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運命の悪魔に見初められたんだが、あまりに純で可愛すぎる件について  作者: しるどら(47AgDragon)
第一章

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023:奥の手


 門でチェックされるってなると、次のプランだ。

 クソ領主だがポイントは押さえてきやがる、こりゃめんどくせえな。


「ん……なんでヴィーデちゃんがそういうのわかるかは、美少女は正しいに決まってるからいいとして、どうするのよ。私が交渉してもいいけど、足つくのマズいんでしょ?」


 ヴィーデのことはいいんだ……。

 それはさておき、通ろうとすれば、俺らの存在がどうしたって割れる。

 ユアンナに別の仕事を頼むって手もあるが、そうもいかねえだろうしなあ。ここは順当に行きますかね。いざとなれば、嬉しくはねえけど奥の手もあるし。


「まあな、手はいくつかあるんだが、時間優先で考えて壁超えって方向だな」


「え、それ私は平気だけど、ヴィーデちゃん大丈夫なの?」


「大丈夫だと思うよ。高いところ登るだけだよね?」


 なにか問題でも? って顔のヴィーデ。

 マジで? って顔のユアンナ。

 なかなか対比におもむきがある。


「あ、こいつは大丈夫だぞユアンナ。俺らレベルの体術あるから」


「えええ! やだそれなにもう可愛い!?」


 いやそこ、目を輝かせながら尊みに溺れるところじゃねえと思うんですけども。


「まあ、トップに俺が登れば、あとは問題ねえだろ」


「さっすが頼りになるう。それじゃヴィーデちゃんのコトはよろしく、また後でね~」


 とか言ってさっさと離れようとするユアンナ。


「は? テメエどこいくんだよおい」


「え、領主の屋敷に決まってるじゃない?」


 当然でしょと言わんばかりに、さっさと行こうとするのを捕まえる。

 この女、組んでみると本当に自由気ままで天然だな。


「ちょっと待て。さすがにここで行く理由がわからん」


「エイヤが街を出るんだし、領主も出るって話なんでしょ? だったら街にいない間におもしろいネタ探っとけっていう話じゃないの?」


「……すげえなお前」


 察しがいいっていうか、そりゃ頼みたかった仕事だけどさ。思いついても、おいそれと頼めねえって内容だ。火の粉ぐらい自分で払うから、過保護とかいらねえってやつか。

 ただ、ついさっきまで街を出るっていう話だったのが、このやり取りとノリでそこまで考えが飛んでいくのが天然すぎるだろ……。


「だって私の得意分野は交渉とか諜報だもの。そっち荒事っぽいじゃない? 荒事ならそりゃおまかせするわよ」


 言われなくたって、やらかしたコトは対応して当然でしょ、みたいな顔をされる。

 なんか悔しいので、まったく仕方ねえなって感じで軽くにらみつけておく。ささやかな抵抗だけど。


「せめて、ざっと説明しろよな……」


「ふふ……いまのターンは時間優先なんでしょ? なら、こっちで勝手にやってるから、適当なところでお願いね」


「あいよ」


「それじゃ、ヴィーデちゃんもまたね~~~♪」


「うん、またね!」


 俺のことはほとんど無視で、ヴィーデにだけ笑顔を振りまきながら去っていった。


 まあ、ヴィーデが運動できないなら補助役が必要だが、そうでないなら別行動のが絡め手を打てる。全員まとまってると思われやすい以上、そのほうが有利って話でもある。


 命狙われかねないタイミングだってのに、そこまで計算してすぐ攻めに行くあたり、ダテに副長じゃねえな。なんであの女狐がトラブルになりにくいか、わかったような気がした。


