだけども。
ただ、それはまともにやりあった時の話だ。囲んでる間はそれこそどうってことないし、まさに楽勝でフクロ叩きに出来る。
「乱れた時に慌てさえしなけりゃ、あとは時間の問題だ。焦らず丁寧にやりゃいける」
俺がこいつらにしてやれるのは、基本のレクチャーと、事前の準備確認ぐらいだ。
それ以上に手伝っちまったら意味がないので、試練そのものは自分でクリアしてもらうしかない。
さすがに、そこは自己責任になるし、事故があっても俺は責任までは持てない。
準備そのものは問題ないと思うが、こいつら対人戦の訓練と捕縛戦闘しか経験がない。
つまり、自分らよりパワーやサイズが大きく上回る相手の経験がないんで、正面から力押しだけは避けてもらいたい。
「いいか? 守るのは3つだ。まず、なにがあっても絶対に突出しないこと。2つ、一定の距離で囲み続けること。3つ、2体同時に相手するような状態になったら全軍撤退すること」
魔獣を囲んでやりあうときのお約束を、ひたすら叩き込んでおく。
基本は、囲んで中距離からヒットアンドアウェイの徹底だからな。だいたい、危険人物を囲んで捕まえるときと一緒なんで、大丈夫だと思うんだが。
攻撃させず、とにかく反撃を受けない位置から攻撃する。危なくなったら仕切り直し。
それだけだ。練度は高いから、ちゃんと怯まず徹底できれば問題ないはず。
「わかった……だが、試練においてそれは卑怯ではないのか?」
真面目そうなやつが真面目な顔で質問してきたよ。
うん、およそ最悪の質問だと思う。ココ罠だらけってことは、そもそも卑怯も卑劣も上等なんだってのをまったく理解してない。
だいたい、罠をひとりで突破しても苦労させるための魔獣ですよ、アレ。
パーティ攻略が前提なのに、願いはひとつしか叶わない、ってのがすでに試練なんだし。
「卑怯もくそもあるか、あいつら俺ひとりでも6匹出てきたんだぞ。それに比べりゃ全然卑怯じゃねえし、この手の試練ってのは工夫していいんだよ。変に正々堂々とか考えなくていい。でないと、お前のせいで誰かが死ぬぞ」
「あ、ああ、わかった」
死ぬと言われて、流石に反省したらしい、真面目だからな。
そもそも、領主の娘を助けるのに誰か死んでどうすんだよ。
そう考えると、領主が自分で来るとかいう行動に出たのもわかる気がする。自分の都合に巻き込んで、誰かに死んでほしくなかったんだろう。
「よし、それだけ把握すれば大丈夫だ、じゃあ行くぞ?」
俺は本来、ここで奥の手となるべく用意していた……正確にはそうなってもいいようにヴィーデが誘っていたんだが……まだ残っていたグレートケイブウルフの素材を拾う。
すると、本来の守護者であるケイブウルフたちが、次々と復活する。
こうして、好きなタイミングで復活させられるってのは最大の強みでもある。なにせ準備完了状態で、こっち有利のまま始められる。
俺とヴィーデは、今回の試練には関係ないのでそそくさと部屋の外に出て、中の様子を領主のおっさんと共に見守る。
ボンテールのおっさんは弱すぎるので、直接参加させられないからな。
「全隊構え!!」
「「「はッ!!」」」
号令とともに、グレートケイブウルフそれぞれに対して、全員が囲んで構える。
「ガオオオオオオォン!!」
ケイブウルフの吠え声があがる、戦闘開始だ。
全員がそれぞれに取り囲みながら適度な距離をとっている。いい感じだな。
「常に後ろから攻撃しろ! ヤツはいきなり振り向けない!」
隊長が再確認のように声に出して号令する。
「グルアアアアッ!」
それに呼応するように、大きな威嚇の声を上げる魔獣。
そんな、でかくて恐ろしい魔獣に、どのグループも距離を保ちつつ攻撃を開始する。
