030:ダンジョン籠城戦・序盤の戦果
やーうまく行った。足場が不安定な洞窟で大量の煙は視覚奪うし効果高いね!
それはいいんだが、うまく行きすぎだコレ。
「さすがに人数多すぎだろ!」
「そうだねえ、この人数を並べておくだけでもなかなか大変だよ」
部屋に連れ込んだ敵の数、24人。
だいたい半分はすっ転んだり壁にぶつかったケガ人、あと半分は煙の吸いすぎ。
どう見ても、連れ込んで縛るだけで大仕事すぎだっての。こっちの人数も考えて欲しい。
そりゃあ、なれない洞窟ダンジョンで煙にまかれて右も左も見えないってのに、大人数でバタバタすりゃぶつかるし転ぶんだから、あんな濃い煙が出た時点で早く引けっての。
なんのための元冒険者連中だよ、俺の仕事まで増やすなっての。
いくら視界がない場所で自由に動けるったって、そのへんに転がってる人間を運んでくるの、結構大変なんだぜ? 20人超えたらすげえ重労働だよ、まったく。
「ゴホッ、ゴホ……ッ、んぅ……た、たすかった……のか?」
ヒゲ面のおっさんが、動けないながらも煙からとりあえず復帰したらしい。
とりあえず煙のこない第2層に置いとけば、他の連中もそのうち意識取り戻すだろ。くるぶしと後ろ手に親指縛っときゃ、応急にはそれで充分だし。
「とりあえずはひと段落ご苦労さんってやつだな。あんま暴れんなよ?」
「ッ……貴様は!」
いや激昂されても困るし。
「あー、待て待て。煙に巻かれて動けない連中や転んで怪我した連中をこっちで保護してんだよ。命の恩人ってやつだ。言っておくが、あのまま煙で死んでても文句言えないんだぜ?」
「……あ、ああ。そうだな、すまない」
立場は納得してくれたようだ。
別に放置して煙で死んでも俺の責任じゃないんで、感謝して欲しい。
「そっちも仕事なんだろうが、こっちも契約を適当にされた挙句、だいぶ無茶されてっからな。まあ、こっちは人数もいないし、あんまり面倒見れないのは勘弁な?」
「いや……たしかにお前の立場ならそうするしかない、気にするな」
部屋の収容人数を把握したのか、おっさんは興奮気味ではあるものの、理解そのものはしてくれたようだ。
でも、俺を見ながらヴィーデをちらちら見るのやめてほしい。
……あんな超絶美少女、気になるのわかるけど! 俺でも気にするけど!
「そんじゃ、話くらいは聞く用意があるってことでいいかな?」
「うむ。こうなっては出来ることもない。出来たとしても、いまやるべきではないしな」
「ありがとう、そう判断してもらえるのは助かるぜ」
ぶっちゃけ、頭悪いやつだと、ココでムダに体力消費するようなこと繰り返すからな。
互いに情報欲してんだから、まずは情報集めタイミングだってわかる相手なら話が早い。
「では……そちらの言い分を聞かせてもらってもよろしいか?」
「構わねえよ。おたくらの親玉が、なんか隠し事して依頼してきたんだわ。それってぶっちゃけ、ほぼ違反契約じゃん? で、それもみ消すかなんかでこんだけ大掛かりなことやってるんで、ちょい待ちやがれってだけなんだよ。ムダに話をデカくしやがって……」
俺の言い分としてはそんだけだ。
半ば仕返しにダンジョン踏破の権利は俺がかっさらったけどな!