「じゃ、後始末は任せて、俺らは壁越えて戻りますか」


「そうだね、壁登り楽しみだなあ」


 ヴィーデはすっかりほくほく顔だ。

 楽しみって、なにがあるんだコイツ。高いとこ登ったって、夜に景色が見えるってわけでもないしな。


 街の壁は、元は古い城塞都市なだけあってそこそこ高い。

 割りと辺境のくせに栄えてるせいで、それなりに設備にも回す金があるせいだ。

 どっかと戦争するわけでもねえのにな。


 それはともかく、夜に内側から登るやつなんぞ普通はいないので、警備なんてのはないに等しい。もっとも、外から登ってこないかを見張る連中はいる。

 さすがに衛兵の周回タイミングを測るような余裕はない、さっさと行動するに限る。


「俺が先に登ってロープ下ろすから、あとから登ってきてくれ。コツはこんな感じだ」


「うん、だいたい真似すればいいんだよね?」


「おまえさんの体力と動きなら、ロープさえありゃどうにかなるからな」


 俺のほうは、城壁として積み上げた石の隙間に手を突っ込んでガシガシ登って行けばいいだけだ。風が強い日でもなければ、この程度の高さなんざ城に比べりゃどうってことない。

 速度重視で勢いよく上まで到達すると、ロープを下ろす。魔法で強化された、細くて軽い特別製だ。

 下でヴィーデがロープを握ったのを確認して、引きの準備をする。


 ありがたいことに、2つの月も、朱月が四半月で黄月は三日月。完全な真っ暗じゃねえし、明るすぎもしない。

 視界もあるし、一度コツをみせたせいか、思ったよりスムーズに登ってきた。


「おまたせ。本当にエイヤはすごいな、こんなところを素手で登るなんて」


「そうでもねえよ。むしろすげえのはヴィーデのほうだって」


「そうかい? ボクは単に、キミのすべてが新鮮で楽しいだけだよ」


 まったく、師匠を慕う弟子みたいにあどけない顔しやがって。

 こっちはさんざん訓練して鍛えてやっとこれだってのに、ほぼ初見でこれだからな。


「普通、そこまであっさり登ってくるものじゃねえんだけどなあ」


「ボクは、エイヤに余計な面倒かけたくないだけだよ」


「……シッ!」


 声を止めるよう合図する。

 クソッ! まだ遠いが、城壁の上を周回する兵士が出てきやがった。

 ヴィーデの速度を考えると降りるまでに間に合わねえな、これは。


「ふふ……」


 ヴィーデが、なにやら嬉しそうに俺の行動を待っている。

 あああ、マジか、マジなのか。こんなところで奥の手やれってのか。


「……やりやがったなヴィーデ。まさか、アレをやれってことか?」


「そうだよ、見つからないよう一気に降りるならそれしかないだろう?」


 ヴィーデが甘えるように手を広げて近づいてくる。


「ボク、こういうのずっと楽しみだったんだ」


 すべてお見通しどころか完全にハメられたってやつだ、ちくしょう。

 これは一本取られた。運命ってやつはほんとにクソだな……全部わかっててこうしやがったってやつか。


「……たしかに、ここでアレを使うってのは誰も不幸にしねえ運命の使い方だよなあ」


「見てるだけじゃなく、作れって言ったのはキミだろう? さ、時間もないんだし」


 彼女の言う通りだ。思い切ってやっちまえば、いろいろと早いのは間違いない。

 くっそこの小悪魔め、悪いこと覚えやがって……教えたの俺だけどさ。


「あー、わかったわかった。やりゃいいんだろう、しっかりつかまってろよ? フォローしねえからな、まったく……」


「わぁい!」


 ヴィーデをお姫様抱っこ的に抱きかかえると、そのまま城壁の端に立つ。

 で、肝心の本人はすげえ満面の笑みで嬉しそうでやがる……まったく毒気抜かれるぜ。


「じゃあ、いくぜ?」


 俺はそのまま彼女ごと、壁の上から空中に身を躍らせた。

 もちろん、自由落下じゃない。


 ――背中の【黒い翼を広げて】だ。


 そのまま、落下の速度を利用して滑空する。

 衛兵に気付かれないよう一気に離れるには、翼で飛んじまうのが最高だし、たしかに城壁超えで手間取った分を楽に取り戻せるんで、出し惜しみさえしなければ最適とも言える。


 これは、黒鷲の二つ名がついた由来のひとつだ。


 俺が純粋な人間じゃなく、亜人だか魔族だか魔物だかよくわからんが謎の混血生まれだってのは誰にも言ってねえ秘密だ。そもそも、バレたらひどい目に合うし、おいそれとひけらかすモノじゃねえ。

