027:ヴィーデの内心
……ああもう、エイヤはなにもわかってない。
自分がどれだけすごくて、普通じゃたどり着かないようなすごいコトを言って、ボクをこんなに震えさせる言葉を紡ぎ出すっていうだけで、それがどんなに素晴らしいことなのか。
賢者の塔や大神官でさえ、いやそういう立場だからこそ、欲にとらわれてボクを利用しようとしたくらいなのに。
誰だって、運命を操れるなんてわかったら「操られたくないか、利用したいか」の二択しかない。ボクは、それ以外の対応なんてされたことがない。
そう思わせないようにだってできなくはないけど、そんなのは、ボクが操った運命でしかない。
あの古竜のゴルガッシュでさえ、ボクと一定の距離を置くっていう選択をしたくらいだ。
「魔神のお前と対等に付き合うには修行がいる、どうすればいいかくらいは教えてくれるだろう?」そう言って、迷宮の守護者として盟約を受けてしまった。
なのにエイヤは、そんなボクを特別扱いしないどころか、まるで普通の女の子かなんかのように扱ってくるし、ゴルガッシュにさえ気に入られるし。
きっと、彼にとってはボクもゴルガッシュも知り合いや友人っていう感覚なんだろう。すごいことだと思う。わかっていてもなかなかできない例なんて、たくさん知ってる。
だいたい、ボクの1000年の悩みを、ちょっとした相談事のようにさくさくと解決していくってだけでも色々とおかしいのに。
あまつさえ「運命なんて誰だって操ってるし、ボクなんかでも、ちょっと人よりできる程度」だって言うし。それどころか、ボクのほうが運命に振り回されてるなんて言ってきた。
ボクが運命に囚われてる、とか指摘されるなんて、大賢者もびっくりだよ……。
そんな事言われたら、本当にボクはただの使い魔になるしかないじゃないか。
運命なんてものを従えておきながら、まるで普通の仲間のように扱うなんて!
ああ……ああ……本当におかしくなってしまいそうだよ。
ボクはこんな自分になるなんて知らなかったし、知らないことがこんなにあるなんて、人間なんかにここまで教わるなんて思わなかった。こんなに普通が尊いなんて知らなかった。
だってボク、魔神だよ? 悪魔とか神とか、それこそいろいろ言われてきたっていうのに。
そんなボクが、唯一操れないキミを1000年待ち続けて、実際にそれが叶ってみれば、どうだ。
ボクでさえ思い通りに出来ないようなことを、当たり前のようにやってのけるじゃないか。
なんでも出来るだなんて偉そうに思ってた、キミと出会う前の自分が恥ずかしいよ。
……どうしたらいいんだい、エイヤ。
ただ、キミの数十年の運命を眺めていられるだけだって最高だったのに。
ボクは、キミの運命のことなんて関係なく、ずっと契約したいよ。