魔獣が前に攻めれば、後ろと横から攻撃する。
横に攻めれば、反対側から攻撃する。
なにもしなければ後ろから攻撃する。
えげつないまでの死角攻撃だが、実際に目の前にして攻撃するとなると、魔獣のその迫力に、はじめのうちはなかなか思いきれない。
それでも、2撃3撃と重ねる内に、どのグループも徐々に慣れてくる。
「来るぞ! 死角から攻撃ィ!」
「ギャオオオンッ!」
悲鳴とも叫びともつかない唸り声を上げるグレートケイブウルフだが、群れも組めないまま攻撃が届かず各個撃破されるとなると、獣だけに対応策もない。
飛びかかろうにも、助走も取れなければ、跳ぼうと溜めを作ったら最後、容赦なく後ろから攻撃を食らう。
魔獣でも強くても動物だ。前方以外からの攻撃を徹底されると、まともに攻撃体勢も作れない。前足の爪を振り回そうが届かない、鋭い牙も噛みつけるものがない。
こうなればもう、ハメ同然だ。
あとは時間の問題でしかない。
「グ、ル……ゥア……ァ……」
程なくして、これをひたすら繰り返された5匹が討伐される。
そして最後に、見ていただけの領主のおっさんに強引に剣をもたせる。
「ほら、あとは領主様の分だぜ?」
「あ、ああ……」
ボンテール子爵は、こんな大きな魔獣に本当に剣を突き刺してもいいのか、といった感じで、息も絶え絶えな最後のグレートケイブウルフに、震える手で、なんとかとどめを刺す。
まあ、いくらなんでもこれくらいはやってもらわないとカッコがつかない。
「我々は、ついに討伐したぞおおおおお!」
「「「うおおおおおおおおおお万歳! 領主様万歳ッ!!」」」
兵士たちが、感極まった勝どきをあげる。
なかば領主そっちのけで喜んでいるところを見ると、本当に嬉しかったしここまで大変だったのだろう。
抱き合ったり地面を叩いて喜ぶやつまでいる。
「これで……娘も……」
ボンテールの野郎まで、涙を流してやがる。
まあ、そんなことすら周りに言えないくらい人を信用してないやつが、こんな事になったら当然とも言えるけどな。
だが……そんな空気が一変した。
『……頭が高いぞ、人間ども』
……たった一言。
ただ、その声が響いただけで、一瞬で心臓まで鷲掴みにされるような、そういう絶対的なプレッシャー。
人間はこれに逆らっちゃいけない……心が、体が、そして魂がそう【理解】する。
兵士たちは、魂の声に従って全員がひざまずき、ボンテールですら片膝をついている。
立ってられるのはヴィーデと……この声を知っている俺ぐらいのもんだ。
そんな俺だって、まともに頭が上げらんない。
『試練、ご苦労だった。全て見させてもらったぞ、ボンテールとやら』
「はは……ッ!」
ボンテールも、竜の言霊にかかっちゃ形無しだ。返事するのがやっとって感じでしかない。
そりゃそうだ。知ってる俺でさえ心臓がバクバク言ってんだから、こいつらはもう生きた心地もしねえだろう。100回ぐらい死んだ気がするに違いない。
そんでも、やっとのことで頭を上げれば……女がそこに居た。
褐色の肌に金髪、遠慮や容赦なんてモノはこれっぽっちも持ち合わせてないほどに尊大。
もう当然のようにすごく偉そうだし、実際に偉くて強い。なにせ、向こうには見下す気もないのに、こっちが勝手に見下される気になるってくらいの凄さと圧力だ。
そんな、見たこともないのに、雰囲気だけで知り合いだとわかる奴でもある。
「おいおいマジか……。お前……女だったのかよ」
「くく……改めて見る我の姿はどうだ、悪くないだろう?」
自信たっぷりに語る、その女には、角も羽もしっぽも付いていた。
ついに!
全世界の俺が待望の、金髪褐色ギザっ歯人外娘の姿で登場ですよ!
半年ぐらい前からずっと決めてたので長かった!