 だが、ソロなら状況次第で気兼ねなく使える。おかげで、現場にでけえ黒羽が落ちて、羽を残すのは俺のトレードマークみたいな話になったってやつだ。


 幸い、人に見えないようにしまえるのが便利だが、友人どころかパーティだって超絶作りにくいったらありゃしねえ。

 万が一、背中に変なケガしようもんなら、こんな珍獣、一発でバレて人生破綻する。

 人間ってやつは無意識のうちに、気に入らねえモノや異質なものを嫌うんでな。 


 世間じゃ、羽の生えた混ざりモノなんざ見たことねえし、どうせ見世物小屋に売り飛ばされるのが関の山なんで、使い勝手はともかく嬉しいもんじゃない。


 ヴィーデにもゴルガッシュにもバレバレだったみたいだけどな、ちくしょう。


「すごいねえ、エイヤ。ボクは空なんか飛べる日が来るなんて思わなかったよ」


 俺にぎゅっとしがみついたままのヴィーデが、満足そうにごきげんな口を開く。

 こいつにとっちゃ、ほとんど全部が初体験なうえに、なんでもありと来てやがる。


「俺のほうは、こんなあっさり披露する日が来るなんて思わなかったよ……まったく、しっかり状況作りやがって」


 ただ、できれば爆発する塔から逃げるとか、もうちょっとロマンのある状況がですね。

 人生って、なかなか思うようにいかない。


「その……怒ったかい?」


 おそるおそる聞いてきたが、ゴルガッシュの件で怒られなかったせいか、前回よりビクついてないのはいい傾向だ。実際こうして運命を仕掛けられてみるとすげえとは思うけどな。

 この、清純派小悪魔系ボクっ娘魔神め。属性多すぎだっての。


「いいや、これ褒めるところだろ? おまえさんがやりたいようにやったんだ、いい記念じゃねえか」


 しかも、こいつの場合は俺のためを思ってだ。なんの考えもなしにやるわけがねえ。

 そこに、ちゃっかり自分の利益を入れるようになったってのは、ヴィーデにとって喜ばしい成長に決まってる。いいことはめでたいに決まってる。

 あとは、俺の度量が試されるだけだ。ぐぬぬ。


「……ありがとう。ボクは、その翼は好きだ」


 ふいに、ヴィーデが、俺の首に回した腕にきゅっと力を込める。


「だから、ボクはキミにも、その翼を嫌いなだけで終わってほしくないって……そう思っただけだよ」


「ぐふっ!?」


 ぐおおおお、なんでそこでそういうセリフを言ってくれますかこのあけすけ魔神は!?

 人のトラウマ捕まえて言うことが【好き】とか【嫌いにならないでほしい】とか、お姫様抱っこされた状態で心底ガチの思いやりだけで言われたら、こそばゆさ限界クリティカル。


 むしろ、これ言うのが目的だったんじゃねえのかって思えるぐらいですよ?

 どう考えてもやばくてやばいだろそれ! もどかしさでかゆい、マジ悶絶したい。


 だって、これっぽっちも人間扱いしてもらえない人生のクソ案件ですよ。それを、いきなり最高大好き扱いされてみろ。そんなの、誰だっておかしくなるのなんて確定じゃん……うごご。


 ……しかも、あらためて具体的に考えてみればですよ。

 仕方ないとはいえ、超絶人外美少女にめっちゃ抱きつかれながら密着されて、甘く優しく囁かれるランデブー状態じゃねえですかこれ!?

 その上、ぎゃあああやべええええええって思っても、どうしようもなく腕も滑空姿勢も崩せねえ状態どころか、ヘタに気を抜いたら失速墜落するやつですよ!


 なにこの生殺し状態。死ぬ、死ぬって、鎮まれ俺、ステイ、ステイッ!!

 ああ……なんつうかもう、さっきからずっと顔が真っ赤になってる気がするんだけど、暗いし正面向いてりゃバレねえよね? バレてねえですよね?


 うん……その後、ナニゴトもなかったかのようにキレイに着地を決めた。はず。


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