でも実際、踏破するなとも言われてないし。その部分の特定要項もないから、発見したものは俺のモノだし。そもそも、隠し事だらけであの舐められた適当依頼はないわー。
だいたい試練目的のダンジョンなのに、こんなクソ攻略してりゃあ、踏破したってドラゴンジョークでぶっ飛ばされるっての……。
「……それは、事実か?」
「事実もなにも、先遣隊に話聞けよ。あいつら、冒険者でもない衛兵なのに、回復ポーションだけ与えられて、罠だらけのダンジョン踏破しろって言われて困ってたハズだぜ」
「まさか、あの御方がそのようなことは……」
ん? なんか事実が重くてショックみたいだな。
ってことは、こりゃ外面はともかく面倒見は良いんだな。いいネタもらった。
「そっちの内情は知らん。俺は単独での探索専門だから、それで面倒が回ってきたんだろ。領主のヤロウ、そこそこやり手かもしれんが、探索は疎いみたいだし」
「……」
そのまま考え込んでしまった。
おっさんにも思うところはあるんだろうが、俺にはどうしようもない。
ぶっちゃけ、専門のサポート系魔術師でも呼んでこなけりゃ解決しない状態になっちまったが、御用聞きの魔術師とかに知られてもマズイのか、連れてきてねえ感じだもんな。
だって、そういうのがいればさっさと煙なんか吹き飛ばすだろうし。
まあ、それならそれで、足場を好き放題荒らしてみたりとかするんですけども。
まだ数十人は充分に相手できるだけの罠も場所もたっぷりあるからね。
「どう思ってくれてもいいが、俺としてはだいたいそんなトコだ。領主様とやらは、おそらく金勘定やコスト計算が得意だろうから、お前さんがたの人質交渉には応じてくれそうだしな」
「あの方は優秀で面倒見もいいが、我々程度の人質で話に応じるかどうか……」
ずいぶんと信頼されてる領主様じゃねえか。
こりゃ徹底的に上下関係と規則を叩き込まれた上で、身内の面倒見そのものはいいってやつで確定だな。すげえ商人的でもあるけどさあ。
「安心しろ。あの手のやつはメンツ第一だから絶対に応じる。部下の前で部下を裏切るなんてコトはしねえよ」
「……そういうものか」
「そういうもんだ、普段から賞罰はちゃんとしてもらえてんだろ?」
ヒゲおっさんは、がっくりとうなだれつつも、俺の言葉を噛みしめるように肯定する。
メンツもそうだが領主のヤツは金勘定第一だ、24人が帰ってくるなら人的コストが合うんだよ。
どうも聞く限り、領主のクソ野郎は思ったより優秀っぽいが、どうにも元商人のクセが抜けねえってのはわかった。
物事の基準が、とにかく効率と金すぎるってやつだ。
今回みたいなピンポイントな事例ではどうしていいかわからねえが、集団や交渉に対して威力を発揮するタイプだ。冒険者とかマトモに信用してねえんだろうな。
つまり、スラムやそこ出身の俺は効率最悪だから無視されるってことだ、くそったれ。
「……ところで、その。つかぬことを質問してもよろしいか?」
おっさんは、なんとか自分でそれなりに気を取り直して聞いてくる。
こっちも、とくに恨みとかあるわけでもないので聞いてやる。
「なんでも聞きな。領主とは喧嘩してるが、おっさんと仲違いしたいわけじゃねえし」
「その……こんな場所に似つかわしくなさそうな女性は一体?」
「……え、ボク? いやあのその」
いきなり話を振られたヴィーデが慌てだす。
コイツが慌てるってのもなんか珍しいな、振られることくらいはとっくに知ってそうな気もするんだが。
なんにしても、こんな場所に超絶美少女がいたら気になるのはわかる。そういう運命だ。
「あれな、運命の女神様だよ。たまに面倒事持ってきたりもするけど」
俺の26年とかそういう。
1000年と比べてみりゃちっぽけかもしれんが、当事者としては嬉しいもんでもない。
まあ、それはそれで、なんかいいことにつながってるといいなって思うだけだが。
「女神……まあ、それはそれとして、あれほどの高貴な方が、こんな場所で危険はないので?」
おっさんには、ナニゴトもなかったように流された。おのれ。
そりゃ、運命を操るようなやつがそのへんウロウロしてると思わねえから仕方ないけど。
「女神様は大変にすばらしい御方なんでな、そういうのは困らねえんだよ」
運命とか運命とか運命とか操れるようなやつが困ったことにはならねえと思うし、そもそも、どこ行っても大事にされそうだし。
「ああああいやその女神だなんてボクはええとなんていうかそんなんじゃなくて」
……とか思ってたら本人はすごく困ってた。
あー、なんか慌ててたのは、コレがわかってたからだな。
うん。面白いから、女神様はこのまましばらく放っておこう。




